【ピアノ】マルセル・ボーフィス「シューマンのピアノ音楽」レビュー:フランスの著名な音楽美学者によるシューマン論

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【ピアノ】マルセル・ボーフィス「シューマンのピアノ音楽」レビュー

► はじめに

 

シューマンのピアノ作品について、その深層まで掘り下げて解説した貴重な一冊を紹介します。本書は通常の作品解説や演奏法の指南書ではなく、シューマンの精神世界と音楽性を、フランスを代表する音楽美学者が独自の視点で読み解いた研究書です。

 

・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1992年
・ページ数:141ページ
・対象レベル:中級~上級者

 

・シューマンのピアノ音楽 ムジカノーヴァ叢書 16 著:マルセル・ボーフィス 訳:小坂裕子、小場瀬純子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ 本書の特徴

 

本書の最大の特徴は、シューマンのピアノ音楽を純粋に音楽的な側面だけでなく、その根底にある文学性やロマン主義的気質、そして彼の精神性までも含めて総合的に言及している点です。特に注目すべき点として:

1. フランスの著名な音楽美学者による深い洞察

・マルセル・ボーフィスは、パリ音楽院で美学を教授し、ドイツロマン主義研究の第一人者として知られる碩学
・第二次ウィーン楽派との親交があり、現代音楽への造詣も深い著者による、独自の視点からの考察

2. 文学的・哲学的アプローチ

・シューマンの音楽における「リリック(抒情性)」と「フモール(ユーモア)」という二つの要素の分類
・彼の精神世界と音楽表現の関連性についての深い考察
・彼の作品と文学との関係性への洞察

3. 音楽的特徴の詳細な分析

・シンコペーションの独特な使用法
・「瞬間的な表現と大きな形式の間での揺れ動き」の指摘
・彼の音楽の統一性は、光学的・感情的統一性という「ある内的まとまり」にあるという指摘

 

‣ 内容構成

 

本書は大きく二部構成となっています:

第一部では、シューマンの音楽的思考の本質に迫る理論的考察が展開されます。特に「夜の世界」「詩法の再評価」「形式とカオス」という三つの章立ては、シューマンの創作の核心に迫る重要なテーマとなっています。

第二部では、具体的な作品を題材に考察が行われます:

・「謝肉祭」「パピヨン」などの性格的小品群
・「クライスレリアーナ」「子供の情景」などの抒情的作品
・ソナタや変奏曲などの大規模作品
・晩年の作品群

 

第一部までは、シューマンをあまり弾いたことのない方であっても読み進められますが、第二部からは、弾いたことのある作品の部分を読むか、もしくは、楽譜を用意して読み進めるのがいいでしょう。譜例は最低限しか収載されていません。

 

‣ 特筆すべき洞察

 

1. シューマンの二面性についての考察

オイゼビウスとフロレスタンという二つの創作上の人格が、ベートーヴェンの「頭」と「心」という対比とは異なり、どちらも感情的な次元で機能している点を指摘

2. 音楽構造についての新しい視点

従来の「構成」という概念ではなく、「光学的・感情的統一性」という独自の観点からシューマンの音楽を理解する視点の提示や、シンコペーションの革新的な使用法についての分析

3. 精神性と創造性の関係

・シューマンの精神的苦悩が、いかに独創的な音楽表現へと昇華されていったかの過程の解明

 

► おすすめの読者層

 

本書は以下のような方々に特におすすめです:

・シューマンのピアノ作品を演奏する中級~上級者
・音楽史やロマン派音楽を深く学習したい学習者
・シューマンの音楽的思考に関心を持つ学習者

 

► 活用の留意点

 

本書の活用にあたっては以下の点に留意が必要です:

・譜例が限定的なため、第二部以降は、楽譜と併用して読み進める必要がある
・演奏面での具体的なアドバイスを求める読者は、他の実践的な教則本と組み合わせる必要がある
・理論的な記述が多く、一度に全てを理解しようとすると少し難しい可能性がある

 

► 結論

 

本書は、シューマンのピアノ音楽を理解するうえで重要な視点を提供してくれます。文学的背景や精神性までも含めた総合的な分析により、シューマンの音楽の本質により深く迫ることができる一冊です。

 

・シューマンのピアノ音楽 ムジカノーヴァ叢書 16 著:マルセル・ボーフィス 訳:小坂裕子、小場瀬純子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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