【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.333 全楽章」演奏完全ガイド
► はじめに
曲の背景
このソナタの作曲時期については諸説ありますが、様式的な特徴から判断すると、モーツァルトのパリ時代に近い作風を持つ作品です。優雅で流麗な旋律線は、フランス的な洗練された雰囲気を湛えており、この時期の他のソナタと比較しても際立った魅力を放っています。全体は伝統的な3つの楽章で構成されています。
(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社)
演奏難易度と推奨レベル
この楽曲は「ツェルニー40番中盤程度」から挑戦できます。
本記事の使い方
この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。
各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。
► 演奏のヒント
‣ 第1楽章
· 楽曲構成とテンポ設定について
楽曲構成
ソナタ形式
・提示部:1-63小節
・展開部:64-93小節
・再現部:94-165小節
テンポ設定について
目標テンポ:♩= 124
· 提示部:1-63小節
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-2小節)

第1主題の提示:
・曲頭では、レッド音符で示したように「Fa Re Si」という軸の音がある
・これは実は、第3楽章の開始のメロディでもある
・他にも第3楽章で第1楽章のメロディの断片を引用していたりと、この楽曲では関連性が多く見られる
声部バランスとフレーズ処理:
・曲頭は両手の音域が近いことを意識して、メロディと伴奏の音量的弾き分けを強く意識する
・2小節目の頭のメロディF音は、「曲開始〜2小節2拍目」というワンフレーズ中で最も重みの入る重要な音
・そして、次のEs音は大きくならないようにおさめる
・ここまでを一息で弾く
譜例(1-4小節)

メロディの音価によるフレーズ判断
・素材の繰り返しを見ると、カギマークで示したように4つの部分に分けられる
・大きな意味でのフレーズは長く、曲頭から4小節3拍目まで
何を参考に判断しているのかというと「メロディの音価」です:
・1〜3回目までは付点4分音符で次へつなげている
・4回目のみ「4分音符+8分休符」で区切りをつけている
これらを参考にすると、「4分音符+8分休符」のところまでは1回1回終わらせた印象にならずに大きな流れをもって弾くべきだと判断可能です。
アウフタクトの特徴、3度音程のハモリ:
・1-4小節を見ると、2小節ごとに16分音符によるアウフタクトが繰り返されているという特徴がある
・4小節1-2拍目のみ、3度音程のハモリになっているため、メロディが埋もれないように
聴かせる音と隠す音の見分け方:
・5小節目のメロディはシンコペーションになっている
・通常は長い音価へ重みを入れるが、ここでは、スラーを考慮し、1拍目と3拍目の頭の8分音符に重みを入れる
・4分音符は強くならないように注意する
リズムやカデンツ演奏の注意点:
・8小節1拍目のような「8分音符+16分音符」のタンタタのリズムは、8分音符が短くなってしまいやすい
・1-10小節で一つの大きなまとまりだが、9-10小節のカデンツが一番音楽的には強い表現になる
・カデンツを堂々と弾き終えて、10小節4拍目の新たな部分から音楽をガラリと変える
譜例(11-14小節)

運指
・11-14小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
繰り返しを音楽的にするヒント:
・15-16小節では、メロディの断片が3回繰り返されています。る
・3回目の始まり(16小節3-4拍目)では少し大きめの表現にして変えるのを推奨
伴奏部分の処理:
・15小節目からの左手の動きのように「行って返って」を繰り返す音型は重くなりがちなので注意する
・また、各拍の頭の音が重要なので、裏の音はコブを作ったように大きく飛び出ないように
2音1組の音型:
・17小節目のメロディも、スラーを考慮する
・つまり、2音1組のはじめの音に重みを入れて、後ろの音を控えめに弾くとニュアンスが出る
軸の音の見極め:
・18小節目の右手は、各拍頭の「Mi Fa So La」が重要で、それが、次の小節の「Si」までつながっている
・すべての16分音符を強く弾こうと思わず、「各拍頭の音を弾いた動作のついでに他の音も弾く」イメージで
・そうすると、楽に弾けるうえ、出てくるサウンドが音楽的になる
・20小節目も同様に
譜例(21小節目)

装飾音の奏法
・21小節目の装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(23-24小節)

23小節目からは、第2主題です。
運指やペダリング
・23-24小節の運指やペダリングは、楽譜の書き込みを参考に設定する
シンコペーション:
・25小節目のメロディは、5小節目のようなシンコペーション
・「Fa」の音を歌うイメージを持つ
反行による閉じ:
・26小節目では、フレーズが終わるとともに、上段と下段の音型が反行しており、音楽が閉じている
・これらのような閉じていく部分では、基本的にダイナミクスも閉じていくように演奏する
トリルの処理:
・音楽が閉じているため、その最中にある tr は繊細に弾く必要がある
・tr では、その一種の困難さから、はじめの音にアクセントがついてしまいがちなので注意する
鎖のつなぎ目:
・31小節目の左手に出てくる4分音符はつなげずにノンレガートで、置いていくようにタッチする
・1拍目の音は前の16分音符パッセージの終わりの音であり、31小節目からの始まりの音でもある
・「鎖のつなぎ目」のような音
譜例(35-38小節)

運指や装飾音の奏法
・35-38小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(37-38小節)

対旋律的要素の理解:
・38小節目のように、同じ音に停滞する部分と動いている部分とが同居している箇所は、大抵、2声的な書法
・対旋律的要素が隠れている可能性が高い注目ポイント
・動く音は「聴こえて欲しい音」(対旋律的要素)
・それ以外の留まっている音は「響きに隠したい音」
・メロディが動いていないところに出てくる対旋律的要素は、少し強調すると音楽的な演奏になる
・メロディが動いていないのにも関わらず、ただの伴奏が鳴っているだけだと、物足りなく感じてしまう可能性がある
・それを対旋律的要素で補っているという作り
斎藤秀雄氏の教え
「斎藤秀雄 講義録(白水社)」という書籍の中に、以下のような文章があります:
バッハのヴァイオリン・ソナタを見ると非常によく分かるんだけれど、ヴァイオリン・ソナタというのはソロ・ソナタといって独奏ソナタだけれども、あの中には伴奏の部分がいっぱい入っているんです。ハーモニーを分からせる部分が、そのために書いてある音が。それをどれもこれも1本の線にして全部メロディーだと考えるのは間違いじゃないかという考えが出てくるわけです。
・この内容は「バロック時代のソロ作品」で顕著
・一方、他の時代の様々なタイプの作品を理解する際にも非常に有益な考え方
推奨記事:【ピアノ】「斎藤秀雄 講義録」レビュー:学習者必読の特徴と印象的な教え
譜例(39-40小節)

fp のニュアンス:
・39小節目の fp はやり過ぎないほうが曲想に合う
・41小節目など共通している部分は、すべて同様に
アーティキュレーションをサポートするペダリング:
・譜例で示したように、アーティキュレーションのスラーがついている箇所で、チョンとダンパーペダルを踏む
・そうすることで、ニュアンスをサポートすることができる
・このケースの場合、ダイナミクスとして多少強調したい部分(fp )が一致している
・したがって、ビートを出すかのようにダイナミクスをサポートする役割もある
表情の差:
・39-42小節は、これまでとは少し異なった諧謔的とさえ言える明るい表情が出てくる
・43小節目へ入ったときに、しっかりと対照性を感じて弾く
譜例(43-44小節)

ペダルなしでのオクターヴ連結テクニック
・ここではオクターヴのメロディが連続する
・43小節目のそれは、スラーが書かれていないため、つなげる必要はない
・テヌートがついているイメージで演奏する
・一方、ヘンレ版などの原典版では44小節目にはスラーがついている
・レガートでつなげたいが、ペダルを使うと左手で演奏する音の濁りが気になる
・テンポがAllegroなので、つなぎだけ補助的に踏むのもギクシャクする原因になってしまう
解決策は、意外にもシンプルです。以下のように弾いてみましょう:
・上のオクターヴは4-5でつなげる
・下のオクターヴは親指をすべらせてつなげる
・黒鍵のオクターヴから白鍵のオクターヴへの連結だからこそできるテクニック
黒鍵から白鍵へつなぐポイント:
・黒鍵から白鍵へつなぐ場合は、たとえ短2度”下行”する場合であっても、右手の4-5という運指が有効に使える
・それほど手をひねる必要もない
・加えて、黒鍵から白鍵へつなぐ場合は、親指を滑らせてレガートに弾くことも可能
・したがって、これらを組み合わせれば、オクターヴの連続をペダルなしでもレガートに連結できる
譜例(50-53小節)

運指
・50-53小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
繰り返しの中の変化と演奏ポイント:
・50小節目からは、メロディの断片が3回繰り返されている
・3回目は51小節1拍目裏から始まる
・3回目は息が長くなっており、一気に53小節目のカデンツまで進むことを理解する
・また、50小節1拍目と3拍目、および、51小節1拍目のような着地点が強くなってしまわないように
・各素材の終結点にあたるこれらの箇所が強くなってしまうと、フレーズが分からなくなる
・レッド音符で示した「軸となる音同士の順次進行の動き」をバランスよく演奏する
繰り返しへの反応と多声への意識:
・54小節目からは繰り返しだが、音域が上がっているため、50小節目からの部分との差を感じて弾く
・55小節3-4拍目の右手も2声的な書法になっている
・動く音を聴かせて、留まっているF音は大きくならないように注意する
・60小節目の左手のような拡大された形でも同様に
譜例(57-58小節)

フィンガーペダルの使い分け:
・57-58小節の左手には、典型的なアルベルティ・バスが出てくる
・速度のある曲中で行われる16分音符のアルベルティ・バスでは、バスをフィンガーペダルで残す必要はない
・残さないほうが軽さが出るため、少なくとも、この楽曲の性格やテンポには即している
・1音1音があっという間に通り過ぎていくので、ゆったりとしたテンポのときのような音響の希薄さは感じない
・また、フィンガーペダルを使わないことで小指のバウンドをバネに出来るので、弾きやすくもなる
同音連打を音楽的に:
・61小節1拍目のメロディのように、同じ音を2連打する箇所では、後ろの音のほうが少し弱くなるようにする
・「同じ高さの音を同じ音量で2つ並べない」のが、音楽的な演奏のコツ
テンポの処理:
・63小節目では、少しだけ rit. しても構わないが、やり過ぎるとこの楽章の最終小節と差がつかなくなってしまう
・まだ音楽が続いていくことを踏まえて、少しだけにしておくことを推奨
・もちろん、62小節目からテンポをゆるめてしまうと音楽の方向性が見えにくくなるので避ける
· 展開部:64-93小節
譜例(64-70小節)

展開部の開始:
・64小節目からは、展開部
・「提示部 第1主題」の展開から始まる
・ここでも提示部のときに解説したように、「♩. と♩の使い分け」が見られる
・それによるフレーズ構造の理解と、音価の違いの弾き分けを意識する
音価の違いによる方向性:
・譜例でカギマークで示したように、同じ音型が3回反復されている
・この部分のメロディをよく読んでみると、ただの繰り返しではなく、3回目の終わりの音価が異なっている
・1回目と2回目は8分音符で終わるが、3回目は4分音符になっていることに着目する
・8分音符の1-2回目は、3回目よりも軽さを感じる
・したがって、1回目から3回目へ向かっていくように弾くと音楽の方向性が見えやすくなる
譜例(71-74小節)

隠されたウタとシンコペーション:
・71-72小節の16分音符によるメロディは、ただの音の羅列にならないように注意が必要
・16分音符の連続の中からおいしいウタが隠されている部分を見つけて、表現してあげる
・こういった「おいしいウタ」というのは、大抵、拍と拍とのつなぎ目に隠されている(実線カギマーク参照)
・点線カギマークで示した部分では、メロディがシンコペーションになっている
・こういった部分では、音楽が縦割りにならないように注意する
・ただ刻んでしまわずに「横の流れ」の意識を持って演奏することが大切
・この楽章では提示部でもシンコペーションが使われてきたため、関連性があると考えられる
・79-80小節のメロディでも、さりげなくシンコペーションが顔を見せる
譜例(81-82小節)

運指とウタの表現
・81-82小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
・82小節3-4拍目でスラーがかかった8分音符が出てくることで、ふとウタの表現になることを読み取る
ダイナミクスや音価ニュアンス:
・83小節目からの繰り返しは、音域が下がるために普通に弾くだけでも差は出る
・一方、ダイナミクスを1段階落とす解釈もよく行われている
・85小節目のスタッカートがついていない8分音符は短くなり過ぎないように
和音連打の処理:
・87小節目から出てくる左手の和音連打は、鍵盤のすぐ近くから打鍵することで音を揃えることができる
和音にアルペッジョがついたようにバラけてしまう場合は:
・いったん鍵盤を底まで打鍵した後にステイし、力を抜く
・そのときの手の形と指先の感覚を覚えておく
その他の諸注意:
・89-91小節に出てくる左手のGes音は、F音に解決する重要な音
・よく聴きながら演奏し、解決するF音よりも小さくならないようにする
・90-92小節の16分音符は、音の上行下行などの運動性をよく意識し、機械的にならないように
・93小節目では、2-3拍目で少しだけテンポをゆるめて、4拍目からa tempoにする解釈が広く行われている
· 再現部:94-165小節
94小節目からは、再現部です。基本的な注意点は提示部と同様ですが、調性が異なる箇所があるので、運指を中心に解説していきます。
譜例(106-107小節)

運指
・106-107小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(131-134小節)

運指や装飾音の奏法
・131-134小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(147-150小節)

運指や装飾音の奏法
・147-150小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
多声的な書法の処理:
・147小節目からは、右手にも左手にも、停滞する音と動く音が出てくる
・動く音同士のバランスに注意し、いきなり一つの音だけコブを作らないように注意する
譜例(152-155小節)

運指
・152-155小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(161-162小節)

運指
・161-162小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
‣ 第2楽章
· 楽曲構成とテンポ設定について
楽曲構成
ソナタ形式
・提示部:1-31小節
・展開部:32-50小節
・再現部:51-82小節
テンポ設定について
目標テンポ:♪= 86(最終的には4分音符単位で捉える)
32分音符が無理なく入るテンポで演奏しましょう。
· 提示部:1-31小節
譜例(1-2小節)

曲頭のメロディとペダリング
・曲頭では、発音した後に踏み込む「後踏みペダル(シンコペートペダル)」を使う
・譜例で示したように、各発音の丁度真ん中のタイミングで踏んでいくのがポイント
そうすることで、以下の利点があります:
・前の音をペダルで拾ってしまう恐れがない
・手と同時にペダリングでもリズムをとっていくことができる
・特に、原曲が4分音符のところを2分割する1小節1拍目や2小節目全体は、このリズム取りが有効に使える
実用性について:
・ただし、Andanteのテンポで8分音符を2分割する1小節2-3拍のやり方が細かさの限界だと思っておく
・これよりも細かい音価や速いテンポで丁度真ん中のタイミングでの踏み替えを狙うと、むしろギクシャクする
メロディのバランス:
・曲頭のメロディは3度音程で彩られていて美しいが、バランスに注意が必要
・メロディのほうが少し大きめに聴こえるようにバランスを作ると、はじめて美しく聴こえる
・ハモリも同じ音量で弾いてしまうと、メロディが聴こえにくく感じてしまう
4小節1拍目から2拍目への移り変わり
・B音が同音連打するため、1回目のB音を発音してからペダルを踏み込んで連打の音響断裂をサポートする
注意が必要な音価:
・2拍目のB音は4分音符であることを忘れずに、短くならないように注意する
・この小節では、3拍目で右手のメロディが無伴奏(ソロ)になる仕掛けになっている
・4分休符の始まる位置をきちんと守ってあげる必要がある
軽さの維持:
・4小節目の32分音符の動きは、一生懸命になり過ぎず、軽さを維持する
・この楽章では、このような細かな音価が度々出てくるので、同様に考える
音楽の閉じ:
・6小節目は1拍目から3拍目へ向けてメロディが下行し、バスが上行する
・このように音楽が閉じているため、3拍目が強くならないように
・そして、3拍目のメロディEs音から改める
偽終止の意味:
・6小節3拍目は偽終止と言われ、2拍目のEs-durのⅤ7がⅠへ行かずに、Ⅵへ行っている
・これにより、段落感をつけないようにし、8小節目の頭のEs-durのⅠが活きるように設計されている
譜例(7小節目)

運指や装飾音の奏法
・7小節目の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
左手の分散和音:
・8小節目からは、左手は分散和音系の伴奏になる
・緩徐楽章で開始数小節の後にこのような伴奏形へ入るのは、モーツァルトが他のソナタでも取り入れている
・伴奏形としては、多声で捉えるべきもの
・各拍頭で鳴るバス音を少し聴かせて、他の音はバス音よりも大きくならないように響きの中へ隠す
メロディの処理:
・10小節2拍目表のメロディB音は、強くならないように
・前からのフレーズをこのB音で終わらせるため、おさめる
・12小節1拍目のメロディは、装飾音や32分で彩られている
・こういった装飾音では、そのはじめの音を強く弾いてしまいがちなので注意する
第2主題の導入:
・14小節目からは、第2主題
・14小節1拍目の装飾音は、拍の前に出さずにバスのB音と同時に弾くのが慣例
・2拍目の32分音符は重くならないように、「通り過ぎるだけ」というイメージを持つ
15小節3拍目裏からのF音3連打:
・特徴的に響くが、8小節目以降何度か出てきていた素材
・この楽章を取り巻く連打の素材なので、これ以降の小節でも出てきたら必ずチェックすべき
譜例(19-20小節)

声部分けされていないが、多声として扱われるべき和音
・19小節目に出てくるスラーをダンパーペダルでつなげるのは、やめておくべき
・バスの同音連打Es音もその部分だけつながってしまって不自然だから
・記譜上は声部分けされていないだけ
・ここはどう考えても左手で演奏するパートのみでも2声になっている
・したがって、それぞれの声部を独立して扱う必要がある
・スラーが同音連打のバスにもかかっていると考えるのは無理がある
では、すべての同音連打バスをペダルでつなげてしまうのはどうか?:
・そうしてしまうと、左手上声部のスラーの意味が薄れてしまう
・そもそもメロディが非和声音も使って細かく動いているので濁ってしまい、現実的ではない
一方、20小節目の左手パートに出てくるスラーに関しては、バスも一緒に別の音へ動いているため、バスにもかかっていると解釈することができなくはありません。
譜例(21-24小節)

運指やペダリング
・21-24小節の運指やペダリングは、楽譜の書き込みを参考に設定する
左手の処理:
・21小節目の左手は「2声的な書法」なので、留まっているF音の連続が強くならないように注意する
・21-23小節の左手は、それ自体がカンタービレなラインになっているのでレガートで歌う
無伴奏(ソロ)の表現:
・28小節2拍目は、左手パートの4分休符を大切にし、メロディをきちんと無伴奏(ソロ)にしてあげる
・無伴奏かつ、4分音符で止まるので、とても印象に残る箇所
· 展開部:32-50小節
展開部の導入:
・32小節目からは、展開部
・ここまでに出てきた様々な素材を用いており、かつ和声進行的にも印象に残る導入
・f-mollから始まるが、多くの非和声音や偽終止(33小節目の頭)などが出てくるため、不安定さが演出されている
・32小節目の入りは、提示部の最後の小節からそのまま続いていることを意識し、その流れの中で弾くことが重要
ペダリング:
・36小節目から37小節目の移り変わりでは、右手に大きめのポジション移動がある
・36小節3拍目の裏でペダルを踏み、音響面をサポートする
シンコペーションの落とし穴:
・38小節目では、右手の内声がシンコペーションになっているが、メロディ素材は通常の流れ
・したがって、内声が発音するタイミングでメロディにアクセントがついてしまわないように注意する
sf の表現:
・43-47小節では、メロディで同じ形が4回繰り返されている
・メロディの音域や和声が異なっているため、それぞれの sf の表現がすべて同じになってしまわないように
・3回目(46小節目)の sf が、一番深い表現になる
・この小節のドミナントを47小節目のトニックへ解決させるため、47小節目のほうが少し控えめに聴こえるように
譜例(50小節目)

運指や装飾音の奏法
・50小節目の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
· 再現部:51-82小節
譜例(51-53小節)

再現部の開始:
・51小節目からは、再現部
・提示部と基本的な流れは同様
・ただし、変奏されてより細かい音符が多く出てくるため、重くならないように常に注意が必要
52小節目の左手パート
・こういった音型はただ単にそう聴こえて欲しいから書かれているのではなく、音楽的な要求がある
・バスラインとして、1拍ごとに1度だけバスが鳴る通常のカタチよりも音楽を前へ進める印象がより強くなっている
・左手部分のみでも多声的な扱いになっている
・このように「伴奏部分を多声でとらえてみる」というのは、あらゆる伴奏型を読み解くポイント
演奏方法:
・バスラインを他の音よりもやや大きめに響かせる
・加えて、各拍の4つ目のバス音から次の拍のバス音へのつながりを意識する
譜例(68小節目)

運指や装飾音の奏法
・68小節目の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(69-70小節)

運指や装飾音の奏法
・69-70小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(71-74小節)

・71-74小節の運指やペダリングは、楽譜の書き込みを参考に設定する
音価の勘定間違いに注意
・最終小節の2分音符の部分では、音価に注意する
・半分の長さになってしまっても気づかずにいるケースが多い
理由:
・テンポがゆるやかだと1拍が長いので、こういった勘定間違いが起きやすい
・曲尾では全パートで伸ばしていることが多く、他パートが「拍刻み」をしていないことが大半だから
‣ 第3楽章
· 楽曲構成とテンポ設定について
楽曲構成
複雑ロンド形式(ABACABA)
A:1-24小節
B:25-40小節
A:41-64小節
C:65-111小節
A:112-148小節
B:149-198小節
A:199-224小節(コーダを兼ねる)
テンポ設定について
目標テンポ:2分音符=74
· 1-40小節
譜例(1-4小節)

小節の重み
・1-2小節で一つの単位だが、1小節目よりも2小節目のほうがやや強い表現
3つの理由:
・重心があること(参考書籍:【ピアノ】名著「楽式論」がピアノ学習者に必須な理由:70年を超える影響力)
・メロディ線のエネルギー
・ドミナントであり3小節目のトニックへ解決すること
・3-4小節も一つの単位だが、当然4小節のほうが重みが入る
・そのうえで、1-4小節で大きく一つにまとまっていることを踏まえる
アーティキュレーションの注意点:
・3小節目に出てくる2音1組のアーティキュレーションは、この楽章全体で出てくる特徴
・スラー終わりの音が強くならないように注意する
流れの中で不意に出てくる細かい音符:
・5小節目のメロディに出てくる細かい音符は重くならないように
・流れの中で不意に出てくる細かい音符は、とにかく強く重くなりやすい
譜例(9-10小節)

運指や装飾音の奏法
・9-10小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
3度ハモリと6度ハモリの差:
・17小節目と19小節目は、メロディが3度で装飾されている箇所と6度装飾の箇所が対照になっている
・響きの違いを感じて演奏する
対話構造
・18小節目の頭はドミナントで、20小節目の頭はトニックであり、和声的にも対話構造になっている
テンポキープの要注意箇所:
・21-22小節は3連符主体だが、23小節目で16分音符主体になる
・リズムが変わってもテンポが変わってしまわないように注意する
構造の理解:
・24小節目のはじめのバスC音は、その前のF音からの流れの音
・次の1オクターヴ上のC音とつなげてしまわないように別にする
「2声的な書法」の音型:
・24-28小節は、他の楽章でも出てきた「2声的な書法」の音型
・やはり留まっているC音が大きくならないように
素材の引用
・24小節目の後半のメロディは、曲頭のメロディの素材を用いてリズムを変えたもの
譜例(32-33小節)

テンポキープの要:
・32-33小節では、カギマークで示した左手の「ターータ ターータ」というリズムが右手のパッセージを支えている
・「4分音符+8分休符」になっているため、リズムの厳格さを感じて
・4分音符の長さをきちんと守ることで、8分休符の始まる位置が適切になる
・そうすることで、8分音符もタイミングよく演奏しやすくなる
・どんな楽曲でも、「ターータ ターータ」と似たようなリズムが出てきたときにはテンポキープの要になる
譜例(36-38小節)

運指
・36-38小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
36-38小節の右手パート:
・1拍ごとにワンセットになっていると捉える(この楽曲は2/2拍子)
・レッド音符で示した各セットの最後の音が強くなってしまうと、尻餅をついたような演奏になってしまう
拡大型
・36-37小節では、右手のリズムの拡大型がバスのリズムに使われている
· 41-111小節
反復における受け継がせ方:
・62小節目の反復的扱いの63小節目では、きちんと受け継ぐ
・アーティキュレーションなどを62小節目のニュアンスに合わせると、音楽的に受け継ぐことができる
Cセクション開始:
・65小節目からは、大きく雰囲気が変化する
・ここまでの注意点を参考に、どの音に重みを入れて、どの音を控えて、というニュアンスを明確に表現する
スラースタッカートと音価の解釈:
・72小節目のスラースタッカートは短くなり過ぎずに、置いていくようなタッチで弾く
・ここでの左手にはスラースタッカートは書かれていない
・ただし、同じリズムで左手だけ少し長く残ると音楽的に不自然なので、右手の音価と統一してしまって構わない
譜例(80-83小節)

80小節目以降のリズムの誤読に注意:
・丸印で示した音は「8分音符」
・しかし、似たような位置に16分音符が頻繁に出てくるため、つい16分音符だと思い込んでしまう危険性がある
・もし左手に同時に合わせる音があれば、リズムの読み間違いに気づきやすい
・一方、右手の音が単独で出てくると、うっかり誤読してしまうことがある
・注意深く譜読みをしていれば、誤解を避けることができる
譜例(84-87小節)

音楽的なクレッシェンドの仕方
・85小節目の後半から crescendo と書かれている
・このようなダイナミクスの時間的変化には様々なやり方があるが、大抵、あっという間に効かせてしまいがち
・やや後ろ寄りで行うことを推奨
作曲的な観点から見た、表現のポイント:
・メロディラインの進行から判断すると、カギマークで示したようにEs音とF音の間で区切れる
・そこで、1つ目の区切りの終わりまではあまりクレッシェンドせずに、2つ目の区切りの始まりから本格的に始める
・そうすると、楽曲の成り立ちも活かせる後ろ寄りのクレッシェンドを表現できる
音価の注意箇所:
・87小節目の最後のメロディF音は、8分音符
・周辺に釣られて16分音符で弾いてしまわないように注意する
色の変化:
・95小節目に入った瞬間、色を変える
・この辺りは、様々な調性が顔を見せるため、それぞれの色の違いを感じることが重要
譜例(99-104小節)

運指や装飾音の奏法
・99-104小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
音価の注意箇所:
・99小節目からの左手は、4分音符
・右手に釣られて8分音符になってしまわないように注意する
クライマックスの位置
・102小節目は、「Cセクション:65-111小節」のクライマックス
長く続くオルゲルプンクトの意味:
・103小節目から、F音のオルゲルプンクトが110小節目までずっと続く
・この長い持続が、112小節目からのトニックを準備しており、緊張感を保ち続ける役割もある
· 112-224小節
同音連打の処理:
・111小節目から112小節目への移り変わりでは、F音が2連続出てくる
・全く同じ音量にならないように、112小節目の長い音価のF音を意識する
音楽の変化点とダイナミクスの対照:
・131小節目からは、これまで出てきたやり方とは変化して外れ始めるポイント
・ここから出てくる f と p の対照をきちんとつける
・f では叩いたように弾かず、鍵盤のすぐ近くから押し込むように打鍵するのが、深い音を出すコツ
テンポキープの要注意箇所
・144小節目からは音価が16分音符に変わるため、テンポが変わってしまわないように維持する
ノンレガートの4分音符
・148小節目の前半は、各4分音符をつなげず、ノンレガートで少しの音響の切れ目を入れる
168-170小節の演奏法
・168-170小節は、左手が重要
・右手のトレモロばかり目立たないようにバランスをとる
ペダリング:
・ここでの左手はオクターヴで動く
・したがって、スラー部分を表現するために、そこで8分音符ぶんだけペダルを踏んでサポートする
右手のトレモロの弾き方:
・すべての音をしっかり弾こうと思うと速く弾けない
・親指で弾く音を深めに打鍵したら、その動作の中で他の7音も弾いてしまい、8音1動作の意識で弾く
・そうすると、弾きやすくなるうえに、サウンドも音楽的になる
テンポ:
・170小節目では、大胆にテンポをゆるめてしまうと、直後のフェルマータが活きない
・「16分音符の最後の4つの音でわずかにテンポを広げる」くらいで調整する
白玉と黒玉が混ざった団子和音
171小節目で見られる「白玉と黒玉が混ざった団子和音」の解釈については、以下の記事で詳しく解説しています。
【ピアノ】混合音価和音の弾き方:白玉と黒玉が混ざった和音の演奏法
楽章間の関連性
・171-172小節では、第1楽章の50小節目などで出てきた形が見られる
譜例(189-192小節)

素材連結:
・189小節目からの左手は、カギマークで示した素材連結になっている
・ここだけが特別なのではなく、直前の右手でも出てきた連結法
198小節目のad libitumの部分:
・ad libitumとはいえ「比較的自由ではあるけれども完全に自由にしないこと」を考慮する
・モーツァルト自身が様々な音価を書き残すことで、カデンツァでありながらも大づかみのリズムは伝えている
・したがって、自由さはありつつも「拍の大づかみの感覚」は持って演奏する
・そうでないと音楽の骨格が歪められてしまう
フォルマータ直後の音における注意点:
・199小節目の最初のF音は、直前のフォルマータ付きE音からのつながりを感じて、音量と音色を作る
・無関係な音を出してしまうと、音楽が分断されたように聴こえてしまう
譜例(203-204小節)

運指やペダリング、装飾音の奏法
・203-204小節の運指やペダリング、装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
強くなってしまいがちな箇所
・210小節目や211小節目の頭の音は叩かないように
曲の一番最後の f は空気を変えるつもりで堂々と:
・この f を活かすためには、213小節目から続いている p を徹底すること
・少し油断すると「sempre mf(常に少し強く)」になってしまいがちなので注意する
► 終わりに
本記事で解説してきたように、この作品には随所に「2声的な書法」や「対旋律的要素」が隠されており、それらを丁寧に表現することで音楽的な演奏へと近づいていきます。また、各楽章間には素材の引用や関連性が見られ、全楽章を通して一つの大きな物語を形成しています。
フレージング、ペダリング、運指、装飾音の奏法など、細部にわたる解釈のポイントを本記事で示してきました。これらは一つ一つが演奏の質を左右する重要な要素です。楽譜に書き込みながら、自身の解釈を深めてみてください。
推奨記事:【ピアノ】モーツァルトのピアノソナタ解釈本5冊:特徴と選び方ガイド
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