【ピアノ】笈田光吉「ピアノペダルの使い方」レビュー
► 概要
本書は、ピアノ演奏における「もう一つの技術」であるペダリングに特化した専門書です。1957年の初版ながら、その本質的な内容は現代のピアノ演奏にも直接的に活かせる貴重な内容に満ちています。著者の笈田光吉氏は、師レオニード・クロイツァー教授のドイツ語著作「Das normale Klavierpedal」を基に、日本のピアノ学習者向けに再構築した本書を著しました。
・出版社:音楽之友社
・初版:1957年
・ページ数:138ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノペダルの使い方(笈田光吉 著 音楽之友社)
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 体系的な構成
本書は「理論」と「実際」の2部構成。第1部では、ペダルの科学的考察から始まり、使用目的、タイミング、特殊な使用法まで、体系的に解説しています。第2部では、J.S.バッハからリストまでの主要作曲家の作品における具体的なペダル使用法を詳述しています。
2. 科学的アプローチ
特筆すべきは、本書が単なる技法書ではなく、音響学的な観点からペダルの効果を解説している点。例えば、「ピアノの音は音を出してから一、二秒経過して初めて実際に美しく聞こえる」という観察は、振動学的な裏付けとともに説明されています。
3. 実践的な指導内容
理論的な説明だけでなく、具体的な楽曲における実践例が豊富に掲載されています。モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンなど、各作曲家の様式に応じたペダリングの違いが詳細に解説されています。
‣ 特に注目すべきトピック
1. ペダルと運指の関係
わずかな分量ながら、「ペダルと指使いの関係」の章は極めて重要です。著者は、ペダルがテクニック全体に重大な影響を及ぼすことを指摘し、正しい運指の決定にペダルが重要な役割を果たすと述べています。
2. 練習方法への指針
著者は、曲の練習開始時に最初にすべきことは「正しい純粋なペダル使用法を考えること」だと主張しています。
3. 楽器による差異への配慮
ペダルを踏むタイミングは、楽器の余韻の特性によって変わるという指摘は、現代のピアノ学習者にとっても重要です。
ペダルを離す時期は厳格に定めることができるが、ペダルを踏む時期は明瞭に指示することができないものであるから、ペダルを踏む時期はピアノの余韻の如何によって決定される。そして現在ある楽器は一つ一つ余韻の長短が異なるから、楽器によってペダルを踏む時期が相違してくることとなる。
(抜粋終わり)
‣ 本書の長所と留意点
· 長所
・ペダリングに関する包括的な理論的解説
・具体的な楽曲例による実践的指導
・科学的根拠に基づいた説明
・各作曲家のスタイルに応じた詳細な解説
・筆者の几帳面な性格が伝わってくる、ペダリングタイミングの細かな提案
· 留意点
・1957年当時の文体で書かれており、現代の読者にとってやや読みづらい
・ダンパーペダル以外のペダル(ソフトペダル、ソステヌートペダル)についての説明がかなり限定的
► 推奨する読者層
・中級以上のピアノ学習者
・ピアノ指導者
・ペダリングの理論的理解を深めたい方
► 総評
本書は、ペダリングという「ピアノ演奏のもう一つの技術」に関する視点を提供する専門書です。時代を経ても色褪せない本質的な内容を含んでおり、現代のピアノ学習者にとっても有益な一冊と言えます。特に、ペダルと運指の関係性や、各作曲家の作品に応じたペダリングの違いに関する解説は、演奏技術の向上に直接的に役立つヒントとなるでしょう。
・ピアノペダルの使い方(笈田光吉 著 音楽之友社)
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