【ピアノ】楽曲分析の基礎:8小節の法則と小節の付け足しを理解する

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【ピアノ】楽曲分析 : 小節の「付け足し」を見抜く

 

► 8小節の法則とは:歴史と重要性

 

クラシック音楽のうち、最もオーソドックスな作品は8小節を基本単位として構築されています。

この「8小節の法則」は18世紀以降、西洋音楽の基礎として定着しました。

なぜ8小節なのでしょうか?

・人間の呼吸や歩行のリズムと自然に調和する長さ
・記憶しやすく、理解しやすい構造を作れる
・2小節×4、4小節×2など、バランスの取れた分割が可能

 

► なぜ小節の付け足しを学ぶのか

 

楽曲分析の醍醐味のひとつは、作曲家の工夫を見抜くことです。

その中でも「小節の付け足し」は、作曲家が音楽的な効果を高めるために頻繁に用いる手法です。

小節の付け足しを理解することで:

・楽曲の構造をより深く把握できる
・作曲家の意図を読み解ける
・演奏解釈の幅が広がる
・暗譜力と理解力が向上する

 

► 本記事の対象者と前提知識

 

こんな方におすすめ
・楽曲の仕組みを理解したい方
・作曲者の工夫を見抜けるようになりたい方
・音楽理論の知識がほとんどなくても分析をしたい方
・暗譜に苦手意識がある方
・楽曲を聴いて構造を理解したい方

必要な前提知識
・基本的な楽譜が読める程度
・小節という概念を理解している程度

 

► 小節の付け足し – 基本概念

 

‣ 8小節の基本構造

 

クラシック音楽では、多くの楽節(フレーズのまとまり)が8小節で構成されています。

これを「大楽節」と呼びます。

しかし実際の楽曲では、この基本構造に「付け足し」や「拡大」が施されることが少なくありません。

 

‣ 付け足しの種類

 

2つの主要な手法:

 

1. 小節の付け足し

既存の構造に新しい小節を追加

主な目的:

・フレーズの強調
・音楽的な余韻の創出
・次のセクションへの橋渡し

 

2. 小節の拡大

既存の内容を時間的に引き伸ばす

主な目的:

・メロディーの展開
・音楽的な表現の充実
・テンポ感の調整

 

► 実例で学ぶ小節の付け足し

 

‣ 例1:ベートーヴェン「ソナチネ Anh5(2) ヘ長調 第2楽章」

 

ベートーヴェン「ソナチネ Anh5(2) ヘ長調 第2楽章」を例に、見ていきましょう。

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、37-48小節)

分析のポイント:

・全体は12小節
・基本構造は8小節(37-40小節 + 45-48小節)
・41-44小節が付け足し部分

なぜ付け足したのか?

・フレーズの展開をより豊かにするため
・音楽的なバランスを整えるため
・同じメロディを繰り返すことで馴染みを持たせるため

 

試しに、41-44小節目を省略し、40小節目から即45小節目へつないで演奏してみてください。

それほど違和感なく成り立つのが分かると思います。

 

‣ 例2:モーツァルト「ピアノソナタ第11番 K.331」第1楽章

 

必ずしも小節と小節の間に付け足されるとは限らず、

以下のように、セクションの末尾に追加されることも。

 

モーツァルト「ピアノソナタ第11番 K.331(トルコ行進曲付き) 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-18小節)

分析のポイント:

・基本の16小節構造(1-16小節)
・17-18小節が付け足し
・テーマの締めくくりとして機能

 

► 実践:小節の付け足しを探す

 

‣ 課題1:モーツァルト「メヌエット ヘ長調 K.5」

 

モーツァルト「メヌエット ヘ長調 K.5」を使って、「小節の付け足し」を見つけてみましょう。

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-10小節)

分析の手順:

・全体の小節数を確認(10小節)
・前半部分の構造を確認(1-4小節)
・後半部分で付け足しを探す

 

解答例と解説:

・付け足し箇所:7-8小節
・理由:5-6小節のパターンの印象付け
・効果:フレーズの充実と終止感の強化

 

‣ 課題2:ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第2楽章」

 

ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第2楽章」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、30-40小節)

分析の手順と考え方:

・新しいカタマリの開始点を見つける(34小節)
・基本構造との違いを確認
・付け足された部分を特定(37-39小節)

 

課題1よりも難しい内容ですが、考え方の詳細は以下のようになります。

34小節目の左手が動き出すところから新しいカタマリ。
ここまでが4小節ひとカタマリであり、後半も4小節で来ると思いきや、7小節。
そこで、付け足しがあるのではないかと疑う。
35-36小節のカタマリが反復されているので、「37-38小節」が付け足されたと分かる。
加えて、トニックへの着地は最終小節のみで済むものを2小節にしているので、
「39小節目」も付け足されたと分かる。

 

► 小節の拡大

 

上記「小節の付け足し」よりも高度になるので、簡単に触れておくだけにしますが、

似たものとして「小節の拡大」という手法もあります。

 

再び、ベートーヴェン「ソナチネ Anh5(2) ヘ長調 第2楽章」を例に、見ていきましょう。

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、49-58小節

 

譜例(49-58小節)は、やはり、まとまったひとつのかたまりになっています。

 

先ほども書いたように、

大楽節は「8小節」で出来ていることが多いのですが、この譜例の大楽節は10小節あります。

 

基本のカタチの8小節よりも、2小節ぶん増えていることになります。

前項までの譜例では「付け足し」で小節数が増えていたわけですが、

この例では「小節の拡大」で増えているんです。

どこが拡大しているのか分かりますか?

 

(再掲)

53-56小節に注目してください。

この4小節間は、2小節で済むものを2倍に拡大しています。

仮に2倍に拡大されていなければどうなるのかを譜例に示しましたので、音を出しながら確認してください。

 

(原曲の49-58小節を、8小節で表現した例)

成立するのですが、これでは原曲に出てくる左手のメロディが欠落してしまいますね。

メロディまで圧縮してしまうと、音楽がせわしなくなってしまいます。

 

左手のメロディをたっぷりと歌うことも考えると、

ベートーヴェンが書いたように、2倍の小節数へ拡大したほうが都合が良かったのでしょう。

 

► 応用課題:練習している楽曲を分析する

 

取り組み方:

1. 練習中の曲で8小節以上の大きなフレーズを選ぶ

2. 基本構造(8小節)からのずれを探す

3. 以下の点を考察:

・なぜその箇所に付け足しが必要だったのか
・音楽的にどのような効果をもたらしているか
・付け足しがない場合との違い

 

► 分析力を深めるために

 

次のステップ:

・より多くの事例に触れる
・様々な作曲家の手法を比較する
・付け足しの音楽的効果を演奏で確認する

発展的な学習

・「小節の間引き」「小節の縮小」の例も探してみる
・異なる時代や様式による手法の違いを研究する
・自分の解釈に基づいて演奏表現を工夫する

 


 

【おすすめ参考文献】

本記事で扱った、ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1)」について学びを深めたい方へ

・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【ベートーヴェン ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1)】徹底分析

 

 

 

 

 

 

本記事で扱った、ベートーヴェン「ソナチネ Anh5(2) ヘ長調 第2楽章」について学びを深めたい方へ

・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【ベートーヴェン ソナチネ ヘ長調 Anh5(2) 第2楽章】徹底分析

 

 

 

 

 

 

本記事で扱った、モーツァルト「メヌエット ヘ長調 K.5」について学びを深めたい方へ

・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【モーツァルト メヌエット K.4 K.5】徹底分析

 

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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