【ピアノ】「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」(島岡譲 著)レビュー
► はじめに
本記事では、ピアノ学習における音楽理論の理解を深めるのに役立つ伝統的書籍「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」を紹介します。
わずか111ページというコンパクトなボリュームながら、古典音楽で使用されるほぼ全ての和音と、代表的な音楽形式を網羅的に解説している一冊。基本的な楽典の知識があれば理解できる、楽曲分析の入門書です。
・出版社:音楽之友社
・初版:1964年
・ページ数:111ページ
・対象レベル:初級〜中級者
・和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで 著:島岡譲 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 日頃のピアノ学習にも直接活用できる実用的なアプローチ
本書の最大の魅力は、実際にピアノ学習者が取り組む楽曲(バイエルからソナタアルバムまでの重要作品)を題材に、和声と楽式の基礎を学べる点です。著者の島岡譲氏は、有名な「和声 理論と実習」三色シリーズの執筆責任者でもあり、本書はその簡易版とも言える内容で流れを汲んでいます。
2. コンパクトながら最低限の知識を全解説
わずか111ページというコンパクトな書籍ながら、古典音楽で使用されるほぼ全ての和音と、代表的な音楽形式を網羅しています。簡易的な「楽式分析一覧表」も付いており、ソナチネアルバムⅠ・Ⅱ、ソナタアルバムⅠ・Ⅱの代表的な曲の楽式分析が一覧できるため、実践的な参考書としても優れています。
3. 理論と実践の橋渡し
本書は、ピアノの実技練習と並行して読み進めることで、次第に楽曲への理解を深められるように設計されています。実際の音楽作品との関連付けを重視しており、理論が実際の音楽でどのように使われているのかを学べます。
‣ 本書で学べる内容
本書では、和声と楽式について以下のような内容を学ぶことができます:
和声に関する内容(抜粋):
・和音の基本と分析方法
・非和声音の種類と働き
・カデンツの型と機能
・近親調と転調
・借用和音
・偶成和音
・その他、古典音楽で使われる様々な和声技法
楽式に関する内容(抜粋):
・2部形式と3部形式
・複合3部形式
・ロンド形式
・ソナタ形式
・変奏曲
・各種演奏形態におけるソナタ
► 大人のピアノ学習者にとっての使用メリット
1. 和声学習の敷居を下げる
「和声 理論と実習」の三色シリーズは有名ですが、分量が多いうえに、専門の指導者いないと学習しにくく、ハードルを感じる方も多いでしょう。本書は同じ著者による、より簡易的でアクセスしやすい内容となっています。基礎的な和声の知識を身につけたい方にとって、最適な入門書と言えます。
2. 非和声音への理解を深める
大きな推しポイントなのですが、本書では非和声音について譜例付きで詳しく解説されています。非和声音の役割を理解することは、楽曲理解や演奏表現に大きく影響します。インターネット上の断片的な情報に頼るよりも、信頼できる出典からしっかりと学ぶといいでしょう。
3. 楽曲分析の力を養う
バイエル、ブルグミュラー、ソナチネアルバム、ソナタアルバムなど、多くのピアノ学習者が取り組む楽曲を対象に解説されているため、根本的な分析力を向上させると同時に、今取り組んでいる作品の構造や和声進行を理解する手助けになります。
4.「浅めで広い」知識が得られるとっつきやすさ
非和声音に関してもそうなのですが、「和声 理論と実習」の三色シリーズでは最終巻の途中まで進まないと解説されていない様々な内容まで、シンプルな譜例で分かりやすく解説してくれています。この点も魅力と言えるでしょう。
► 学習上の留意点
著者自身が「はじめに」で述べているように、本書は基本的な楽典の知識があれば理解できる内容になっています。しかし、和声の本格的な学習をするためには、「より専門的な教科書を使って課題を解き、それを力のある個人指導者に赤入れしてもらい…」という積み上げ式の過程が本来は必要だということは踏まえておき、導入のガイドとして考えておくといいでしょう。「楽曲分析に役立てたい」「よく使われる和音の知識を得たい」という目的に特化した内容であり、和声学の深い内容までは扱っていません。
また、ロンド形式と複合三部形式の相違点の解説が、別の名著「楽式論 著:石桁真礼生 / 音楽之友社」とやや異なる点も注意が必要です。
► まとめ
このコンパクトな一冊は、演奏技術の向上と並行して、音楽理論の理解も深めたい方にとって有益な教材です。
特に、以下のような方におすすめします:
・ピアノを独学で学んでいて、楽式や和声について理解を深めたい方
・非和声音の学習をネット情報に頼っている方
・和声学習に興味があるが、本格的な教科書は敷居が高いと感じている方
・今練習している作品をより音楽的に演奏するためのヒントを得たい方
本書を活用することで、楽曲分析力を高める新たな視点が得られるでしょう。本格的な音楽理論の学習に進む前の最初の一歩としてもおすすめできる一冊です。
・和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで 著:島岡譲 / 音楽之友社
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