【ピアノ】演奏者のための楽譜浄書ソフト入門ガイド
► はじめに
近年、多くのピアノ弾きが楽譜作成にデジタルツールを活用するようになっています。しかし、「本当に導入する必要があるのか」という声もよく耳にします。
本記事では、楽譜浄書ソフトの比較ではなく、その必要性と効率的な習得方法について、実践的な視点からお伝えしていきます。
► 導入と習得
‣ 1. 楽譜浄書ソフト導入のメリット・デメリット
日頃、自身で作曲やピアノアレンジをしたり、教室などで使用するアンサンブル教材を作ったりと楽譜を書く機会のある方もいるはずです。
「PCで楽譜を作成できる浄書ソフトウェアを取り入れるべきかどうか」というのは、本当に良く質問される内容です。
結論、今後のことも考えると取り入れた方がいいでしょう。
現行の製品で定番のものは:
・Sibelius
・Dorico
・MuseScore
などです。
導入するメリット:
・慣れれば、手書きよりも速くキレイに書ける
・小節の追加や移調などが、手書きの場合よりも圧倒的にラク
・パート譜を作るのが、手書きの場合よりも圧倒的にラク
・簡易再生機能があるので、合奏作品のマイナスワン音源も作れる
導入するデメリットをあえて言うのであれば:
・購入費用がかかること
・多少の学習時間がかかること
【慣れれば、手書きよりも速くキレイに書ける】
浄書ソフトウェアの操作は慣れるまでは少し戸惑うかもしれません。
しかし、一度慣れてしまって手足になると、手書きよりも速く、かつ、キレイに書けます。
自身で演奏するために作るピアノソロの楽譜であれば手書きでも問題ないのですが、他者に渡す楽譜の場合は別。渡される側は、正直、少しでも見やすい楽譜を望んでいます。
良く耳にする「何でも手書きのほうが心がこもっていて良い」というのは、楽譜のやりとりに限って言えば、詭弁だと思っています。
【小節の追加や移調などが、手書きの場合よりも圧倒的にラク】
後々、小節を追加したくなったり移調をしたくなった時に、手書きの場合は大変苦労します。一方、浄書ソフトウェアであれば、ほんの少しのアクションで済みます。
文字を書くときでも何でもそうですが、PCに任せられる部分を増やしておけばおくほど、後の変更や修正が楽になりますね。
当たり前のことのようですが、いざ手を入れる必要が出てきた時にはじめて痛感するのです。
【パート譜をつくるのが圧倒的にラク】
特に、ピアノアンサンブル作品の楽譜を書いたりと合奏教材を作る機会の多い方には、浄書ソフトウェアを導入することを強くおすすめします。
なぜかというと、パート譜を作るのが圧倒的に楽になるからです。楽なだけでなく、パート譜作成におけるミスが格段に減ります。
アンサンブルの場合はたくさんの人物を巻き込むので、いざ音出しとなった時に:
・小節がずれている
・一拍足りない
・音符の位置が線間か線上か分かりにくい
などといったトラブルやミスが起こると、全員に迷惑がかかってしまいます。
浄書ソフトウェアの場合は、一拍多かったり少なかったりするとエラーが出るか、勝手に休符を入れてくれるので、ミスに気づくことができる。その他、ありとあらゆるミスの防止を期待できます。
【簡易再生機能があるので、合奏作品のマイナスワン音源もつくれる】
浄書ソフトウェアには簡易再生機能(プレイバック機能)があるので、書いた楽譜の通りに再生してもらい、内容をチェックすることができます。
はっきり言って、生演奏のような音楽的な演奏ではありません。
しかし、特にアンサンブルのような複数人で演奏する作品の場合は、「最低限、どのようなサウンドで鳴るのか」ということをチェックできると助かるケースも多いでしょう。
聴けさえすれば、必ずしもソルフェージュ能力が高くなくても、書き間違いなどに気づくことができますので。
また、練習用に「一つのパートのみをミュートした練習用音源」を書き出すことも容易。こういった、マイナスワン音源を作成して合奏メンバーに渡すこともできるのは大きな利点です。
細かいことですが、浄書ソフトウェアを持っている人物同士がやりとりをする場合、「編集可能な元データのファイルなどで受け渡しができること」も大きな利点の一つだと付け加えておきましょう。
楽譜の書き方を理解するために手書きの練習をしてみる時期があるのはいいことですが、それ以降は原則、ソフトウェアに頼ってしまっていいでしょう。
‣ 2. 楽譜浄書ソフトの効率的な習得法
特定のソフトに限定されないことを前提に、使い方を身につけるコツを解説します。
まず伝えたいことは、いたってシンプル。
短期間で一気にガバッと学習してください。
ある程度の時間をとれるタイミングで学習を始め、出来れば1日、長くても3日程度で、頻繁に使う基本操作は全て学習してしまってください。
慣れないソフトの習得は、のろのろやると絶対に身につきません。また、のろくやっていると他のことを考え出してしまいます。
改めて手書きでも楽譜は書けると思ってしまうと優先順位が低くなりがちで、結局、買ったはいいものの退蔵させることになる。これで辞めてしまった例はたくさん知っています。
とにかく、一気に学習してください。
それから、進め方にもコツがあります。
完全ガイドを読破しようとして、端から読まないでください。
「操作方法完全ガイド」のようなものを読破しても、9割以上の内容は忘れます。
この類のものは、言ってみれば「辞書」と同じ。完全ガイドを端から読みながらソフトを習得するのは、辞書を端から読みながら小説を書くのと同じくらい無理なこと。
もとから、そういう前提で書かれた解説本ではないのです。
ではどうすればいいのかというと、インターネット検索などで「音符の入れ方」のような基礎よりも前の段階さえ覚えたら、後は実際に入れたい楽譜をどんどん入れていってください。
このようにすると、それを入れるために必要なテクニックを知らないといけないので、辞書を引くように必要な部分のみを調べて覚えることになります。
「必要だから出てきたテクニック」なので身につきますし、忘れても復習すればすぐに思い出せます。
完全ガイドの中には絶対に使わないような内容も含まれています。使わなければ結局忘れるので、はじめから必要になったテクニックだけ覚えていけばいいということ。
特にソフトウェアとはこういったスタンスで付き合わないと、時間が必要以上に持って行かれてしまいます。
必要なテクニックを逆引き的に調べたら、原本の楽譜の該当箇所へ手書きでやり方を書きこんでおくといいでしょう。
例えば、7連符の入れ方を忘れたら、無理にやり方を思い出すというよりは、「あの楽曲で、7連符を入れたんだったな」ということを実例と共に思い出し、その楽譜を見る。そうすると、やり方がメモしてあるわけです。
つまり、「そのソフトで何ができる」ということさえ知っておけば全てを暗記する必要はなく、見返しの繰り返しで勝手に覚えていけるということ。
以下のやり方を提案します:
・短期間で一気にガバッと学習する
・完全ガイドを読破しようとして、端から読まない
・基礎よりも前の段階さえ覚えたら、実際に入れたい楽譜をどんどん入れていく
・調べたやり方を、原本の楽譜の該当箇所へ書きこんでおく
・必要になったテクニックだけを覚えていくつもりで学習する
► 終わりに
楽譜浄書ソフトの導入は、確かに初期投資と学習時間が必要です。しかし、キレイな楽譜作成、効率的な編集など、その恩恵は投資に十分見合うものです。
本記事で紹介した学習方法を参考に、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
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