【ピアノ】ブラームス作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド
► はじめに
本記事では、ブラームスのピアノ作品における実践的な演奏アドバイスをまとめています。各曲の重要なポイントを、譜例とともに具体的に解説していきます。
この記事は随時更新され、新しい作品や演奏のヒントが追加されていく予定です。
► 小品
‣ 16のワルツ 第15番 Op.39-15 変イ長調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、30小節目の右手)
四角で囲んだところが、一つの手のポジションです。
・四角で囲ったところを演奏する手の形のまま、手を横に引っ越す
・この時に、手首を使い過ぎない
手首をたくさん使って横に移動していると、ゆっくりのときには弾けるのですが、少しテンポが上がると全く対応できなくなってしまいます。
‣ 2つのラプソディ 第1番 Op.79-1 ロ短調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、39-42小節)
点線を入れた箇所でフレーズが「別」になるので、しっかりと「音響の切れ目」を作ってください。
39小節2-4拍目のスタッカートの付いている各音は、「アクセントペダル」として1拍毎に短くダンパーペダルを踏んでいくといいでしょう。
41小節2拍目の右手パートには8分休符が書かれていますが、以降は付点4分音符になっています。これが意味するのは、「39小節2拍目から41小節1拍目まででワンフレーズ」ということです。
したがって、41小節2拍目では和声は変わりませんがダンパーペダルを踏み変えて8分休符を表現しましょう。
‣ 2つのラプソディ 第2番 Op.79-2 ト短調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、20-22小節)
左手には「アルペッジョ」が何度も出てきますが、入れ方に注意が必要です。
親指で演奏する音がきちんと「拍の頭」に来るように。音が密集して連続で鳴るので、これを守らないとリズムが不明瞭になってしまいます。
アルペッジョにすることで、必要な「上の音」が聴こえやすくなる効果も出ていることに着目しましょう。
20小節4拍目から始まる「行って返ってくる動き」は重くなりがちなので注意が必要です。
p で且つmezza voce なので、「ただ単に小さく」というよりは、音像が遠くにあるイメージを持って演奏するといいでしょう。
‣ 3つの間奏曲 Op.117
· 第1番 Op.117-1 変ホ長調
譜例(PD作品、Finaleで作成、49-52小節)
50小節目にも51小節目にもアルペッジョが出てきます。先に51小節目の方を見てください。
アルペッジョが書かれているところは、直前に右手で演奏したメロディの模倣としての対旋律です。
ブラームスがこのアルペッジョが書いた意図は、大きく次の2つでしょう:
・親指で弾く、上の音を際立たせるため
・柔らかいサウンドを得るため
ここでは右手で弾いている別の音符も上の音域にいることですし、左手では対旋律と伴奏の両方を弾かないといけないので、どうしても埋もれがち。
しかし、アルペッジョにすることで:
・親指で演奏する上の音を際立たせることができる
・単純に発音タイミングがズレるので、上の音がよく聴こえるようになる
このような効果があります。
加えて、対旋律という重要だけれども脇役の要素を柔らかいサウンドで得るためには、和音でカツン!と弾くよりもアルペッジョで分散にする方が望ましかったのでしょう。
このように、アルペッジョには音楽面に与える大きな影響があるからこそ、手が届くからといって勝手にアルペッジョを取り払ってはいけないのです。
(再掲)
次に50小節目の方を見てください。
こちらは、どう見ても伴奏。リズムとハーモニーが欲しいだけだと分かりますね。
したがって、「柔らかい音色を得るためのアルペッジョ」と考えていいでしょう。親指の音を特別に際立たせる必要はありません。
こういった観点でアルペッジョをとらえると、音楽を読み取っていく大きなヒントになります。
他にも、楽曲によっては「ハープのサウンドを模してつけられたアルペッジョ」が出てきたりと、その発想や表現幅は多彩です。
学習用教材でもない限り、アルペッジョは手が届かない演奏者のために書かれているわけではないのです。
もっと音楽的な着眼点を探しましょう。
‣ 6つの小品 Op.118
· 間奏曲 Op.118-1 イ短調
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲尾)
最終小節へ入る直前に低いA音が出てきます。
この部分からペダル効果で最終小節までを含めてA-durの主和音の響きをつくるわけなので、
ペダルマークが書かれているところでダンパーペダルを踏んだら、あとは曲の最後まで踏みっぱなしにすべきです。
しかし、最終小節へ入ったときにペダルを踏み替えてしまう演奏が意外と多い。
【和声進行分析のポイント】
最終小節で踏み替えてしまうことで、大きくふたつの問題が生じます:
1. 和声構造の崩壊:
・低いA音の響きが途切れることで、終止にふさわしくない第二転回形の響きになってしまう
・完全終止の安定感が損なわれる
2. 音響バランスの急変:
・低いA音の響きが途切れたときに、急に音響が薄くなったように感じてしまう
・急に高音域のみの響きになることで、終止感が弱まる
このうち、意外と意識から飛ばしがちな落とし穴が②の方。
ピアノというのは減衰楽器なので、ペダルを使っていても発音された音がどんどん減衰していくのは当然です。
ただし、低いA音が鳴るのは最終小節のたった1拍前であり、鳴って間もないときにペダルを踏み換えると、いきなりそのバスの音響が断裂して、急にいなくなったような印象になってしまいます。
そして、最終和音は音域が高めなので、一気にバスが高くへ飛んだような印象に聴こえてしまう。
► 終わりに
ブラームスの作品には、独特の音楽語法と表現技法が詰まっています。
本記事では、実践的な演奏アプローチを紹介していますが、これらはあくまでも一つの解釈として捉えていただければと思います。
今後も新しい作品や演奏のヒントを追加していく予定ですので、定期的にご確認いただければ幸いです。
▼ 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント