【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「君は赤いバラに似て」:特徴と演奏のヒント

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【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「君は赤いバラに似て」:特徴と演奏のヒント

► はじめに

 

ロベルト・シューマンが作曲した歌曲「君は赤いバラに似て(Dem roten Röslein gleicht mein Lieb)」は、彼の妻であるクララ・シューマンの手によってピアノ独奏版に編曲されています。このピアノ編曲版は、原曲の持つ音楽性を保持しながら、ピアノの表現力を引き出した仕上がりとなっています。

本記事では、クララによる編曲版の音楽的魅力と、演奏者が実践できる表現上のポイントについて解説します。

 

► 前提知識

‣ 原曲「君は赤いバラに似て」の基本情報

 

シューマン「リートと歌 第1集 Op.27 より 第2曲 君は赤いバラに似て」(原曲の歌曲)

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「リートと歌 第1集 Op.27 より 第2曲 君は赤いバラに似て」原曲歌曲版の楽譜(曲頭部分)。

 

作曲年:1840年
演奏時間:約1分20秒
歌詞:ロバート・バーンズの原詩
内容:愛する女性の美しさをバラとメロディに喩え、永遠の愛を誓う情熱的な愛の歌
構成:「リートと歌 第1集 Op.27」の第2曲

 

1840年は、ロベルトとクララが彼女の父フリードリヒ・ヴィークの激しい反対を乗り越え、法廷闘争の末にようやく結ばれた記念すべき年です。このOp.27は、まさにその年に作曲されました。全5曲からなるこの作品集は、一般的な知名度は高くありませんが、それぞれが独自の魅力を持つ優れた歌曲です。

 

‣ クララ・シューマンについて

 

クララ・シューマン(1819-1896)

・19世紀を代表する女性ピアニスト・作曲家
・ロベルト・シューマンの妻(1840年結婚)
・優れた音楽編集者としても活動
・ブラームス、リストらと深い音楽的交流を持つ

 

クララの父フリードリヒ・ヴィークは、ロベルトのピアノ教師でありながら二人の結婚に強く反対していました。法廷闘争まで発展した困難を乗り越えて結ばれた二人の愛の物語は、音楽史上最も美しいエピソードの一つです。

クララは演奏家として国際的な名声を得ただけでなく、ロベルトの作品の編集者・解釈者としても重要な役割を果たしました。彼女が編集した楽譜や編曲作品は、作曲者の意図を深く理解した資料として、今日でも高い価値を持っています。

 

► クララ編における編曲の基本方針と難易度

 

シューマン「君は赤いバラに似て(クララによる編曲版)」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

クララ・シューマン編曲「君は赤いバラに似て」ピアノ独奏版の楽譜(曲頭部分)。

 

編曲の基本方針

クララによるこの編曲版の特徴は、作曲者への深い敬意を持った編曲アプローチです。歌曲としての本質的な魅力を維持しながら、ピアノ作品として成立させることに重点が置かれています。

編曲技法の特徴:

・歌曲の伴奏部分を土台として効果的に活用
・声楽パートの旋律を繊細にピアノ声部へ融合
・原曲の音遣いや音楽的構造への配慮を徹底し、改変は最小限に抑制

技術的難易度

ツェルニー30番入門程度から挑戦可能

技術的には初中級レベルですが、音楽的な表現力が求められるため、単純な技術難易度だけでは測れない作品です。

 

► 演奏上の注意点

‣ 段階的なクレッシェンド

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、8-11小節)

クララ・シューマン編曲「君は赤いバラに似て」8-11小節の楽譜:段階的クレッシェンドと音の打点が交互になる箇所を解説するための譜例。

8小節目に記された「cresc.」に注目してください。作曲家はなぜここで松葉記号(< >)ではなく、文字による指示を選んだのでしょうか。

 

演奏解釈

松葉記号による連続的なクレッシェンドではなく、「段階的(テラス状)なクレッシェンド」を意図していると考えられます。

具体的なアプローチ:

・スラーごとのフレーズを一つのブロックとして捉える
・各ブロックの開始時に音量を段階的に上げる
・フレーズ内部では自然な音楽的起伏を保つ
・レッドで示した音(スラー終わりの音)が不自然に突出しないよう注意

避けるべき演奏

グーッと連続的に音量を増やすと、スラーの終わりの音が飛び出してしまい、フレーズの形が崩れて非音楽的になります。

 

‣ 音の打点が交互になる箇所の処理

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、8-11小節)

クララ・シューマン編曲「君は赤いバラに似て」8-11小節の楽譜:段階的クレッシェンドと音の打点が交互になる箇所を解説するための譜例。

11小節目や27小節目のように、右手と左手が交互に音を弾く箇所では、音楽が縦割りになってしまう危険性があります。

 

演奏のコツ:

・左手の親指で弾く音は控えめに演奏する
・横方向の音楽の流れを常に意識する

 

‣ テンポ変化の処理

 

この作品では「rit. → a tempo」が頻繁に登場し、書法そのものにアゴーギク的な性格が組み込まれています。

 

演奏のコツ:

・すべてのrit.を大げさにやると、音楽が細切れになり流れが失われる
・rit.は「息を入れる程度」の軽いもので十分
・段落感をつけ過ぎずに流れを保つ

 

‣「♬♪」リズムの軽やかさ

 

この楽曲の重要なリズム的特徴は「♬♪」です。

 

演奏のコツ

このリズムの2つ目と3つ目の音が重くなったり大きくなったりすると、音楽全体が重々しく野暮ったい印象になってしまいます。重みは1つ目の音に自然に置くようにしましょう。

 

► 楽譜情報

 

以下の楽譜集には「君は赤いバラに似て」をはじめ、クララが編曲したロベルトの歌曲が網羅的に収載されています。歴史的価値と実用性を兼ね備えた貴重な資料として、音楽学習者や研究者に愛用されています。

 

・クララによるシューマン歌曲のピアノソロ編曲集 30 Lieder und Gesange fur Klavier

 

 

► 終わりに

 

クララ・シューマンによる「君は赤いバラに似て」の編曲は、原作への深い愛と理解から生まれた作品です。夫ロベルトの音楽を最もよく理解していた音楽家による編曲だからこそ、原曲の精神が損なわれることなく、ピアノ独奏作品として完成されています。

演奏にあたっては、原曲の歌詞内容の学習も併行して取り組むようにしましょう。

 


 

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