【ピアノ】「現代ピアノ演奏テクニック」レビュー:ネイガウス楽派が伝えるピアノ技法
► はじめに
今回紹介する「現代ピアノ演奏テクニック」(エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 著、林万里子 訳、邦訳初版 1978年)は、ピアノ教育の名門であるネイガウス楽派の指導法を体系的にまとめた貴重な一冊です。
・原題: РАБОТА НАД ФОРТЕПИАННОЙ ТЕХНИКОЙ
・著者: エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン
・訳者: 林万里子
・出版社: 音楽之友社
・邦訳初版: 1978年
・ページ数: 150ページ
・現代ピアノ演奏テクニック 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社
► 歴史的背景と意義
ネイガウス楽派について:
・ゲンリフ・ネイガウス(1899-1964)が確立した伝統ある指導法
・リヒテル、ギレリスなど、多くの著名ピアニストを輩出
本書の位置づけ:
・ネイガウス楽派の指導法をもとに、リーベルマン自身の体験も踏まえて文書化
・著者リーベルマンは、ネイガウスの高弟として直接指導を受けた
・テクニックと芸術性の調和を重視する姿勢を継承
► 特徴と構成
章立ての特徴:
・第Ⅰ章:テクニック練習の基本姿勢と心構え
・第Ⅱ章:基礎的なピアノタッチと指の発達について
・第Ⅲ章:テクニック習得における精神的・知的アプローチ
・第Ⅳ章:様々な演奏技法の詳細解説
・第Ⅴ章:よくある技術的問題点とその改善方法
全体的な特徴:
・150ページというコンパクトな分量ながら、実践的な内容が凝縮
・理論的説明と具体的な練習方法がバランスよく配置
・譜例や写真が豊富で視覚的な理解を促進
・中級~上級者向けの本格的な内容
► 優れた点
1. 実践的な指導内容
・各テクニックの練習方法が具体例とともに示されている
・「なぜその練習が必要か」という理由付けが明確(次項目参照)
2. 体系的なアプローチ
・タッチの基本から高度なテクニックまで段階的に解説
・各技法の関連性が示されている
3. 心構えと実践のバランス
・テクニック習得に必要な5つの重要な姿勢を提示:
– ① 根気強い練習の継続
– ② 現状への妥協を避ける
– ③ 集中力を保った練習
– ④ 効率的な克服方法の探求
– ⑤ 課題達成への強い意志
4. 独学者への投げかけ
・試行錯誤の重要性の強調
・時間をかけた段階的な上達の必要性の説明
・励まされる言葉
-「才能とは情熱である」
-「テクニックを身につけることができる人はその必要性を強く感ずる人である」など
► 特徴的な引用
以下の分類より、音価について深く考えさせられます。
(以下、抜粋)
プラウドは『アーティキュレーション』という本の中で「今日におけるスラーと分割の程度」を次のように分類した。
スラー
1. 音響的 legato または legatissimo
2. legato
3. 乾いた legato
分割
4. 深い non legato
5. non legato
6. 韻律的に決められた non legato(音を響かせる部分が休止部分と等しい)
短音
7. 柔らかい staccato(mezzo staccato)
8. staccato
9. staccatissimo(最大可能な短音)
(抜粋終わり)
拍頭止め練習について書かれた以下のような解説も。
この方法の目的は手の運動の「輪郭」を作りあげ、かつ、手の「重み」の位置を見出すことである。
(抜粋終わり)
「なぜその練習が必要か」という理由付けが明確です。
► 独学者への推奨点
本書は以下のような方に特に推奨できます:
・基礎的なテクニックを習得済みの中級者以上の学習者
・練習方法の理論的背景を理解したい学習者
・効率的な練習方法を探している方
・ピアノ教育に携わる指導者
注意点:
・現在は中古市場での入手が主となるため、価格の変動に注意
・初心者には難しい内容を含む(特に第Ⅲ章以降)
・音を出しながらの実践との併用が重要
► まとめ
本書は、ネイガウス楽派の卓越した指導法を継承しつつ、現代のピアノ学習者のニーズに応える実践的な指南書です。テクニックの習得を単なる機械的訓練ではなく、芸術的表現の手段として位置づける姿勢は、今日のピアノ学習においても極めて重要な視点です。
練習の方向性を見失いがちな場面での確かな指針となり、指導法や練習法の再考を促す貴重な資料にもなるでしょう。
・現代ピアノ演奏テクニック 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社
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