【ピアノ】ピアノ音楽における対比表現の分析的アプローチ

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【ピアノ】オーソドックスな対比表現を読み取る

 

► はじめに

 

音楽における対比表現は、単なる音の強弱や音域の変化以上の意味を持ちます。

それは作曲家が意図的に配置した音楽的な「対話」であり、楽曲構造を形作る重要な要素です。

本稿では、対比表現を分析的に理解し、楽曲解釈に活かすアプローチを探ります。

 

対比表現が出てきても、それを対比だと思っていなければ見つけることはできません。

「対比表現の見つけ方」とは「対比の表現方法を知っておく」ということと同じ。

知っていれば見つけることができます。

 

► 対比表現の基本的分類

 

1. 音響的対比

・ダイナミクス(強弱)
・音域
・音色
・ペダリングの有無

これらの要素は、単に音の物理的な変化を生むだけでなく、音楽的な空間性や立体感を創出します。

 

2. 構造的対比

・フレーズの長さ
・拍子
・テンポ
・調性

これらは楽曲の時間的構造や形式に直接的に影響を与え、大規模な音楽的アーキテクチャを形成します。

 

3. 表現的対比

・音型
・アーティキュレーション
・音の数(テクスチャー)

これらは楽曲の性格づけや表現的な多様性を生み出す要素となります。

 

► 分析事例

 

‣ シンプルな対比表現による効果

 

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第2楽章」の例

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、40-44小節)

40-44小節における対比表現の分析:

表層的な対比:

p / f のダイナミクス
・アーティキュレーションの変化

深層的な意味:

・声部の方向性(閉じる/開く)が対話的構造を形成
・古典派的な「問いと答え」の構造を内包
・軽さ( p )と歌唱性( f )の対比が二重の性格付けを実現

 

p の部分では、メロディにスタッカート混じりのニュアンスがとられており、音の方向としては、左手と右手が閉じていきます。

それに対して f の部分では、メロディにスタッカートはなく、音の方向としては、左手と右手が開いていきます。

 

このような対比を読み取れたら、

ただ単にダイナミクスやアーティキュレーションを弾き分けるだけでなく、

p の部分では「軽さ」を重視し、f の部分では「ウタ」を重視したらどうかと考えることもできますね。

 

シューベルト「ピアノソナタ第7番 変ホ長調 D 568 第4楽章」の例

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

ここでは1小節ごとに「ウタを前面に出した小節」と「リズムを前面に出した小節」が入れ替わっています。

ウタの小節はダイナミクスの松葉も書かれているので、強弱も含めてカンタービレに聴かせ、

リズムの小節はメロディに細かなアーティキュレーションが書かれているので、軽さを表現。

このように対比的に読み取ることが出来ます。

 

‣ 複合的対比表現の分析

 

ショパン「スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、155-163小節)

155-163小節における多層的対比:

対比項目:

・コラール(低音域)vs アラベスク(高音域)
・sostenuto vs leggierissimo
・和声的基盤 vs 装飾的走句

音楽的意味:

・ロマン派的な二元性の表現
・宗教的要素(コラール)と世俗的要素(アラベスク)の融合
・時間と空間の立体的構成

 

あらゆる対比表現が同居していると言えるでしょう。

このようなコラールとアラベスクとの対比は、ある意味、「問いと応え」と捉えることもできますね。

 

‣ 構造的対比表現の応用

 

ブラームス 6つの小品 バラード Op.118-3

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲尾)

終結部におけるペダリングの対比:

技術的側面:

・ペダル使用時の和音の融合
・senza pedale による音響の変化

音楽的効果:

・音響実験
・終結部における音響空間の意図的な変容
・デクレッシェンドとの相乗効果

 

ノンペダルのときの和音化されていないドライなサウンドをうまく取り入れると、ペダルを用いたサウンドとの対比表現を作れます。

 

基本的にはダンパーペダルを使って演奏してきていますが、ラスト2小節にはブラームス自身による senza pedale の指示があります。

この指示により、分散和音は指で保持しているぶんしか音が伸びないことに。

したがって、ペダルを使っていた時のように和音化されず、ペダルの効果による倍音の付加もなくなるので、非常にドライなサウンドになります。

使用していたところの和音化されたウェットなサウンドと対比になっているわけです。

 

senza pedale と書かれている小節にデクレッシェンドが書かれていますが、ペダルを使用しないことで、このダイナミクス表現もより活きていますね。

 

本例は作曲家が senza pedale を指定した例でしたが、他の作品で奏者がペダリングを決めていく場合にも応用できます。

 

► 時代様式における対比表現の変遷

 

1. 古典派の対比表現

・形式的明確さを重視
・主題的コントラストの重要性
・構造的対比の優位性

2. ロマン派の対比表現

・音響的実験の拡大
・表現的対比の多様化
・複合的対比表現の発展

 

► 分析演習のための視点

 

・楽曲全体における対比表現の分布を観察する
・対比表現が形式構造にどう影響しているかを考察する
・複数の対比要素がどのように組み合わされているかを分析する
・時代様式の特徴との関連を探る

 

► まとめ

 

対比表現の分析は、楽曲の表層的な理解から構造的な把握へと導いてくれます。

それは単なる演奏技法の問題ではなく、作品の本質的な理解と解釈に関わる重要な分析的アプローチです。

 

分析課題

・提示した作品例の他の箇所での対比表現を探してみる
・同じ作曲家の異なる作品における対比表現の使用法を比較してみる
・時代の異なる作曲家による同種の対比表現の使い方の違いを観察してみる

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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