【ピアノ】和声進行の時間的展開:後から加わる音が和声解釈を変える

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【ピアノ】和声進行の時間的展開:後から加わる音が和声解釈を変える

► はじめに

 

和声は、曲の感情や表現を決定づける要素の一つです。後から加わる音が和声解釈をどう変えるのか、という点にも着目することで、曲の構造や作曲家の意図をより深く感じ取ることができるでしょう。

今回は、具体的な楽曲例を題材に、和声進行の時間的展開に注目し、後から出てくる音によって和声解釈がどのように変わるかを見ていきます。

 

► 実例分析

‣ 分析①:モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、71-74小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.330 第1楽章」71〜74小節の譜例。裏拍に登場する変化音により和音が切り替わる箇所を示す。

71小節目では、1拍目に短三和音の基本形が置かれ、2拍目で長三和音の第一転回形へと切り替わります。この明暗の転換を担うのはレッドで示したわずか1音ですが、それが2拍目の裏拍まで現れないという点に着目しましょう。つまり、2拍目の表拍が鳴り終わった段階では、聴き手はまだ短三和音の響きの延長として認識しており、長和音として確定するのは、裏拍でその音が加わって初めてのことです。

言い換えれば、和声解釈が時間差で確定する構造になっていると言えます。このような「後から意味が定まる」書き方の面白さは、【ピアノ】楽曲分析の視点:音楽的な前後関係が生み出す表現の変化 でも詳しく取り上げているので、あわせて参照してください。

 

73小節目では、この手法が逆方向に作用しています。「長三和音の基本形 → 短三和音の第一転回形」という流れで、明から暗へと響きが転じ、その後のd-mollへの移行を準備します。

同じ仕掛けを用いながら、明→暗・暗→明の両方向に展開している点に、モーツァルトの書き方の巧みさが見て取れます。1音の出入りが印象を左右するという事実を意識しながら弾くと、演奏のニュアンスも自ずと変わってくるでしょう。

 

‣ 分析②:シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-21 無題」

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-21 無題」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、楽曲全体)

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-21 無題」の楽曲全体の楽譜。

この作品では和声の微妙な変化に富んでおり、和声進行がどのように展開していくのかを学ぶにはうってつけの楽曲です。

ここでは、9小節目と12小節目を取り上げ、和声進行の時間的展開を詳細に見ていきましょう。

 

9小節目の和声進行の時間的展開

9小節目の頭の和声は、最初に聴いたときにはa-mollのⅠ(トニック)として認識されますが、実はその解釈は後から変更されることに気づきます。1拍目の裏で鳴る和音が出現することで、最初にa-mollのⅠと聴こえた部分は、実はF-durのⅤ7の第1転回形(A-C-Es-F)であることが分かります。

このように、後から加わる音により聴こえ方が大きく変わるというのは、非常に興味深い点と言えるでしょう。1拍目表では2音しか鳴らなかったからこそ、このような数パターンの聴き方の面白みを感じることができるわけです。

和声解釈の変遷過程:

・初聴時: a-mollのⅠとして知覚
・1拍目裏からの和音の出現後: F-durのⅤ7の第1転回形

 

12小節目の和声進行の時間的展開

同様の技法が12小節目にも見られます。この小節の頭では、d-mollのⅠ(トニック)として聴こえますが、やはり和音の後出しにより、実はC-durのⅤ7の第2転回形(D-F-G-H)であることが分かります。

和声解釈の変遷過程:

・初聴時: d-mollのⅠとして知覚
・1拍目裏からの和音の出現後: C-durのⅤ7の第2転回形

このように、最初の和音だけでなく、その後の音の追加によって聴こえ方が大きく変わることが確認できます。和声の多義性は、演奏するときにも意識しておきましょう。

 

► 終わりに

 

このような分析を通じて、和声進行がどのように時間的に展開し、どのように聴こえ方が変わるのかを整理し、楽曲理解を深めましょう。

 

併読推奨記事

ピアノ曲における文脈の重要性を、モーツァルト、サティ、ベートーヴェン、サン=サーンスの作品を例に解説。同じフレーズでも前後関係で変化する音楽表現を、理論的視点から分析。楽曲への深い理解を目指す演奏家向けの専門的な考察です。

【ピアノ】楽曲分析の視点:音楽的な前後関係が生み出す表現の変化

 


 

【おすすめ参考文献】

本記事で扱った、シューマン「Op.68-21 無題」について学びを深めたい方へ

・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【シューマン Op.68-21 無題】徹底分析

 

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