【ピアノ】アンドル・フォルデス「ピアノへの道」レビュー:学習場所を選ばないアドバイス集
► はじめに
アンドル・フォルデスによる「ピアノへの道」は、1956年に邦訳が出版されてから半世紀以上を経た今でも、ピアノ学習者に深い洞察と実践的なアドバイスを提供し続けている書籍です。本書は、技術的な指導から音楽的解釈まで、ピアノ演奏の本質的な側面を網羅的に扱っています。
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版: 1956年
・ページ数:本編 86ページ
・サイズ:18cm(携帯に適している)
・対象レベル:初級~中上級者
・ピアノへの道 アンドル フォルデス (著)、渡辺 護 (翻訳) 音楽之友社
► 著者について
アンドル・フォルデス(1913年-)は、ハンガリーのブダペスト出身の著名なピアニストです。20世紀を代表するピアニスト教育者の一人であるドホナーニに師事し、多くの録音を残しています。著者の演奏経験と教育経験に基づいた本書の内容には、説得力と実践的な価値が溢れています。
► 内容について
‣ 形式と使いやすさ
・コンパクトな判型(18cm)で携帯性に優れている
・本編86ページという読みやすいボリューム
・特に第八章のQ&A形式(36項目)は、実践的な疑問に対する具体的な回答を提供
‣ 内容の特徴
全八章を通して、楽曲の取り掛かりから本番までに必要な重要項目(譜読み、練習方法、テクニック、解釈、暗譜、本番準備など)について解説されていきます。特に以下の点が特徴となっています:
1. 実践的なアプローチ
・技術的な課題から精神的な準備まで、演奏に関する総合的なアドバイスを提供
・指導者視点での悩みにも多くの紙面を割いている
2. 独自の学習メソッド
・楽器から離れての譜読みの重要性を強調
・練習の質と効率性を考慮した具体的なアドバイス
・暗譜や公開演奏の準備に関する実践的な指導
3. 音楽性の育成
・テクニックだけでなく、音楽的解釈の重要性を強調
・「清潔な演奏」という概念の提示
‣ 印象的な指導内容
練習に関する洞察
著者は「注意力減退の最初の徴候が現れた時、ピアノの椅子から立ち上がること」を推奨しています。これは、質の高い練習時間を確保するための重要な指針です。
楽しみの中での真摯さ
「気楽に弾く」ことと「ぼんやり弾く」ことの違いを明確に区別し、趣味としての演奏であっても質の追求を怠らない姿勢を説いています。
テクニック向上のアプローチ
此の変奏曲(ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲 Op.35」のこと)を演奏出来る、出来ないは別にして、此の変奏の中の幾つかを日常の練習のレパートリーの中へ加えるべきである。
(抜粋終わり)
このように、難曲であっても工夫して日常練習に取り入れることを推奨するなど、具体的な学習方法を提示しています。
‣ 現代における価値
普遍的な内容:
・1956年の邦訳にもかかわらず、そのアドバイスの多くは現代でも十分に通用
・音楽性の追求や練習方法に関する指針は、時代を超えて価値がある
独学者へのメリット:
・Q&A形式による具体的な問題解決のヒント
・取りかかりやすいワンポイントアドバイス集としての性格
・場所を選ばずに読めるサイズと重さと内容
► 気になる点
・邦訳の言葉遣いに時代性が感じられ、現代の読者には多少読みづらい箇所がある
・写真や図版が少なく、視覚的な理解を助ける要素が限られている
► おすすめの読者層
・独学でピアノを学習している方
・ピアノ指導者
・練習方法や音楽性の向上に悩む初級~中上級者
初級から読める内容も多くありますが、バイエル修了程度の学習段階に達してから読むことをおすすめします。
► まとめ
「ピアノへの道」は、技術面だけでなく音楽性や精神面まで含めた総合的なピアノ演奏の指南書として、現代でも高い価値を持っています。特に独学者にとっては、経験豊富な教師からの直接的なアドバイスを得られるような貴重な一冊といえるでしょう。言葉遣いの古さは気になる点ですが、内容の本質的な価値を損なうものではありません。
コンパクトながら豊富なアドバイスが詰まった本書は、本棚に常備しておきたい一冊としておすすめします。
・ピアノへの道 アンドル フォルデス (著)、渡辺 護 (翻訳) 音楽之友社
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