【ピアノ】「モーツァルト ピアノソナタ 形式の分析による演奏の手引き」(共著)レビュー
► はじめに
モーツァルトのピアノソナタを演奏するうえで、楽曲構造の理解が解釈の土台となることは間違いありません。本書「モーツァルト ピアノソナタ 形式の分析による演奏の手引き」は、まさにその基礎となる楽曲分析(アナリーゼ)に焦点を当てた参考書です。国際的に活躍する3名の著者陣の専門知識により、シンプルながらも実用的な一冊になっています。
・出版社:全音楽譜出版社
・発行年:2001年
・ページ数:178ページ
・対象レベル:中級~上級者
・著者:ヨセフ・ブロッホ、中村菊子氏、木幡律子氏
・モーツァルト ピアノソナタ 形式の分析による演奏の手引き 著 : ヨセフ・ブロッホ、中村菊子、木幡律子 / 全音楽譜出版社
► 内容について
‣ 本書の特徴と構成
全178ページという比較的コンパクトな一冊ながら、モーツァルトの全ピアノソナタを網羅しています。本書の構成は大きく3部に分かれています:
1. 歴史的背景:モーツァルトの生涯とピアノソナタの背景
2. 音楽形式の解説:古典派音楽の形式についての基礎知識
3. 各ソナタの分析:全18曲の詳細な形式分析
注目すべき点は、全18曲のピアノソナタを一冊で網羅しており、各楽章の構成分析が一覧形式で示されていることです。この視覚的な整理により、一曲の全体像を把握しやすくなっています。ただし、一曲あたりの記述量は必然的に限られており、深い解釈というよりは「構造理解のための基礎分析」に重点が置かれていると思っておいてください。
‣ 本書の内容詳細
第1章:モーツァルトの生涯とピアノソナタ
この章では、モーツァルトの人生とソナタ創作の関係性が時代ごとに整理されています:
・父レオポルドとの関係性と初期の音楽教育
・各地への演奏旅行とその影響
・ザルツブルク時代の生活と創作活動
・大司教コロレドとの確執からウィーンへ戻るまで
・ウィーン時代の創作活動
第2章:音楽の形式
モーツァルトのソナタを理解するための音楽形式の基礎知識が解説されています:
・古典派音楽への移行とモーツァルトが使用した形式
・ソナタ形式の発展と構造
・2部形式の特徴
・メヌエットとトリオの形式的特徴
・ロンド形式とソナタ・ロンドの形式的特徴
・主題と変奏への言及
これらの形式知識は、第3章での各ソナタ分析を理解するための前提知識となります。
第3章:ピアノソナタの分析
本書の中核をなす章で、モーツァルトの全18曲のピアノソナタを時代順に3つのグループに分けて分析しています:
1. 1775年の初期6曲のソナタ(K.279-284)
2. 1777-79年のマンハイムとパリ旅行中に書かれた3曲(K.309-311)
3. 1781-91年のウィーン時代の9曲(K.330-576)
各ソナタの分析では楽章ごとに:
・知識的楽曲解説
・形式構造
・その他の大まかな分析
が示されており、最低限の基礎知識に素早くアクセスすることが可能です。
► 補完すべき資料
本書は形式の分析をもとにした最低限の基礎分析に焦点を当てているため、より詳しい分析については、自身で手を動かして分析したり、別の資料で補完する必要があります。例えば、以下のレビューで紹介している「山縣茂太郎『モーツァルト ピアノソナタ 楽曲構成と演奏解釈』」などを併読するといいでしょう。
‣ モーツァルト ピアノソナタ 楽曲構成と演奏解釈 著 : 山縣茂太郎
また、当時の演奏慣習などを知ることでより楽曲理解が深まるので、以下のレビューで紹介している「エファ&パウル・バドゥーラ=スコダ『新版 モーツァルト 演奏法と解釈』」などの併読もおすすめします。
【ピアノ】エファ&パウル・バドゥーラ=スコダ「新版 モーツァルト 演奏法と解釈」レビュー
► 終わりに
モーツァルトのソナタは、シンプルに見えながらも分析や解釈が難しい作品群です。本書を特に譜読みの前段階での「予習」として活用してみると、より深く正確に読み取っていくヒントになるでしょう。
・モーツァルト ピアノソナタ 形式の分析による演奏の手引き 著 : ヨセフ・ブロッホ、中村菊子、木幡律子 / 全音楽譜出版社
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