【ピアノ】和声進行の時間的展開:後から加わる音が和声解釈を変える
► はじめに
和声は、曲の感情や表現を決定づける要素の一つです。後から加わる音が和声解釈をどう変えるのか、という点にも着目することで、曲の構造や作曲家の意図をより深く感じ取ることができるでしょう。
今回は、シューマンの「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-21 無題」を題材に、和声進行の時間的展開に注目し、後から出てくる音によって和声解釈がどのように変わるかを見ていきます。
► 実例分析:シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-21 無題」
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-21 無題」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
この作品では和声の微妙な変化に富んでおり、和声進行がどのように展開していくのかを学ぶにはうってつけの楽曲です。
ここでは、9小節目と12小節目を取り上げ、和声進行の時間的展開を詳細に見ていきましょう。
‣ 9小節目の和声進行の時間的展開
9小節目の頭の和声は、最初に聴いた時にはa-mollのⅠ(トニック)として認識されますが、実はその解釈は後から変更されることに気づきます。1拍目の裏で鳴る和音が出現することで、最初にa-mollのⅠと聴こえた部分は、実はF-durのⅤ7の第1転回形(A-C-Es-F)であることが分かります。
このように、後から加わる音により聴こえ方が大きく変わるというのは、非常に興味深い点と言えるでしょう。1拍目表では2音しか鳴らなかったからこそ、このような数パターンの聴き方の面白みを感じることができるわけです。
和声解釈の変遷過程:
・初聴時: a-mollのⅠとして知覚
・1拍目裏からの和音の出現後: F-durのⅤ7の第1転回形
‣ 12小節目の和声進行の時間的展開
同様の技法が12小節目にも見られます。この小節の頭では、d-mollのⅠ(トニック)として聴こえますが、やはり和音の後出しにより、実はC-durのⅤ7の第2転回形(D-F-G-H)であることが分かります。
和声解釈の変遷過程:
・初聴時: d-mollのⅠとして知覚
・1拍目裏からの和音の出現後: C-durのⅤ7の第2転回形
このように、最初の和音だけでなく、その後の音の追加によって聴こえ方が大きく変わることが確認できます。和声の多義性は、演奏する時にも意識しておきましょう。
► 終わりに
このような分析を通じて、和声進行がどのように時間的に展開し、どのように聴こえ方が変わるのかを整理し、楽曲理解を深めましょう。
関連内容として、以下の記事も参考にしてください:
・【ピアノ】楽曲分析の視点:音楽的な前後関係が生み出す表現の変化
・【ピアノ】「単音×2」の線的書法の分析入門:和声的な多義性を探る
【おすすめ参考文献】
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