【ピアノ】ドミナントの第3音を美しく響かせるコツ:創作と演奏の両面によるアプローチ
► はじめに
ピアノ演奏において、和音の響きの美しさを保つことは重要な課題の一つ。
特にⅤ(ドミナント)の和音では、第3音の扱いに注意が必要であり、
この音の不適切な処理は、和音の機能を損なわせ、曲全体の響きを濁らせてしまいます。
本記事では、楽譜の書き手と読み手の両方の視点から、この問題への対処法を具体的に解説します。
► Ⅴにおける第3音の濁り(不協和)
特にポピュラーピアノの分野で、以下の①のような書法を目にします。
譜例1(Sibeliusで作成)
①の書法には以下のような音響上の問題があります:
・左側の小節で、ダンパーペダルを踏みっぱなしにすると、DoとSiの音が不協和音程を形成する
・3拍目でペダルを踏み替えると、バスや内声の響きが断裂してしまう
なぜ問題なのか?
Ⅴの第3音(導音)は、多くの場合次に主音へ進む重要な音です。
この音と半音上の音が同時に鳴ると、以下の問題が生じます:
・不協和な響きが生まれる
・導音の主音への進行感が弱まる
・和音の機能が不明確になる
ポピュラー音楽で使用されるコードネームでは、この点について明確な区分けがされています:
譜例2(Sibeliusで作成) C-major(=C-dur)の場合のⅤ
sus4(suspended「つるした」4番目の音)の場合:
・3度の音を含めない
・4度の音が3度の代わりとなる
・その後3度に解決することが多い
► 実践的な演奏方法
(譜例1 再掲)
上記の問題を解決するため、以下のような演奏技術を活用します:
フィンガーペダルの活用
声部分けした②の譜例のように:
・バスの音を左手の小指で保持
・内声の和音を適切な指で保持
・3拍目でダンパーペダルを踏み替え
このテクニックにより:
・バスや内声の音響の継続性を保持
・Ⅴにおける第3音の濁りを回避
► 楽譜表記の考察
なぜ、演奏者を惑わせる書き方がされるのか
主な理由は以下の2点です:
1. 楽譜のシンプルさを優先
・演奏法は奏者の判断に委ねる
・視認性を重視
2. 作曲者/編曲者の意識の問題
・濁りの問題を認識していない場合
・演奏技術での対応を前提としている場合
(譜例1 再掲)
望ましい楽譜表記の方法
声部分けを明確にした②の表記と、簡略化した③の表記には、それぞれ以下のような特徴があります:
②声部分け明示型
メリット:
・演奏方法が明確
・音響イメージが把握しやすい
デメリット:
・楽譜が複雑になる
・前後の小節との整合性が必要
③簡略表記型
メリット:
・楽譜がシンプル
・これだけでも、①よりは意図が伝わりやすい
デメリット:
・初級者には意図が伝わりにくい
・解釈の余地が大きい
► まとめ:濁らせない、濁らさせない
演奏者の立場から
・フィンガーペダルとダンパーペダルを適切に組み合わせる
・声部の独立性を意識した演奏を心がける
・必要に応じて楽譜を解釈し、適切な演奏方法を選択する
作曲者/編曲者の立場から
・可能な限り明確な意図の伝達を心がける
・演奏者のレベルを考慮した表記を選択する
・必要に応じて演奏上の注意点を記載する
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