​​【ピアノ】実例で学ぶ楽曲構造分析入門 〜シューマン「ユーゲントアルバム」を題材に〜

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実例で学ぶ楽曲構造分析入門 〜シューマン「ユーゲントアルバム」を題材に〜

 

► 本記事の対象者と前提知識

 

こんな方におすすめ
・楽曲の構造をより深く理解したい方
・楽曲全体の構成を捉えるときの注意点を知りたい方
・演奏だけでなく、作曲や編曲にも興味のある方

必要な前提知識
・基本的な楽譜が読める程度

 

► 習得できるスキル

 

本記事で学習することで身につく能力
・楽曲全体の構成を読み解く力
・形式分析を通じて作曲家の意図を読み解く視点

 

► はじめに

 

楽譜を見たとき、どこに注目していますか?

 

楽曲分析において、音楽の「切れ目」を見つけることは、作品理解の第一歩となります。

しかし、楽譜を前にして「どこが区切りなのか」を見抜くのは、意外と難しいものです。

そこで、【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法 シリーズでは、

構成の区切り方についても学習してきました。

 

本記事では、さらに楽曲全体の構成にまで視野を広げて、

楽曲の成り立ちを理解するための実践的な方法をご紹介します。

 

► 全体構成を見抜くことの重要性

 

全体構成を大きく把握しておくことで、主に以下のことが分かります:

・楽曲全体におけるクライマックスの位置
・各セクションの共通点と微妙な変化
・構成に対する作曲家の意思

 

全体の構成を把握して演奏した方が、ダイナミクスひとつとっても音楽的な計画を立てられます。

例えば、真のクライマックスがまだ先にあるのにも関わらず、その前で音量的に鳴らし切ってしまったら、

音楽の構成が活きません。

また、詳しくは後ほど触れますが、

各セクションの共通点の把握により、譜読みが効率化し、

微妙な変化の把握により、暗譜対策になります。

全体構成を知っておくことは、様々な利点をもたらしてくれるでしょう。

 

► 具体的な分析方法

 

実例で解説

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-1 メロディー」を例に説明します。

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

 

【楽曲構成】

 

基本の手順

1. 歌ったり弾いたりしながら、構成の切れ目を見つける
2. 構成記号をつける
3. 紙へ構成記号を順番に書き並べてみて、全体像を把握する

 

この楽曲は各構成の切れ目は分かりやすく、メロディを歌ったり弾いたりすることで簡単に見つけられます。

もし分かりにくければ、

メロディに書かれたスラー線の切れ目が構成の切れ目にもなっているのではないかと疑ってみましょう。

 

構成記号は自分なりの付け方で構いませんが、今回は以下のルールに則りました:

・1-4小節目は反復記号による繰り返しなので、それぞれA1 A1’とした
・その他の対応している部分では、同じアルファベットを用いて番号のみを変えた(B1 B2など)

 

この楽曲の全体構成を並べてみると、以下のようになります:

A1(1-4小節)
A1’(1-4小節の反復記号によるリピート)
B1(5-8小節)
A2(9-12小節)
B2(13-16小節)
A3(17-20小節)

 

以下、注目点を列挙していきます。

 


 

A1’はA1のリピート記号による反復で、全く同様の繰り返し。

上属調(主音が完全5度上の調)のG-durで終止

 

B1とB2は全く同様の内容。

反復記号によるリピートではなく、横つながりで楽譜が書かれている。

 

A2とA3は、ほぼ同じ。

A3は楽曲を終わらせるために、最終小節の4拍目のみ変化。

この微細な変化は、楽曲全体の終止感を強める役割を果たしている。

 

A2、A3ともに、主調(その楽曲の基礎をなす調)のC-durで終止する。

この部分が上属調のG-durで終止するA1、A1’との大きな違い。

調性の変化(G-dur → C-dur)は、開放的な響きから安定した響きへの移行を生み出している。

後半部におけるこの変化は、曲全体が「結」の部分へ向かっている印象を思わせる効果があります。

 

「A1 A1’」と「A2 A3」は対応しているものの、

メロディラインや終止の調性が異なることから考えると、

この曲における「A1 A1’」セクションは、最初の4小節にしか出てこない要素としての特別な扱いとなる。

 

1-4小節のリピートは反復記号で行われているが、

それ以降のリピートは反復記号が使われておらず、横つなぎで楽譜が書かれている。

このことから、

1-4小節のリピートは任意で、

他のリピートは、例え同じ繰り返しであっても必ず弾くという、シューマンの構成への意思が読み取れる。

 

クライマックスは、音型やダイナミクスからも判断すると、

7小節目の頭(および、繰り返しの15小節目の頭)と考えられるが、

15小節目の頭は、楽曲全体構成のうち7-8割進んだ位置にくるので、こちらを真のクライマックスと解釈するのが自然。

 


 

このように全体の構成を把握することで、以下の点が見えてきました:

・楽曲全体におけるクライマックスの位置
・各セクションの共通点と微妙な変化
・構成に対する作曲家の意思

全体把握によるダイナミクスの工夫はもちろん、以下のことも理解できたと思います:

各セクションの共通点の把握により、譜読みをすべきところが意外と少ないこと
・繰り返し箇所での微妙な変化の把握により、暗譜で気を付けるべきところが明確になったこと

 

► 実践課題

 

同じ「ユーゲントアルバム」より「楽しき農夫」のメロディを使って、全体構成把握の練習をしてみましょう。

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-10 楽しき農夫」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

手順:

1. 歌ったり弾いたりしながら、構成の切れ目を見つける
2. 構成記号をつける
3. 紙へ構成記号を順番に書き並べてみて、全体像を把握する

 

ヒント:

使用する構成記号は自分で決めてしまっても構いませんが、

「どこで切るか」には注意しましょう。

 

【全体構成把握の解答例】

A1 1-4小節
A2 5-8小節
B1 9-10小節
A3 11-14小節
B2 15-16小節
A4 17-20小節

 

A1とA2はセットで大きな一つのAセクション8小節になっていることを確認しましょう。

これらをまとめた構成分析をしても構いませんが、

A3やA4が4小節構成になっているので、解答例ではA1とA2へ分けました。

B1やB2は2小節構造となっており、「Op.68-1 メロディー」には出てこなかったセクション構成ですね。

 

8小節目の終わりに複縦線があるので、

それを活かす場合は、以下のようなもっと大きな分析もできます。

A 1-8小節
B 9-14小節
B’ 15-20小節

 

「ユーゲントアルバム」には、短くかつ音楽的な、構成学習の入門に最適な楽曲が多くありますので、

さらに追加で2-3曲分析してみるといいでしょう。

例えば:

・兵士の行進 Op.68-2
・狩の歌 Op.68-7
・勇敢な騎手 Op.68-8

 

► 困ったときは

 

よくある疑問と解決のヒント

Q1: 全体構成が上手く把握できない
・楽譜の該当小節へ構成記号を書き出すだけでなく、記号を並べて、一目で全体像を把握できるようにしてみる
・構成の切り方から復習する

Q2: 構成の切り方が分からない
・メロディを歌ったり弾いたりして感覚的に把握してみることから始める
・凝った楽曲でない限り、各構成は偶数小節で出来ていることが多い(4小節ひとカタマリ など)
・メロディに書かれたスラー線の切れ目が構成の切れ目と関連しているのではないかと疑ってみる
【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法 シリーズで解説している、構成の切り方のテクニックを活用する

Q3: 演奏への活かし方が分からない
・分析は演奏のための直接的な指示ではなく、楽曲理解を深めるための手段として捉える
・見つけた構造上の特徴を、自身の解釈へ取り入れる過程を楽しむ
・同じ作曲家の他の作品でも同様の分析を試み、その作曲家特有の手法を探ってみる

 


 

【おすすめ参考文献】

楽曲分析をより深く学びたい方へ:

「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社
「作曲の基礎技法」 著:シェーンベルク 音楽之友社

※こちらは専門的な内容を含む中〜上級者向けの書籍です。 まずは本記事で紹介した基本的な方法から始めることをおすすめします。

 

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