【ピアノ】どっちがどっち?音楽学習が深まる「紛らわしい音楽用語」徹底解説

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【ピアノ】どっちがどっち?音楽学習が深まる「紛らわしい音楽用語」徹底解説

► はじめに

 

「楽譜に『rit.』と書いてあるけど、これって『rall.』とどう違うの?」「『ここはレガートで』と言われたけど、テヌートの連続と何が違うんだろう…」

ピアノを学ぶ多くの方が、こうした疑問でつまずいた経験があるはずです。似ているけれど意味が違う用語を整理すると、楽譜の読み方が変わり、演奏の説得力がぐっと増します。

本記事では、初心者がつまずきやすい基本から、中級者なら知っておきたい専門用語までを一気に整理しました。

 

► 本記事の活用にあたっての注意点

 

本記事は、信頼できる参考文献を基に作成していますが、音楽用語には以下の特徴があることをご了承ください:

・時代や地域によって解釈が変化している用語がある
・学術的定義と実践現場での使用法が異なる場合がある
・日本語訳が複数存在し、統一されていない用語がある

 

参考文献:

・ニューグローヴ世界音楽大事典
・楽典―理論と実習 著:石桁真礼生 他 / 音楽之友社

 

► 紛らわしい音楽用語

‣ 基礎概念

· 音名 vs 階名

 

音名(pitch names)

「絶対的な音の高さ」を示す名前:

・1オクターヴ内の7つの音高に与えられる固定的な名称
・どの調でも変わらない「音そのもの」の名前

各言語での表記:

・英語圏:C, D, E, F, G, A, B(嬰音・変音には「♯」「♭」を付加)
・日本:ハ、ニ、ホ、へ、ト、イ、ロ(嬰音・変音には「嬰」「変」を付加)
・ドイツ語:C, D, E, F, G, A, H(嬰音・変音には接尾辞を付加)
・イタリア・フランス・スペイン語:Do, Re, Mi, Fa, Sol, La, Si

実例:

・ピアノの真ん中の「ド」は、どんな曲でも常に「C(ハ)」
・その右隣の「レ」は、どんな曲でも常に「D(ニ)」

 

階名(syllable name / movable do)

「音階内での相対的な位置」を示す名前

・他の音との音程関係によって決まる名称
・調が変わると、同じ階名でも実際の音高が変わる
・ドレミファソラシ(Ti)というシラブルを使用

別名:

・「シラブル名」:ドレミという音節(シラブル)を使うため
・「トニック・ソルファ名」:イギリスの音楽教育方法に由来
・「移動ド」:イタリア・フランス・スペイン語圏の「固定ド」と区別するため

実例

ハ長調(C-dur)の場合:
・「ド」= C(ハ)
・「レ」= D(ニ)
・「ミ」= E(ホ)

ト長調(G-dur)の場合:
・「ド」= G(ト)← 主音が変わる
・「レ」= A(イ)
・「ミ」= B(ロ)

 

まとめ:両者の決定的な違い

項目 音名 階名
基準 絶対音高 相対音高(音程関係)
変化 調が変わっても不変 調が変われば同じ階名でも音高が変わる
用途 楽器の音を特定する 音階内での役割を理解する
「C(ハ)」は常にC 「ド」はその調の主音

 

参考文献

本解説は「ニューグローヴ世界音楽大事典」の記述を基に作成しました。

 

· 和音 vs 重音

 

和音(chord)

2つ以上の音が同時に響いてできる合成音

(出典:「ニューグローヴ世界音楽大事典」)

 

「和音」と「重音」は、どちらも「複数の音が同時に鳴る」という点では共通していますが、「音楽理論上の役割」と「奏法(テクニック)」という、注目している視点に大きな違いがあります。

以下のような使い分けが一般的です。

項目 和音 重音
音の数 2つ以上の音 2つ以上の音
主な視点 音楽理論・ハーモニー(機能や構成) 演奏技法・物理的状態(同時に弾くこと)

 

‣ 楽曲構造・形式

· 移調 vs 転調 vs 移旋

 

移調(transposition)

曲の各音の相対的な音程関係を変えずに、そっくり別の高さ(異名同音を含む)に移すこと

(出典:「楽典―理論と実習 著:石桁真礼生」)

 

転調(modulation)

楽曲が進行の途中で他の調に移行すること

例:C-dur → a-moll、C-dur → F-dur など

C-durの部分を、各音の相対的な音程関係を変えずにそっくりF-durへ移した場合は「移調」ですが、曲の中で曲の雰囲気を変えたりするためにF-durへ移行する場合、それは「転調」です。

 

移旋(modal interchange)

主音を固定したまま音階(スケール)の種類が変化すること

例:C-dur → c-moll、a-moll → A-dur など

 

練習課題

クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」冒頭8小節の楽譜。C-durからG-durへの転調例を示す。

8小節目からは第2主題が始まり、調号は変わっていませんが「G-dur」に転調しています。「C-dur → G-dur」では、主音が固定されずに(CからGに変わる)、楽曲が進行の途中において他の調に移行しているので、「転調」です。

 

同曲より

譜例(16-27小節)

クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」16-27小節の楽譜。c-mollからC-durへの移旋(同主調変化)を示す展開部と再現部。

・16小節目からの展開部は「c-moll」
・24小節目からの再現部は「C-dur」

 

この「c-moll → C-dur」の変化をどう解釈するか

1. 形式的観点(より一般的)
「展開部→再現部」という構造的な転換点で調が変わっているため、 「ソナタ形式における転調」として扱うのが適切

2. 理論的観点
主音「C」は固定されたまま、長調⇄短調が入れ替わっているため、 移旋と見ることもできる

 

厳密には文脈や理論的立場によって解釈が分かれる内容です。

 

· ポリフォニー vs ホモフォニー

 

ポリフォニー(polyphony / 多声音楽)

右手も左手も、それぞれが独立した旋律線として動く形式

特徴:

・「主役+脇役」という考え方ではなく、各声部がそれぞれ重要性を持つ
・複数の旋律が同時進行
・J.S.バッハの作品が代表例

 

J.S.バッハ「インヴェンション 第1番 BWV772」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

J.S.バッハ「インヴェンション 第1番 BWV772」冒頭の楽譜。ポリフォニー的な2声の独立した旋律線を示す。

 

ホモフォニー(homophony / 和声的音楽)

主旋律と伴奏という、役割がはっきり分かれている形式

特徴:

・一つの声部が主導的な旋律を担当
・他の声部は和声的サポートを提供
・古典派以降の多くの作品がこの形式

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム) Op.68-10 楽しき農夫」

譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-10 楽しき農夫」冒頭の楽譜。ホモフォニー的な主旋律と伴奏の関係を示す。

 

応用視点

ホモフォニー的な和音とポリフォニー的な和音の違いについては、【ピアノ】和音分析の基礎:ホモフォニーとポリフォニーの違いを理解する を参考にしてください。

 

補足

モノフォニー(Monophony / 単旋律音楽)
例:グレゴリオ聖歌

 

· カデンツァ vs カデンツ

 

カデンツァ(cadenza)

・協奏曲などで独奏者が技巧を披露する挿入部分
本来は「終止」の意

特徴:

・通常、楽曲の後半部に配置
・作曲者が書き記したり、場合によっては、演奏者が即興で行うこともある

・バロック期は即興、古典派以降は作曲されることが多い
・通常、オーケストラは休止する
・ピアノソロ楽曲にカデンツァが作られることもある

 

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、カデンツァ部分)

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」カデンツァ部分の楽譜。独奏者が技巧を披露する挿入部分の例。

 

カデンツ(cadence / 終止法)

・楽曲やフレーズの区切り・終わりを示すための音楽的な「句読点」のような役割を果たすもの
・特定のメロディパターンや和声進行、不協和音から協和音への解決などによる
・音楽に「ここで一区切り」という感覚を生み出す

このような終結感を作り出すためのパターン自体も「カデンツ」と呼ばれます。どんな旋律で何個の和音で構成すべきという厳密なルールはなく、文脈に応じて柔軟に用いられます。

下の譜例で和音が連続している部分が、典型的なカデンツの例です。

 

ハノン「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト より 第39番 ハ長調」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成)

ハノン「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト 第39番 ハ長調」終結部の楽譜。典型的なカデンツ(終止法)を示す。

重要なポイント

カデンツは必ずしも「複数の和音」とは限りません。 単一の和音、あるいは旋律線のみでも終止感を生むことができます。

 

· 保続(ペダルポイント)関連用語の整理

 

保続(pedal point)とは、一つまたは複数の音を持続させながら、他の声部が和声的に変化していく技法です。

 

術語の整理

保続:音を持続する技法の総称
持続低音:主に低音部で用いられる保続
オルゲルプンクト(orgelpunkt):ドイツ語圏での呼称。「オルガンの点」の意味
ペダルポイント:英語圏での呼称。オルガンの足鍵盤(ペダル)で音を伸ばしたことが由来

 

2つのタイプ

低音保続(bass pedal point):

・最も一般的な形
・低音部で主音や属音を持続

高音保続(soprano pedal point / inverted pedal point):

・最高声部で音を持続
・より珍しい技法

 

クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、20-27小節)

クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」の楽譜。20小節目から27小節目の譜例が掲載されており、属音が赤い音符で示されている。

着目ポイント:

・展開部末尾(20-23小節)での属音(レッド音符)が保続音
・低音と高音の両方で保続している
・再現部への音楽的な準備としての効果

 

推奨記事:【ピアノ】低音保続(ペダルポイント)の分析:作曲家たちの意図を読み解く

 

‣ 演奏表現

· テヌートの連続 vs レガート

 

譜例(Sibeliusで作成)

テヌート記号が付いた音符が連続している譜例と、スラー記号が付いた音符が連続している譜例。

テヌートの連続とレガートは、一見似ていますが本質的に異なります。

 

テヌート(tenuto)の連続

・各音を保持しながらも音と音の間に微細な切れ目を入れる
・ピアノでは「音の長さを保ち終えたら、バッサリ消す」イメージ
・弦楽器では弓を一音ごとに返す
・管楽器ではタンギングを使用

 

レガート(legato)

・音を完全につなげる
・音と音の間に切れ目がない
・なめらかで流れるような演奏

 

詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】テヌートの連続とレガートの違いとは?演奏法と使い分けのポイント

 

· アーティキュレーション vs フレージング

 

アーティキュレーション(articulation)

並んだ個々の音の演奏法(つなぎ方、切り方)、および、それらを示す記号や指示

例:

・スタッカート(短く切る)
・テヌート(音価を保つ)
・アクセント(強調する)
・スラー(なめらかにつなぐ)

場合によっては、これらの「組み合わせ」で微妙な細部ニュアンスを表現していきます。また、記号が書かれていない作品では、演奏者の解釈で並んだ個々の音の演奏法を考えていく必要があります。

 

フレージング(phrasing)

・音楽のまとまり(フレーズ)をどう表現するかの解釈
・このまとまりの長さ基準:「フレーズ(phrase / 楽句) < 楽節」

特徴:

・音楽の「呼吸」や「文章の句読点」に相当
・フレーズの始まりと終わりの設定

 

ショパン「ノクターン 第2番 Op.9-2」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

ショパン「ノクターン 第2番 Op.9-2」冒頭4小節の楽譜。フレーズ構造の分析例としてA〜Dの4つの楽句を表示。

ここでは、A〜Dまでの4つのフレーズ(楽句)があり、それらが合わさることで一つの楽節を形成しています。

※ 楽節のことをフレーズと呼ぶケースもありますが、本解説は「ニューグローヴ世界音楽大事典」でとられている定義を基にしています。

 

推奨記事:

【ピアノ】「フレージングとアーティキュレーション」レビュー:J.S.バッハ研究の第一人者が説く基礎文法

 

· リタルダンド vs リテヌート vs ラッレンタンド

 

リテヌート(ritenuto)

・「ritenere」の過去分詞形に由来し、「抑制された」という意味を持つ
・一般的な解釈では、ラッレンタンドやリタルダンドよりも突然で大幅なテンポ減速を指す
・しかし本来の意味は、より遅いテンポへと明確に切り替え、その新しいテンポをそのまま維持することにある
・現在分詞形の「ritenente(リテネンテ)」は、より穏やかなテンポ変化を表す

 

リタルダンド(ritardando)

・「ritardare」のジェルンディオ形で、「ためらいながら」「次第に遅く」の意味
・「tardando」という略記も見られる
・イタリア語由来の速度表示が一般的でない地域でも、リタルダンドだけは広く採用された

ヨーゼフ・チェルニーは1825年の《クラヴィーア教本》において、リタルダンドを適用すべき状況を詳細なリストにまとめました。彼の使用例から、多くの場合すぐに本来のテンポに復帰することが想定されていたことが読み取れます。

 

ラッレンタンド(rallentando)

・「rallentare」のジェルンディオ形で、「だんだん遅くする」という意味
・テンポをゆるめる指示として用いられ、「rall」と省略されることも多くある
・18世紀には「lentando」という形が主流だった
・ラッレンタンドという語自体は比較的新しく、19世紀より前の楽譜にはほとんど登場しない

 

補足

これら3つの用語には微妙な意味の違いがありますが、作曲家たちはそれぞれ独自の解釈で使用してきました。演奏の現場では、これらの用語の境界線は必ずしもはっきりしておらず、楽曲の文脈や演奏の伝統によって解釈が異なることがあります。

 

参考文献

本解説は「ニューグローヴ世界音楽大事典」の記述を基に作成しました。

 

‣ 音楽現場で使われる「特殊な用語」

 

電子楽器・電気楽器、映像・放送業界で使用される音楽関連用語を整理します。これらの用語は業界や人によって定義が異なる場合があるため、あくまで一般的な傾向として理解してください。

 

· SE vs ME vs コンマ vs ジングル vs サウンドロゴ

 

SE(sound effect / 効果音)

条件:

・現実にある音(演じることで生じる音も含む。音楽を除く)
・抽象的な効果音(「リバース」など、楽音として楽譜に書けないもの)

例:

・鳥の声で朝を思わせる(時間帯を表す音)
・不吉なことの予兆で鳥がキキキキ鳴いている(伏線を用いた表現)

注意

SEの効果を音楽中に入れるケースもあります。「音楽の途中のポイントでSEを思わせる要素を “音楽として” 表現する」ことで、そのポイントから音楽の雰囲気を変えていくのは常套的なやり方です。

 

ME(music and effect)

音声トラックのうち、セリフやナレーションを除いたもの

条件:Effect的な音楽(楽音として楽譜に書けるもの)

業界用語であり、MEはSEから派生して使われるようになった言葉のため、「SEの一部」とする考えもあります。もともとは「サスペンス」で用いられました。

 

コンマ

例::「チャンチャン」「ビヨヨーン」など

短くて印象的。バラエティ番組などで頻繁に使用されます。

 

ジングル(jingle)

2つの意味:

番組中で使用される、効果音や極めて短い音楽:

・番組の途中でCMに入るときなどにお決まりで流れる
・「CMに変わる」というのを視聴者に認識させる役割
・バラエティ番組のコーナーチェンジでも使用

約3.5秒の短いCM音楽、およびそれより短いCM音楽:

・テレビ番組やCMでは「開始0.5秒と終了0.5秒は無音にしないといけない」という決まりがある
・この無音箇所を「ノンモン(Non Modulation)」と呼ぶ
・実質、5秒のCMにおけるCM音楽は約3.5秒となる

特徴:

・ジングルは「歌いこむ」ケースが多数を占める
・覚えやすく短い歌をあてた個性的なジングルが多く発表されてきた
・ジングルは「広告音楽・広告音」なので、SEやMEには該当しない

 

サウンドロゴ(sound logo)

企業・商品のイメージを表現した広告音楽

特徴:

・企業・商品の名称を歌詞として歌い込むケースが多い
・音だけによるサウンドロゴもある
・「聴覚的なロゴ」として、企業・商品のロゴとして定着させることを意図
・「広告音楽」なので、SEやMEには該当しない

 

► 終わりに

 

音楽用語を理解することは、作曲家が楽譜に隠した「暗号」を解くようなものです。一つひとつの用語の違いを知ることで、楽譜から読み取れる情報が格段に増え、より説得力のある演奏につながることでしょう。

 


 

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