【ピアノ】J.S.バッハ インヴェンション 第15番 BWV786 全運指付き楽譜と練習のコツ
► はじめに
「インヴェンション 第15番 BWV786」は、カプリッチョ的な性格を持つ作品です。カプリッチョとは「気まぐれ」を意味し、即興的性格を持つ小品だと把握してください。
本記事では、この作品に取り組む方のために、「全運指」を付けた楽譜を提供し、練習のヒントも解説していきます。
►「全運指」の解説
この楽曲はパブリックドメインです。運営者が浄書ソフトウェアで作成した楽譜を使用しています。
運指について重要な注意点
この運指は一例です。手の大きさや個人差に合わせて調整してください。また、どのようなアーティキュレーションを付けるのかによっても適切な運指は変わります。お手持ちの楽譜の内容と照らし合わせながら、必要に応じて参考にしてください。
► 具体的な練習のヒント
‣ 適切なテンポ設定
推奨テンポ設定:
練習開始時:♩= 60-75(正確性と安定性重視)
中間段階:♩= 75-90(表現力の向上期)
目標テンポ:♩= 92(ヘルマン・ケラー提案)
なぜ、このテンポ設定なのか:
ヘルマン・ケラーが提案する♩= 92 は、以下のような特徴があります:
・作品のカプリッチョの性格をよく表現できる
・ただし、標準的なテンポ設定よりも速め(市田儀一郎氏は♩=±75を提案)
・これ以上速くなると装飾音符を入れるのが困難になる
‣ 本楽曲でよくある問題点と対策
· 冒頭主題の16分音符が重くなってしまう
譜例(曲頭)
譜例の部分の右手パートが主題になりますが、この出始めの16分音符二つが重くなってしまう演奏が散見されます。楽曲の性格をよく考えて、「通り過ぎるだけ」と思ってさりげなく演奏するといいでしょう。
楽曲中に何度も出てくるので、その都度注意しましょう。
· ただの音の羅列になってしまう
単調な演奏を避けるための2つのアプローチは、以下の通りです:
アプローチ1:アーティキュレーションの明確化
この楽曲のカプリッチョ的性格は、いかにもバロックらしさを持っています。したがって、今お使いの楽譜に書かれている「校訂者による」アーティキュレーションを正しく表現し、各種表現を明確に弾き分けるといいでしょう。
上記の全運指付き楽譜は、原典版を底本にしているので、作曲者のオリジナルのアーティキュレーションしか書かれていません。
アプローチ2:構造的理解に基づく演奏
加えて、分析的視点でもアプローチしてみましょう。例えば:
譜例(8-9小節)
レッド音符で示した音が、ピックアップすべき軸になる音です。それ以外の音はやや加減して弾くことで、「鳴りっぱなし」の演奏を避けることができます。チェンバロ演奏では、タッチによるダイナミクスの変更はできません。しかし、鳴り響いてくるのはピアノの音なので、それで全ての音が均等に鳴ってしまうと、平坦な音楽に聴こえてしまいます。
譜例(17-18小節)
ここでは、レッド音符とブルー音符を別の声部だと思って弾くと、音楽がダラダラ流れてしまうのを避けられます。「高音(レッド音符)」で歌った後に「合いの手(ブルー音符)」が入ってくるようなイメージを持って演奏しましょう。
► 終わりに
本記事で紹介した練習法を参考に、まずはゆっくりとしたテンポから始めて、段階的に目標テンポに近づけていってください。特に構造的理解に基づく演奏アプローチは、他のJ.S.バッハ作品にも応用できる重要な視点です。
この作品についてさらなる演奏ヒントが必要な方は、以下の解釈版を参考にしてください。
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