【ピアノ】楽曲をより深く理解する第3音省略の効果と分析

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【ピアノ】楽曲をより深く理解する第3音省略の効果と分析

はじめに:基本事項の整理

 

基本的な和音として、3つの音で構成される和音(トライアド)がありますが、時として作曲家は意図的に和音から「第3音」を省略することがあります。

譜例1(Sibeliusで作成、根音をCにした場合の例)

この記事では、「第3音の欠如」という作曲技法について、実際の楽曲を通して解説していきます。この技法を理解することで、楽曲をより深く味わえるようになるでしょう。

 

第3音とは:

譜例2の左側の和音のように、三和音を3度音程重ねの団子和音にして見た時に構成する3つの音のうち、真ん中の音のこと。この音は、和音が長和音(明るい響き)か短和音(暗い響き)かを決定する重要な要素です。

譜例2(Sibeliusで作成、根音がC音の場合の例)

・ブルー:根音
・レッド:第3音
・ブラック:第5音

譜例2を見ると分かるように、第3音というのは必ずしも根音の3度音程上に来るわけではありません。右側の譜例のような音の組み方をする場合は、根音の10度音程上に来ます。

同じ名称を持つ和音でも、このように根音と第3音の位置関係が複音程(完全8度を超える音程)になる可能性もあることを踏まえておきましょう。

 

► 分析例1:シューベルト「楽興の時 第3番 Op.94-3 ヘ短調」

‣ 楽曲の基本情報

 

作品番号:Op.94-3
調性:ヘ短調(f-moll)
拍子:2/4拍子

 

譜例3(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

 

‣ 前奏に隠された作曲家の意図

 

特徴的な前奏の分析

冒頭の2小節間に注目してみましょう。ここでは根音と第5音のみが使用され、第3音が意図的に省かれています。この「空虚な響き」には、どんな意味が込められているのでしょうか?

和声学では、原則、ヴォイシングに第3音を含めるように習います:

・空虚な響きを作ってしまうと全体の中でその部分が浮いてしまい、バランスを欠くから
・第3音が無いと長和音か短和音かが分からず、調性が曖昧になるから

 

調性プランから見える意図

この楽曲の調性の変遷を見てみましょう:

・1-2小節(前奏):調性が曖昧 F-durかf-mollかを暗に聴衆が判断する
・3-10小節(Aセクション):f-moll
・11-18小節(Bセクション):As-dur
・19-26小節(Cセクション):f-moll → As-dur
・27-34小節(A’セクション):f-moll
・35-44小節(Dセクション):f-moll → F-dur
・45-54小節(エンディング):F-dur

 

この展開から、以下の2つの重要なポイントが見えてきます:

1. 明確な方向性:f-moll(短調)からF-dur(長調)への移行
2. 構造的な対比:短調と長調の対比が楽曲全体を通して計画的に配置

この楽曲全体の調性プランがあるからこそ、あえて前奏では長調なのか短調か分からない音遣いをすることで、前奏の意味と転調の意味が際立つことになります。これから展開される調性の変化への期待感も高まりますね。

 

► 分析例2:スクリャービン「24の前奏曲 Op.11-16 変ロ短調」

 

曲尾における効果的な使用

 

スクリャービン「24の前奏曲 Op.11-16 変ロ短調」

譜例4(PD楽曲、Finaleで作成、曲尾)

曲の最後に3回連打される和音に注目してください。ここでは第3音が省かれています。なぜなのでしょうか?

理由は大きく2つ考えられます:

・空虚なサウンドそのものを聴かせたかった可能性
・色彩を聴衆に判断させることを狙った可能性

 

聴き方の可能性を広げる:

・直前のDes音の記憶的な残響により短調として聴こえる可能性(B♭m 短和音:B-Des-F)
・教会音楽の伝統から長調として解釈される可能性(B♭ 長和音:B-D-F)
・第3音のない空虚な響きそのものを味わう可能性

 

最後の和音連打に入る前を見ていると、上段、下段のどちらにもDes音が出てきています。したがって、普通に考えると、最後の和音に第3音が抜けていても直前のDes音が記憶に残っているので、「B Des F(ドイツ音名)」という短三和音のイメージが頭に浮かびます(コードネームでいう、B♭m)。

一方、曲尾で同主長調の和音を借りて終わることも多い教会音楽などに親しんできた聴衆には、「B D F(ドイツ音名)」という長三和音のイメージが浮かぶ可能性もあります(コードネームでいう、B♭)。

中には、第3音は鳴っていない響きとしてそのまま受け取る聴衆もいるでしょう。

つまり、スクリャービンがあえて和音から第3音を抜いたことで、聴衆は様々な聴き方をすることができるのです。

 

聴衆が音楽理論の知識を持っているかどうかは関係ありません。持っていなくても、感覚的に「明るさ、暗さ、空虚さ」を感じ取ります。

聴き方の可能性を広げる書法でもある第3音を抜くやり方。楽曲理解を深める引き出しの一つにしてください。

 

► まとめ:実践のために

 

効果的に使われるポイント

第3音の欠如は、以下のような場面で特に効果的に使われています:

・調性の曖昧さを活かしたい場面
・開放的な響きが必要な場面
・聴衆の解釈の幅を広げたい場面
・ファンファーレなどの硬い響きが想定されている場面

楽曲分析のポイント:

・第3音が省略されている箇所を見つける
・その前後の文脈から意図を読み取る
・全体の調性プランの中での役割を考える

演奏への活かし方:

・第3音が省略された和音を見つけたら、その効果を意識して表現
・前後の文脈から、どのような色彩を持たせるか検討
・聴衆の多様な解釈の可能性を意識した演奏を心がける

 


 

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