【ピアノ】大楽節における延長楽句の役割と意義を考える
► はじめに
楽曲分析において、作曲家がなぜその構造を選んだのかを考えることは欠かせません。特に古典派までの楽曲では、楽節構造が明確でありながらも、基本形に変化を加えることで音楽的な表現を多彩にしています。
本記事では、モーツァルトのピアノソナタを例に「延長楽句」の役割について考察していきましょう。延長楽句はただの「おまけ」ではなく、作曲家の意図が詰まった重要な要素です。
► 楽節構造の基本
分析へ入る前に、基本的な楽節構造についてごく簡単におさらいしておきましょう:
・小楽節(動機×2):オーソドックスな作品では、基本的に4小節から成る音楽的なまとまり
・大楽節(小楽節×2):2つの小楽節(計8小節)から構成される、より大きな音楽的単位
・延長楽句:言葉の通り、追加延長される楽句で、セクションを拡大したり次のセクションへの橋渡しをしたりする役割を持つ
これらについてもっと詳しく学びたい場合は、
「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社 → 詳しいレビューを読む
を参考にしてください。
► 延長楽句の分析例:モーツァルト「K.311 第2楽章」
‣ 分析の前提知識
モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 (284c) 第2楽章」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、1-12小節)
譜例で示した部分は、Aセクション全体です:
「小楽節×2=大楽節」の原則に従えば、1-8小節だけで大楽節として成立します。これだけでAセクションを作ることもできますが、この楽曲では大楽節の後に延長楽句(9-12小節)が追加されています。この延長楽句はなぜ必要だったのでしょうか。
まず、9-12小節を「移行部」ではなく「延長楽句」と分析する理由についてですが、この楽曲の場合、譜例の部分の続きから16小節目までが移行部として機能しているからです。また、移行部は多くの場合、次のセクションの調性を準備する役割がありますが、9-12小節はまだ主調(G-dur)にとどまっています。
‣ 延長楽句の存在意義
(再掲)
1. Bセクションへの準備
延長楽句(9-12小節)で導入される16分音符の伴奏音型は、Bセクション(17小節-)の主要伴奏形となります。この音型をあらかじめ聴かせることで、セクション間のスムーズな連結を実現しています。
2. 調性の確立
延長楽句は主調(G-dur)を強化する意味合いを持っており、Aセクションの調性基盤をより堅固にしています。これにより、後続の移行部での調性変化がより効果的になります。
3. 全体構造への配慮
この延長楽句で使用されるメロディ素材は、コーダ(86小節-)でも使用されます。モーツァルトは楽曲全体の統一感を考慮して、この素材を早い段階で提示していると考えられます。
4. 楽曲バランスの調整
この楽曲のBセクションは比較的大規模(全22小節)であり、Aセクションが単に8小節だけだとセクション間のバランスが取れません。延長楽句を加えることで、AセクションとBセクションの規模のバランスが改善されています。
► 終わりに
延長楽句の分析を通して、モーツァルトが楽曲全体のバランスや流れを考慮して作曲していたことが想像できます。演奏する際には、この部分がただの付け足しではなく、次のセクションへの橋渡しや全体構造における重要な役割を持っていることを意識しましょう。
楽節の基本について学びたい場合は、
「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社 → 詳しいレビューを読む
を参考にしてください。応用として、延長楽句以外の手法で「8小節構造によらない大楽節」になっている例も解説されています。
► 関連コンテンツ
コメント