【ピアノ】装飾音の書き譜:実例と演奏のポイント
► はじめに
本記事では、モーツァルト、ショパン、シューマンなどの実例を通して、書き譜化された装飾音の演奏ポイントと、自分で書き譜化する方法について解説します。「見える化」されている装飾音に気づいて演奏のヒントにしたり、されていない装飾音を自分で「見える化」することで、より音楽理解の深い演奏を実現しましょう。
► 装飾音記号の歴史的背景
17〜18世紀の音楽では、作曲された楽譜に対して、演奏家や弟子たちが装飾を加える習慣がありました。この際、旋律を細分化するために鉤型などの特殊な記号が使われるようになったのです。
興味深いことに、J.S.バッハは装飾記号も使用しましたが、実際の音符で書き譜にすることも多かった作曲家として知られています。この時代の装飾記号は省略可能とされていましたが、書き譜である以上、「必ずその動きが必要」という作曲家の意思が見えます。
時代が近現代に進むにつれ、作曲家が演奏の細部まで指定する傾向が強まり、書き譜の割合が増えていきました。
► 書き譜化された装飾音の実例と演奏のポイント
‣ ターン
モーツァルト「ピアノソナタ ハ短調 K.457 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、23-26小節)

譜例の23小節目と25小節目では、ターンが32分音符として明確に書かれています。
演奏時の注意点:
・32分音符の最初の音を強くぶつけてしまいがちなので注意する
・装飾はメロディの流れを妨げるものではなく、自然に組み込む
‣ プラルトリラー
ショパン「ワルツ 第6番 変ニ長調 Op.64-1(小犬)」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、20-22小節)

この作品では、プラルトリラー記号と、同様の動きをする3連符(カギマークで示した部分)が使い分けられています。
演奏時の注意点:
・ショパンが意図的に書き分けた3連符は、そのリズムで演奏する
・わざわざ書き分けられていることに配慮し、装飾記号との違いを明確に表現する
‣ トリル
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-12 サンタクロース」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

曲頭からトリル音型が登場します。
演奏時の注意点:
・フォルテ( f )であっても、すべての音を力強く弾かない
・トリルはあくまで「持続」であることを意識し、アクセント記号のある音以外は控えめに
ショパン「ポロネーズ 第7番 Op.61 変イ長調 幻想」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、200-201小節)

この作品では、書き譜トリルと記号トリルが併用され、段階的な加速が表現されています:
・16分音符 → 16分音符6連符 → トリル記号という流れでアッチェレランドを表現
・トリルから書き譜トリルへの移行部分で音楽が途切れないよう注意
► 自分で書き譜化する重要性
J.S.バッハ「インヴェンション 第4番 BWV775」
譜例(PD作品、Finaleで作成、16-18小節)

上側の譜例が実際の記譜であり、プラルトリラーが記号で書かれています。バロックから古典派の作品では、下側の譜例のように、装飾音を実際の音符として書き出しておきましょう。
書き譜化のメリット:
・演奏の一貫性:毎回違う弾き方になるのを防ぐ
・練習の効率化:明確な指標があるため練習が積み重なる
・難易度の低減:他声部との噛み合いが明確になる
・丁寧な演奏:一音一音を意識的に捉えられる
特に中級レベルまでの学習者は、記号のままだと曖昧に扱いがちです。「見える化」することで、より精密な演奏が可能になることを理解しておきましょう。
ロマン派以降の装飾音
ロマン派以降の作品では、アゴーギク(テンポの揺れ)に解釈の余地があり、装飾音にも自由度が増します。しかし、基本的な原則として装飾音を書き譜化できる能力は、すべての時代の作品演奏に役立ちます。
► 終わりに
装飾音の理解と適切な演奏は、ピアノ上達の重要な要素です。
・装飾記号と書き譜の違いを理解する
・書き譜にされた装飾音を見たときに、それに気づけるようになっておく
・装飾記号と書き譜を書き分けた作曲家の意図を読み取る
・必要に応じて自分で書き譜化する
・流れを妨げない自然な演奏を心がける
これらのポイントを意識することで、より音楽的で説得力のある演奏が実現できるでしょう。
装飾音関連の基本については以下の記事にまとめています:
・【ピアノ】装飾音符の基礎知識:「演奏タイミング」に焦点を当てて
・【ピアノ】装飾音符の基礎知識:「上からか下からか」に焦点を当てて
・【ピアノ】モーツァルト作品の装飾音の演奏解釈と歴史背景
・【ピアノ】トリル演奏:音楽性を損なわない重要ポイント
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