【ピアノ】指先のテクニック:点感覚から音色コントロールまで
► はじめに
ピアノ演奏において、指先の使い方は音色や表現力や弾きやすさを決める重要な要素の一つです。使い方を磨くことで、より美しい音楽を奏でることができるようになります。
本記事では、指先の感覚の磨き方から実践的な演奏テクニックまで、多角的にアプローチしていきます。
► 多角的なヒント
‣ 1. 指先の点感覚の磨き方
「ピアノ演奏おぼえがき」 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
という書籍に、以下のような文章があります。
点感覚とは、圧力、重量、打鍵、衝撃などのエネルギーがすべて集中する、指先の感覚のことである。
これは “引っ張る感覚”のように、指先の全面にわたるものではない。
この感覚は、張りのある旋律を作り出す上での支点になるものである。
“引っ張る感覚” とは、指を手の内側に引き込むようにして、ピアノから音を引き出すような感覚をいう。
すなわち突くような動作ではなく、どんな不快な雑音を出してもいけない。
”引っ張る” 速さがデュナーミクを決める。
(抜粋終わり)
このテクニックだけですべてをまかなうわけではありません。しかし、指先に針でとらえたような細く集中された点を意識することで、指先の感覚が鋭くなり、楽に美しい響きを作ることができるのは確かです。
「熱いものに触れてしまったときの指先の感覚」と説明されることもありますが、もっと分かりやすい感覚の磨き方があります。
「画鋲をコルクに押し込む感覚」をイメージしてみましょう。
コルクのようなある程度の硬さと弾力性があるものに画鋲を押し込むときというのは、わずかながら指圧が必要です。適度に指圧をするのだけれども、コルクに入っていくのは、ごく細い針の部分。
これを一度やってみると、指先で点を捉えるという感覚が良く分かります。やってみるのが一番ですが、画鋲もコルクも自宅にない場合はとりあえず想像してみてください。
・ピアノ演奏おぼえがき 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
‣ 2. 鍵盤がコントロールしにくいと思ったら
出したいイメージの音があっても、「音色やダイナミクスなどをうまくコントロールできない」と感じることはありませんか。
そういったときには、「指先や手自体が鍵盤の奥に入り過ぎていないか」をチェックしてみましょう。鍵盤は奥のほうに行くほど重く感じるようにできているので、入り過ぎてしまうとコントロールが利きにくくなってしまいます。
ちなみに、電子ピアノについている「キータッチ」という機能で、鍵盤の重さを変えることができる機種があります。どうしてそんなことが可能なのか想像できるでしょうか。
これは厳密には、「演奏者に鍵盤の重さが変わったように感じさせる機能」となっています。軽いタッチに指定した場合は、打鍵するとすぐに音が立ち上がるようにプログラムされており、反対に、重いタッチに指定した場合は、打鍵してから音が立ち上がるまでに数msecの時間をとるようにプログラムされています。こうすることによって、奏者からすると鍵盤の重さが変わったように感じるというわけなのです。
‣ 3. 単音をつぶやくように弾く方法
モーツァルト「ピアノソナタ ハ短調 K.457 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、146-150小節)
ここでのメロディは:
・つぶやくような4分音符が2回
・それに続いて、息の短い、ため息のような動き
つぶやくような4分音符をどのように表現すればいいのでしょうか。以下の2点に注意しましょう:
・打鍵は、カツンと入れずに、打鍵速度をゆっくり目で押し込むように打鍵する
・余韻も含めて4分音符の長さにするようなイメージで、離鍵もゆっくり目を心がける
この「音の入り」と「余韻の消し方」の両方を指先でコントロールするのが、つぶやくようなサウンドを得るポイント。
離鍵について、もう少し補足しておきましょう。
鍵盤をピッと上げてしまうと音もピッと消えてしまうので、つぶやくようなサウンドにはなりません。
鍵盤を押し下げている間というのは、その鍵盤に対応する「ダンパー(弦の響きを止める役割のある部品)」が弦から離れたままになる仕組みとなっています。だからこそ、その鍵盤に対応する弦が響きっぱなしになるわけです。
以下の写真を見てください。弦の上に乗っているいくつも並んでいる黒いものがダンパーです。
(写真)
鍵盤がピッと上がってしまうと、その鍵盤のアクションに連動しているダンパーも弦にピッとくっつくので、響きが急激に止まります。一方、ゆっくり上げると、ダンパーも弦にゆっくりとくっつき、その響きを段々と止めることになります。したがって、離鍵をゆっくりにすると余韻を作ることができるのです。
もちろんこれは、ダンパーペダルを使用していない場合の話です。
‣ 4. なぜ、指を必要以上に立ててはいけないのか
演奏するときに指をベタッと伸ばしっぱなしにしているのは、原則、NGとされています。厳密に言えば、指に角度をつけているときと伸ばしているときではタッチが変わるので、様々な音色を追求していく段階になったら両方使うことになります。
しかし、効率の良い打鍵を考えると「基本姿勢としては、指に角度をつけて演奏する」と思っていていいでしょう。
ここで問題になるのは、爪が鍵盤に当たるほど指を立て過ぎている状態。これは避けなくてはいけません。
爪が鍵盤に当たることによる騒音が立つのも困りますが、同じくらい問題になるのが「鍵盤への指先感覚の伝え方」についてです。
指先へ適度に角度をつけたまま、鍵盤を押してみてください。爪が白くなりますね。つまり、指先にかける力を爪が支えているわけです。しかし、爪が鍵盤に当たるほど指を立ててしまうとこういった役割が無くなり、指先の力の重心がズレてしまいます。
・爪が長くなればなるほど、少しの角度で爪が鍵盤へ触れてしまう
・短過ぎると必要以上に指を立ててしまう原因となる
だからこそ、長過ぎず短過ぎずの適切な長さを保てるように、いつもメンテナンスしておかないといけないのです。「爪が長いと弾きにくい」というだけの問題ではありません。
‣ 5. 指に角度をつけると弾きやすくなる音型①
ショパン「エチュード(練習曲)Op.25-1 エオリアンハープ」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
比較的演奏しやすいと言われているにも関わらず、独学におけるショパンのエチュードの入門楽曲としてこの楽曲をおすすめできないのは、指の角度に関する良くないクセがつきやすい楽曲だからです。
譜例に見られるようなアルペジオが全曲に渡って続いていきます。
こういった音型で効率よく音を出すためのポイントは「指に角度をつける」こと。関節をフニャフニャさせない意識も持っておきましょう。
一番避けたいのが、指をベタっと伸ばしたまま弾き進めてしまうこと。音が浮いてしまううえに、不揃いの原因にもなってしまいます。
(図)
このクセ、一度つけてしまうと抜くのが大変なので、特に独学の方は気をつけて練習して下さい。似たような音型が出てくる楽曲はすべて同様です。ショパンをはじめ、特にロマン派以降の作品では頻出する音型です。
‣ 6. 指に角度をつけると弾きやすくなる音型②
ベートーヴェン「ピアノソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、39-40小節)
頻出のアーティキュレーションですが、このような「スラーとスタッカートが同居した音型」は意外と弾きにくい印象です。特にこの楽曲では「Allegro molto e con brio」でテンポが速いですし、ここはダイナミクスも p なので、なおさら弾きにくく感じることでしょう。だからといって頑張って弾こうとすると、大げさになるのです。
こういった音型では、「指に角度をつけて弾く」のがポイントです。指を伸ばして弾くと、まず上手く弾けません。
以下の3点を踏まえて練習していきましょう:
・指に角度をつける
・指先をしっかりさせる意識を持つ
・指の動きをなるべく少なくする意識を持つ
要するに、スラーが混じっていようとなかろうと「軽いスタッカートを高速で連続演奏するときのテクニック」とほぼ同じ技術を使うということです。
► 終わりに
指先のテクニックは、ピアノ演奏の根幹を成す重要な要素です。まずは本記事で紹介した注意点に意識を向けることが重要です。
重要ポイントの再確認:
・点感覚を意識した指先の使い方
・爪の長さの管理
・音の入りと余韻のコントロール
・適切な指の角度の維持
・音型に応じた技術の使い分け
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