【ピアノ】弾き込み期間の有益な過ごし方
► はじめに
ピアノ演奏において、楽曲を完全に自分のものにするためには、単なる反復練習では不十分。真の音楽理解と深い表現力を獲得するには、意識的で創造的な「弾き込み」のアプローチが不可欠です。
本記事では、効果的な弾き込み期間の過ごし方について詳しくお伝えします。
► A. 弾き込みの基本的方針
‣ 1. 弾き込みは何かを発見するために行う
弾き込みには指の動きを覚えたり忘れないようにしたりといった目的もありますが、もっと重要なのは「何かを発見するために行う」ということ。
特に弾き込み期間になると、毎日練習していてもただ単に指を動かしているだけで暗譜を忘れないようにすることに終始してしまう傾向があります。
そうではなくて、毎日、たった一つでもいいので、今まで気がつかなかったことをその作品から探し出してください。
例えば:
・楽譜上のちょっとした見落とし
・自分のその楽曲に対する考え方やアプローチ方法
そうすることで:
・一時的に伸び悩んでも、前へ進んでいる実感を持ちながら練習を継続することができる
・日々、楽曲理解が深まっていく
「パスカル・ドゥヴァイヨンのピアノと仲良くなれるテクニック講座」著 : パスカル・ドゥヴァイヨン 訳 : 村田理夏子 / 音楽之友社
という書籍の中の一文を紹介します。
ひとつの作品とは、私たちが歩き遂げなければならない道のりのようなものです。
(抜粋終わり)
・パスカル・ドゥヴァイヨンのピアノと仲良くなれるテクニック講座 著 : パスカル・ドゥヴァイヨン 訳 : 村田理夏子 / 音楽之友社
‣ 2. 微細な音楽的改善点にこだわる
譜読みが終わって音楽をおおむね理解し通して弾けるようにもなると、そこから先は細かなこだわりの世界になります。
前項目で書いたように楽曲から何かを新しいことを見つけ出すことも必要ですし、それを踏まえて自分の演奏におけるささいな改善点を見つけ出すことも欠かせません。
例えば:
・運指を再検討したら、少しだけなめらかさが増した
・ペダルを再検討したら、小さな濁りが無くなった
・クライマックス同士のバランスを取り直したら、音楽の方向性が分かりやすくなった
など、誰が気付いてくれるのかと思うようなささいなことでも改善できるだけ改善する。良くなるためにできることは全てやってください。
注意深く聴かないと分からない部分へのこだわりが、ある程度できている状態からさらに先へ進むコツです。
► B. テクニックと音楽理解の統合
‣ 3. ガシャ弾きから脱するための2つのアプローチ
脱する方法は2つしかありません。以下の両方を取り入れてください:
・テンポを落とす
・作品に対する音楽的な理解を深める
弾き込み期にガシャ弾きになってしまう理由は、「テクニック」と「音楽的理解」の両面が追いついていないからです。
・テンポを落とすことで、メカニック的な面におけるテクニックのハードルを下げる
・音楽的な理解を深めることで、パッセージの中にある強く弾かなくても良い音を見極める
これらがクリアされれば、ガシャ弾きは脱することが出来るでしょう。
テンポはそのままで仕上げてもいいでしょうし、もし理想のテンポがもっと速いのであれば、“音楽的な理解を深めた後に” 少しずつ上げていけばいいのです。
‣ 4. 譜読み後の学習:歴史から学ぶ深い音楽理解
譜読みを始めておおむね弾けるようになるまでは達成感を感じやすいですが、問題はそこから先。そこからは「より音楽的な領域」に入っていくので自己評価が難しくなってきます。
有効なのは、「歴史」つまり「先人」から学ぶこと。独学でも、有効なものに私淑することはできます。
歴史が存在するということは、「ある一定の答えが出ている」ということです。
存命の先人はもちろん、亡き先人が残してきた:
・演奏音源
・参考書籍
・インタビュー音源
など、一定の答えが出ているものから学び取れるだけ学び取るつもりで学習してみましょう。
そこには、譜読みが終わってからの段階にとって有効な情報が山のようにあります。
大切なのは、自分が少しでも尊敬できる先人を参考にすること。
歴史は減っていきません。1日経てば1日分の歴史が増えます。つまり、現時点が歴史の一番厚い日ということです。
自分が尊敬できる先人を参考にしないと、たくさんある中でどこにアプローチすればいいか分からなくなってしまいます。
そして何よりも、情報を集めるだけでなく、必ず音に出してやってみること。
これらさえ踏まえていれば、譜読みが終わってからの学習を進めていくことができるでしょう。
► C. 音楽的成長のための戦略
‣ 5. 行き詰まりを突破:巨匠との再接近
弾き込みをしていると、なぜかその作品やその作曲家との距離が遠くなったように感じたり、これでいいのかとモヤモヤし始めることもあるはずです。
ある意味、巨匠が穴ごもりしてしまった場合に、自分の近くへ引き戻すためにはどうすればいいのでしょうか。
一つの方法としては、「もっと弾き込み量を増やす」というやり方があります。
すでに暗譜ができていても、自分なりに弾き込んでいると思っている場合でも、たいていは弾き込みが足りていません。
もうひとつの方法としては、弾き込み量を増やしつつも「完成をあせらずに、その作品やその作曲家についての情報を集めまくってみる」というやり方。
少なくともクラシックの巨匠であれば今までにヤマのような研究が出ているので、参考にできる資料はいくらでも手に入ります。
・知識的な雑学
・その作曲家独自の記譜法
・慣例となっている解釈
など、様々な視点の情報を手に入れることで、急に見通しが良くなることもあります。
・もっと弾き込み量を増やす
・完成をあせらずに、その作品やその作曲家についての情報を集めまくってみる
この2点を意識して継続していると、一度離れていってしまった巨匠がふと近くへ戻ってきてくれるはずです。
‣ 6. 仕上げのテクニック:さらなる音楽的探求
本番へ向けて特定の楽曲の弾き込みを進めていて、ある程度仕上がってきたと感じるタイミングはあるはずです。
ここからどうするかで差が生まれます。
・解釈的にも大体満足して、あとは本番で暗譜を失敗しないための反復練習に徹してしまうか
・まだ少しでも良くなるはず、発見があるはず、と思って音楽を読み取ろうとねばるか
本番まである程度時間がある場合は、迷わず、後者に挑戦してみましょう。
ある程度仕上がってきてからの仕上げ方として一番おすすめのやり方は、再度、楽譜をガン読みすることです。
譜読みのときに一度ガン読みしていると思いますが、譜読み後の弾き込み期間でさらに楽曲理解が深まり、さらには、記憶から抜け落ちてしまった要素も出てきているはず。
したがって、この段階に達してからの再度のガン読みは非常に有益なものとなります。
加えて、録音&チェックをしたり、本番までの間に毎日何か一つでもいいのでその楽曲から新しい発見をすることを目指しましょう。
おおむね仕上がってきたこの段階まできたら、もう、誰に習うとかじゃないのです。「自力でここまでできるんだ」というところを周りに見せてください。
► D. 暗譜と弾き込みとの関係
‣ 7. 暗譜にとっての一番の基本は「弾きこみをすること」
暗譜にとっての一番の基本は、弾きこみをすること。
弾きこみの目安としては「弾いている最中にヒヤヒヤしないのが目安」です。
筆者は、学生の時に初めてショパン「ピアノソナタ第3番」に取り組んだ際、本当に短い練習時間で本番を迎えなくてはいけませんでした。
一応暗譜してはいましたが、弾いている最中に落ち着かない、落ち着かない。暗譜が危ないところだけでなく、最初から最後までヒヤヒヤしていたんです。
こういった状態では、あらゆるところで暗譜が飛ぶことは目に見えていますし、飛んだ場合に、すぐに復帰できるかどうかも危ういでしょう。
しかし、ある一定以上の弾き込みをすると、このヒヤヒヤが無くなるタイミングがある。
もちろん本番では緊張しているけれど、変なヒヤヒヤ感はない。
この段階まで弾き込んで欲しいと思います。
「一応、暗譜ができた」という段階では、ヒヤヒヤは残っています。まだまだ弾き込み足りません。
また、弾き込み期間というのは潜在的な危険なところに気が付くためにも必要です。
「潜在的な危険なところ」というのは例えば、以下のようなものです:
・普段は暗譜がとばないけれど、まれにとんでしまうところ
・まれに運指を間違える、かつ、一度間違えると修正がききにくいところ
こういった部分というのは、弾き込みを長くやっているとはじめて顔を出すことも多い。
弾き込みをしたことが原因で発生したというより、いずれ本番やら何かしらのタイミングで出てきてしまうものなんです。
弾き込みをしていて出てきてしまったときに肝を冷やし、対策しなければいけません。
そのようにして、本番で成功できるように調整していくべき。
本番までにある時間を少しでも多く弾き込みのために使って、潜在的な盲点をケアしておきましょう。
► 終わりに
弾き込みを通して、毎日少しずつ作品の新たな側面を探求し、理解を深めていきましょう。
譜読みと弾き込みは切り離して考えるものではなく、ひと続きの音楽アプローチです。
コメント