【ピアノ】ジョヴァンニ・ネシ「Original and Transcribed Piano Music for the Left Hand」レビュー

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【ピアノ】ジョヴァンニ・ネシ「Original and Transcribed Piano Music for the Left Hand」レビュー

► はじめに

 

左手のためのピアノ作品というジャンルは、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱作品を中心に語られることが多く、そのためレパートリーの幅広さが見えにくい分野かもしれません。

今回紹介するのは、イタリアのピアニスト、ジョヴァンニ・ネシによる一枚です。バロックから現代まで、そしてオリジナル作品と編曲作品の両方を組み合わせたプログラムとなっており、左手ピアノの世界の奥行きを感じさせてくれる内容になっています。

 

・演奏:Giovanni Nesi(ジョヴァンニ・ネシ)
・リリース年:2024年
・レーベル:DA VINCI CLASSICS(輸入盤)
・総収録時間:79分48秒
・録音:2023年8月18日、イタリア・ポンツァーノ・ディ・フェルモの教会でのライブ収録

 

Giovanni Nesi: Original and Transcribed Piano Music for the Left Hand

 

► 演奏者 ジョヴァンニ・ネシについて

 

ジョヴァンニ・ネシは、左手のためのレパートリーに積極的に取り組んでいるイタリアのピアニストです。今回のアルバムでは、J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲を自ら左手用に編曲するなど、演奏だけでなく編曲の面でもその探求心が発揮されています。現代作曲家との関わりもうかがえ、二曲の世界初録音を含むプログラムからは、過去の作品を紹介するだけでなく、新しいレパートリーを開拓しようとする姿勢が読み取れます。

 

► 収録内容の詳細

‣ 収録曲一覧

 

[01] J.S.バッハ(1685-1750):無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007(ネシによる左手編曲)
[07] スクリャービン(1872-1915):左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1
[08] フマガッリ(1828-1856):清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)(ベッリーニ《ノルマ》より) Op.61
[09] シューマン(1810-1856):Op.68 および Op.99 より抜粋(ヴィトゲンシュタイン編、左手版)
[12] ジチー(1849-1924):左手のための6つの練習曲 より アデルのワルツ
[13] マルコ・ソリーニ:ブラック・ドリーム Op.50(世界初録音)
[14] クレアンテ・ルッソ:メロディア(2023)(世界初録音)
[15] J.S.バッハ:BWV1004 より シャコンヌ(ブラームス編、左手版)
[16] ポンセ(1882-1948):マルグレ・トゥー
[17] J.S.バッハ:フルートソナタ BWV1031より シチリアーノ(ヴィトゲンシュタイン編、左手版)

 

‣ アルバムの特徴

 

プログラム全体を見渡すと、いくつか興味深い特徴に気づきます。

まず、タイトルに「Original and Transcribed」と掲げられている通り、編曲作品の比重がかなり大きいこと。ブラームス、ヴィトゲンシュタイン、フマガッリによる、左手ピアノの分野ではよく知られた編曲に加え、ネシ自身の手による編曲も収められており、演奏家としてだけでなく編曲者としての一面も垣間見えるプログラムです。

また、ジチーによるオリジナル作品が収録されている点も見逃せません。ジチーは右腕を失ったハンガリーのピアニスト・作曲家で、左手ピアノの歴史において重要な音楽家の一人ですが、その作品が録音される機会は決して多くなく、貴重な選曲と言えるでしょう。

そしてもう一つの軸となっているのが、2023年に書かれた新作を含む現代作品の存在。ソリーニとルッソの二曲は世界初録音とのことで、左手ピアノという分野そのものを更新していこうとする意欲が感じられます。

プログラム構成にも工夫が見られ、J.S.バッハで幕を開け、バッハ=ブラームスの「シャコンヌ」をプログラムの中心に据え、最後もバッハで締めくくるという構成になっています。まるで祈りを捧げるかのような、静かな精神性を帯びた一枚に仕上がっているように感じられました。

 

‣ 演奏の印象

 

ポンセ「マルグレ・トゥー」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

原曲

ポンセ「マルグレ・トゥー」1-3小節の楽譜(原曲)。

ネシの解釈

ポンセ「マルグレ・トゥー」1-3小節の楽譜(ネシの解釈)。

解釈という点で特に印象的だったのが、ポンセの「マルグレ・トゥー」における処理です。楽譜上は同時に打鍵するように記譜された、離れた音域にある音程を弾く場面があり、一般的にはバスを先に弾いてからメロディへ移る奏法が一般的です。しかし、ネシはこれとは逆に、メロディを先に鳴らしてからすぐにバス音を続けるというアプローチを採っています

これは、広い音域にまたがる和音をあたかも同時に響かせているかのように聴かせるため、ヴィトゲンシュタイン自身が提案したとされる奏法であり、ネシがこうした伝統的な奏法研究にも通じていることがうかがえる箇所でした。

 

全体としては、正統的なアプローチによる演奏という印象を受けました。一方で、バッハ=ブラームスの「シャコンヌ」では、ところどころリズムを大きく揺らして弾く箇所が確認でき、譜面に忠実というよりは、その場の呼吸を大切にした演奏だと感じられる瞬間もありました。このあたりは、スタジオ録音とは異なる、ライブ収録ならではの緊張感や生々しさが反映されているのかもしれません。

 

► 終わりに

 

左手ピアノというと、どうしてもラヴェルの左手協奏曲やヴィトゲンシュタイン委嘱作品といった一部の有名曲に注目が集まりがちですが、本盤は幅広い時代をカバーし、なおかつオリジナル作品と編曲作品のバランスも取れた、非常に見通しの良いプログラムに仕上がっています。ライブ録音ならではの空気感を味わいながら、左手で紡がれる多彩な音楽世界を体験してみてはいかがでしょうか。

 

Giovanni Nesi: Original and Transcribed Piano Music for the Left Hand

 

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