【ピアノ】シェーンベルク「作曲の基礎技法」レビュー:楽曲理解と演奏力向上のために

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【ピアノ】シェーンベルク「作曲の基礎技法」レビュー:楽曲理解と演奏力向上のために

► はじめに

 

「作曲の基礎技法」(著:シェーンベルク  音楽之友社)は、タイトルからは作曲学習者向けの専門書と思われがちですが、実は演奏学習者にとっても極めて有益な音楽理論書です。本書は、バロックから古典派、ロマン派に至る西洋音楽の根幹を体系的に解説し、楽曲分析の本質的な視点を提供しています。

 

・原題:Fundamentals of Musical Composition
・著者:アルノルト・シェーンベルク
・編者:ストラング、スタイン
・訳者:山縣茂太郎、鴫原真一
・出版社:音楽之友社
・発行年:1971年(邦訳初版)
・ページ数:254ページ

 

・作曲の基礎技法  著:シェーンベルク  音楽之友社

 

 

 

 

 

 

► 構成と内容

 

本書は大きく3部構成となっています:

第1部:テーマの構造

・形式の基本概念から始まり
・動機の扱い
・テーマの作り方
・伴奏法
・メロディーの本質的理解まで、段階的に解説

第2部:小形式

・小三部形式
・メヌエット
・スケルツォ
・テーマと変奏 など、基本的な楽曲形式を詳細に分析

第3部:大形式

・ソナタ形式
・ロンド形式 など、より大規模な形式の構造と展開法を解説

 

► 特徴と魅力

 

1. 体系的な学習構造

・楽句の章から始まり、動機、テーマへと発展する論理的な構成
・実践的な自己批評方法の提示

2. 豊富な実例による解説

・J.S.バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなど、主要な作曲家の作品を例示
・ピアノ作品も多く取り上げ、演奏学習者の理解を助ける

3. 演奏への実践的応用

・シェーンベルクが強調する「内面の耳」の育成
・楽曲構造の理解による演奏解釈の深化

 

一つの楽曲をひたすら細かく掘り下げる方針ではなく、幅広い作品から重要部分を少しづつピックアップし、結果的に幅広い洞察を得る方針なので、とても読み進めやすい構成となっています。

 

► なぜ、シェーンベルクは伝統を重視したのか

 

ここで考えていただきたいことがあります。

シェーンベルクは、キャリアの前半では「調性音楽」も作曲していましたが、基本的には「無調音楽」の作曲に取り組んだ、当時としては先端を行っていた作曲家です。

ラフマニノフが美しいピアノソナタを作曲していた時期よりももっと前に、シェーンベルクはすでに「無調音楽」の世界に踏み込んでいました。それにも関わらず、この本では無調音楽のことはほとんど触れられていません

どうしてなのでしょうか。

 

その理由は明確で、シェーンベルクはやみくもに無調音楽を作曲していたわけではなく、それまでの時代の基礎をしっかりと理解したうえで、それが礎になっていたわけです。

これには、伝統的なヨーロッパ音楽の形態も関連しています。

非常に伝統というものを重視したので、シェーンベルクは、マーラーやベートーヴェンをはじめ、近しい地域の先人の影を常に感じていたとされています。とがった針葉樹林のような歴史的形態の中で生きていたため、伝統的な音楽を重視していました。

 

► 特筆すべき章と内容

 

第3章「動機」の重要性

・音楽の最小単位である動機の本質的理解
・動機の発展手法の具体的解説
・実践的な作品分析例

特に「第1部 テーマの構造」における12の章は作品を根幹から捉えていく分析であるため、必修と言えるほどの重要性を持っています。

 

► 注意点と補足

 

・石桁真礼生 著「楽式論」とは一部異なる楽式の捉え方をしている
・中級以上の演奏者、分析力を持つ読者向けの内容
・内容的には読み進めやすいが、レイアウトにやや問題があり、文章と該当譜例を照らし合わせにくいところがある
・和声学の基礎知識があると、より深い理解が可能(必須ではない)

 

► 結論

 

本書は、作曲技法書の枠を超えて、音楽家としての総合的な成長を支援する必携の指南書です。特に、演奏学習者が楽曲の本質的な理解を深め、より説得力のある演奏を目指すうえで、極めて有益な視点と方法論を提供してくれます。

シェーンベルクの言う「内面の耳」の育成は、現代においても音楽家にとって最も重要な課題の一つであり、本書はその発展に不可欠な理論的基盤を提供しています。楽曲構造の深い理解を通じて、技術的な問題解決から音楽的な解釈の確立まで、幅広い成長をサポートする貴重な文献と言えるでしょう。

 

・作曲の基礎技法  著:シェーンベルク  音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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