【ピアノ】楽譜におけるルッキズムとの付き合い方

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【ピアノ】楽譜におけるルッキズムとの付き合い方

► はじめに

 

楽譜に対するルッキズム(外見至上主義)とうまく付き合うことができれば、真っ黒な譜面とも、真っ白な譜面とも、良い距離感で関われるようになります。

本記事では、楽譜の見た目に惑わされない譜読みの視点を考えていきます。

 

► 楽譜のルッキズムを超える姿勢

 

楽譜におけるルッキズムに関しては、以下の2つを意識しましょう:

・真っ黒だからって、怖がらない
・真っ白だからって、油断しない

 

‣ 真っ黒な楽譜の実態、真っ白な楽譜の落とし穴

 

戦後の現代音楽以前の有名なピアノ作品で言うと、ラフマニノフやスクリャービンの楽譜はたいてい真っ黒です。昔は、生意気ながらも「こんなにいっぱい音を書いて、本当に耳を使っているのだろうか」などと思ったりしたこともありましたが、学習が進むにつれて、そういった作品の良さも分かるようになりました。

彼らは優れたピアニストでもあったからこそ、時々一種の速弾き的要素も見えるような譜面を書きました。音は多くても奏者の視点が入っているので、弾きやすく仕上がっているものが多いのです。真っ黒ながらも、各音の役割分担を分析してみると、意外とシンプルな要素に集約されているものが大半で、「真っ黒という理由だけでは、怖がる必要はない」という印象です。

古典派ソナタなどの緩徐楽章が真っ黒なのも、テンポが緩やかだからこそたくさんの音が入るということです。拍を整理したうえで丁寧に譜読みをしさえすれば、まったく恐れる必要はありません。

 

反対に、真っ白だからといって油断できません。些細な表現の色やテンポの転びなどが全て露呈されてしまいますし、繊細さが求められ、技術的にも予想以上の難しさがあります。

 

要するに、真っ黒でも真っ白でも「常に新鮮味をもって新しい作品へ向かおうとする姿勢が大事」ということ。やってみないと何も分からないので、やる前からルッキズムで「待った」をかけたり、油断をしてはいけません。

 

‣ 楽譜の見た目で安直な判断をしない

 

飛躍しますが、1998年に放送されたテレビドラマ「GTO」に以下のようなセリフが出てきます。

「人を見た目で判断するな」

登場人物である不良の男子学生へその母親が怒ったときに言ったセリフです。

楽譜に置き換えてみると、「楽譜を見た目だけで判断すると、もったいない」ですね。当然、楽譜の見た目からくる緊張感などは大事で、だからこそ作曲家のこだわりが見えるわけですが、「真っ黒だからやめとこ」みたいな安直な判断をするのはもったいないと言えるでしょう。

話を聞いていると、こういった判断をしている学習が想像以上に多くて驚かされます。

 

► 楽譜から速度を読み取る技術

 

ただし、速度表示が書かれていなくても、楽譜からおおよそのテンポを予測できるようになることは、譜読みの力として重要です。試しに、速度指示を隠した例を見てみましょう。

 

ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37 第2楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、58-59小節のピアノパートのみ)

仮にこの作品を知らなかったとして、譜例を見たときに、おおよそのテンポを想像できるでしょうか。「細かい音符があるのでテンポが速そう」などと思ってしまうと、早とちりです。128分音符が多く書かれていて、それをAllegroやPrestoで演奏できるはずがありません。

実際は、Largoです。テンポが緩やかだからこそ、たくさんの音が入る。その結果、真っ黒になる部分も出てくる。

こういったことを、速度指示が書かれていなかったり、音源がほとんど存在しないような作品に取り組むときには、演奏者が判断していかなくてはいけません。

「予想した速いテンポで弾けなかったから遅くする」ではなく、初見の状態からできる限り正確に読み解けるように譜読みの学習を積み重ねておきましょう。

 

譜読みの具体的な学習方法については、以下の記事を参考にしてください。

【ピアノ】譜読み力を劇的に向上させるための完全ガイド 72のポイント

 

► 終わりに

 

多くの名曲は、一見した印象とは異なる奥深さを持っています。真っ黒な譜面に臆することなく、真っ白な譜面を甘く見ることなく、常に新鮮な気持ちで作品に向き合いましょう。そうすることで、より様々な時代や様式の音楽を迎えることができるようになります。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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