【ピアノ】バス音の打点から紐解く音楽の進行感:ベートーヴェンのソナタを例に
► はじめに
左手が奏でるバス音は音楽の基盤を形成する重要な要素です。バス音の「打点」、つまりバス音が演奏されるタイミングは、曲の進行感やエネルギーの流れを決定づけます。実際、多くの作曲家は、バス音の配置に細心の注意を払い、音楽の骨格を設計しています。
本記事では、ベートーヴェンのピアノソナタの具体例を通して、バス音の打点から読み取れる音楽の進行感について探っていきましょう。これらの分析は理論的興味にとどまらず、より説得力のある演奏解釈へとつながるものです。
► 実例分析
‣ 分析①:バス音の打点が生み出すリズムの軸
ベートーヴェン「ピアノソナタ第9番 ホ長調 Op.14-1 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、18-21小節)
バス音というのは聴覚上支配感が強いので、そこに着目することで楽曲を読み解くヒントになります。
右手の旋律と左手の伴奏型というシンプルな構造ですが、バスラインの打点に着目すると、そこには明確なリズムパターンが存在しています。下側の譜例で示したように、終止へ向けてリズムが徐々に細かくなっていく様子が分かります。
このことを踏まえると、「終止にあたって rit. をしない方が音楽の成り立ちに適している」と演奏解釈へも活かせます。
また、右手パートのメロディもこのバス音のリズムに合わせた「息の長さ」で構成されていることに気づくでしょう。
‣ 分析②:音楽的カタマリを形成するバス音
ベートーヴェン「ピアノソナタ第10番 ト長調 Op.14-2 第2楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、61-64小節)
ここでも、バス音の位置を参考に内包されている基礎リズムを読み取ると、下側の譜例で点線スラーで示したような音楽的カタマリ「1小節+1小節+2小節」が読み取れます。この譜例の部分では、右手パートのニュアンスも合わせて「1小節+1小節+2小節」の息の長さで演奏するといいでしょう。
‣ 分析③:小節線を超えたエネルギーの流れ
ベートーヴェン「ピアノソナタ第10番 ト長調 Op.14-2 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、73-76小節)
同じソナタの第3楽章(73-76小節)では、また異なるバス音の使用法が見られます。3拍目から次の小節頭へ向かう「3→1」のエネルギーが発生している書法です。単に小節頭のみでバス音を発音する書法よりも楽曲の進行感が強いことに着目してください。
► まとめ:演奏への応用
本記事で取り上げた3つの例からも分かるように、バス音の打点から読み取れる情報は、演奏解釈に指針を与えてくれます:
・リタルダンドやアッチェレランドなどのテンポ変化を施す場所の判断
・フレーズの区切り方や呼吸の取り方の決定
・アクセントの付け方や強弱のコントロール
・ペダリングの選択
もちろん、実際の楽曲では左手パートと右手パートの区切りが異なる部分も出てくるので、両手のニュアンスを合わせるべきなのか、それとも左手パートのみで表現するべきなのかは慎重に判断してください。
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