【ピアノ】シンコペーション:演奏テクニックと楽曲分析

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【ピアノ】シンコペーション:演奏テクニックと楽曲分析

► はじめに

 

音楽の魅力は、単なる音の連なりではなく、リズムの繊細な変化にあります。

その中でも、シンコペーションは音楽に生命力と躍動感を与える重要な要素。

本記事では、ピアノ演奏におけるシンコペーションの奥深さを、演奏テクニックと楽曲分析を通じて探求します。

 

► 演奏テクニックと楽曲分析

‣ 1. シンコペーションを音楽的に演奏するコツ

 

2種類のシンコペーションの例を挙げています。

譜例1(Finaleで作成)

シンコペーションを音楽的に演奏するコツは、丸印で示したくっている音(シンコペートしている音)に重みを入れるということです。

こういったシンコペートしている音が弱くなってしまうと、弱拍と強拍のパターンが変わった印象が出ないため、シンコペーションのリズムを活かすことができません。

 

シンコペートしている音には、作曲家が親切にアクセントを書いてくれている例も多くありますが、譜例のように仮にアクセントが書かれていなくても重みを入れて演奏するのが原則です。

そして、それ以外の音には重みを入れずに差を表現しましょう。

全てを同じ強さで平坦に演奏するよりも、ずっと音楽的なサウンドになります。

 

譜例2(Finaleで作成)

このように音価全体が広がった場合でも、基本的には同様の考え方ができます。

 

‣ 2. シンコペーションの長い音価を強調する、直前のスタッカート

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第16番 ト長調 op.31-1 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、66-69小節)

66-68小節のメロディにおける、スタッカートのついた各8分音符に注目してください。

これらのスタッカートは、さりげなくついているようでいて、大きな意味を持っています。

音価を短く響かせるニュアンスの意図もありますが、もう一つ大きな意味として理解すべきなのが、「直後の強調」について。

スタッカートがあることで、その直後に出てくる長い音価の4分音符が強調されて聴こえるのです。

 

仮にスタッカートがなければ、4分音符を同じ強さで弾いたとしてもその印象は弱いものとなります。

スタッカートで演奏されて音響的な切れ目ができるからこそ、その直後の4分音符が強調されて聴こえる。シンコペーションが活き活きとする。

これを踏まえて、弾いたり聴いたりしてみてください。

 

「フレージングとアーティキュレーション―生きた演奏のための基礎文法」
著 : ヘルマン・ケラー  訳 : 植村耕三、福田達夫 / 音楽之友社

という書籍に

以下のような文章があります。

(以下、抜粋)
強拍の部分により多くの重みを間接に与えるために上拍がスタッカートで奏されるということは、昔の音楽では通常見られることである。
(抜粋終わり)

 

この文章の状況を8分音符ひとつぶん後ろへずらしたのが、上記譜例の部分だと言えるでしょう。

 

◉ フレージングとアーティキュレーション―生きた演奏のための基礎文法
著 : ヘルマン・ケラー  訳 : 植村耕三、福田達夫 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 

‣ 3. 左手の音の厚みから読み取る隠されたシンコペーション

 

ーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第1楽章」

例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

2-3小節の矢印で示したところを見てください。

左手に音の厚みが入り、次の拍へ向けて薄くなっています。隠れシンコペーションの一種

 

このような表現を踏まえると、カッコで示したダイナミクスの松葉のように2拍ごとのニュアンスをつけるのがいいでしょう。

矢印で示した部分を少し強調して、それをデクレッシェンド。両手でこのニュアンスを表現します。

 

一応、2小節2拍目もシンコペーションになっていますが、この拍は曲頭からのメロディフレーズのおさめどころになっているため、わずかであっても強調しない方がいいでしょう。

 

‣ 4. 両手の組み合わせによる隠されたシンコペーション

 

ショパン「エチュード Op.10-4」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、8小節目)

8小節目は、「右手の下声」と「左手」を組みわせると、右側の譜例のようになります。

 

このリズム音型は、7小節目右手の音型の縮小形

また、右側の譜例の下段へ示したように、リズムの骨格にシンコペーションが隠れているということも読み取れます。

 

‣ 5. アルベルティ・バスに隠されたシンコペーション

 

シューベルト「ピアノソナタ 第19番 ハ短調 D 958 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、180-183小節)

カギマークで示したところを見てください。

ここでは、アルベルティ・バスの各中間にあたる部分に和音がつけられています。

これがきっかけで単音のところよりも少し音響が厚くなり、その小節に「ンタータータ」というリズムが出てきます

 

極端に強調されるわけではないので、シンコペーションが隠されているくらいのさりげない表現。

しかし、音源を聴いてみると分かりますが、これだけの表現でもシンコペーションを感じることができます。

 

1拍分だけではシンコペーションになり得ませんが、アルベルティ・バスの特徴としてパターン化されて連続されているからこそ、シンコペーションが表に出てくるわけですね。

 

► 終わりに

 

本記事で紹介した様々な例から、リズムの微妙な変化がいかに音楽に深みと感情を与えるかをお分かり頂けたかと思います。

 

楽曲の中にはあまり目立たないカタチでシンコペーションが隠されていることも多いので、それを譜読みで見抜けるように目を光らせておき、演奏へ活かしてください。

 


 

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