【ピアノ】規則性を見抜く分析:ベートーヴェン「エコセーズ 変ホ長調 WoO.86」を例に
► はじめに
楽曲分析において、「規則性」の発見は作品構造を理解するうえで重要な視点となります。作曲家は意図的に規則性を用いることで、楽曲に統一感を持たせ、聴き手に明確なメッセージを伝えています。
特に古典的な作品では、この規則性が作品の骨格を形成する重要な要素となっています。規則性を分析することで、以下のような観点から楽曲をより深く理解することができます:
・楽曲構造の把握
・作曲技法の理解
・主題の展開方法の分析
本記事では、ベートーヴェンの小品「エコセーズ 変ホ長調 WoO.86」を例に、具体的な分析方法を見ていきましょう。
► 実例分析:ベートーヴェン「エコセーズ 変ホ長調 WoO.86」
‣「音の形」の規則性
ベートーヴェン「エコセーズ 変ホ長調 WoO.86」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
楽曲全体を通して、以下のような明確な規則性が観察できます:
・左手パートの1拍目:必ず和音による
・左手パートの2拍目:必ず単音による
この規則的な書法には、以下のような効果があります:
・リズムの明確化:拍子感の強調
・テクスチャーの統一:楽曲全体の一貫性の確保
・和声的明瞭さ:第1拍の和音によるハーモニーの確立
「音の形」という観点では、右手パートにも「必ず単音による」という明確なパターンが存在します。
‣ アクセンテーションの規則性
(再掲)
冒頭部分の分析
曲頭で提示される重要な2要素:
1. sforzando( sf )による強調
・1小節目から連続する sf は、拍の重みづけを明確に示す
・この強調は、5小節目以降の1拍目に重みが入るアーティキュレーションに受け継がれている
2. リズムパターンの確立
・「♩ ♫」(タンタタ)のリズムが基本となる
・このリズムパターンは、後半での「タラタタ」のアーティキュレーションの原型となっている
曲頭で提示されたこれら2種類の要素が特徴づけとなり、楽曲全体に渡っています。1拍目に重みが入り、1小節を一つでとるという基本的な特徴が書法で強調されており、その1拍目への重み入れが規則性にもなっているのです。
全体構造における規則性
楽曲全体を通して観察される規則的な要素:
1. 拍節的アクセント
・第1拍の強調
・4小節単位のグルーピング
2. 強調手法の統一性
・1拍目に重みが入るsforzandoの計画的な配置
・1拍目に重みが入るアーティキュレーションの一貫した使用
・1拍目に重みが入る伴奏パートの一貫した使用(左手パートの1拍目に必ず和音による厚み)
► 分析の実践的活用
この楽曲に見られる規則性の分析は、以下のような観点で活用できます:
1. 構造分析への応用
・フレーズ構造の理解
・形式の把握
・主題の展開方法の理解
2. 他の古典派作品への応用
・同時代の作品との比較
・作曲技法の理解
・様式研究への展開
► 終わりに
規則性の分析は、楽曲の構造を理解するうえで重要な手がかりとなります。本記事で示したような分析方法を他の作品にも応用することで、より深い楽曲理解につながるでしょう。
特に古典的な作りの作品では、このような規則性が作品の本質的な部分を形成していることが多く、分析の際の重要な観点となります。新しい作品を分析する際には、規則性の視点からも眺めると、楽曲の全体像をつかみやすくなるでしょう。
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