【ピアノ】跳躍を攻略する12のヒント
► はじめに
ピアノを演奏する上で、跳躍は常に挑戦的な技術の一つ。正確で滑らかな跳躍は、音楽表現に大きな影響を与えます。
本記事では、ピアノ演奏における跳躍の技術を向上させるための12のポイントを取り上げます。
► 基本的な跳躍の原則
‣ 1. 効率的な手の動き:ワンアクション跳躍の原則
(図)
①が一番理想的な動きであり、しなった弓のような形になっていますね。
しなりの角度は、跳躍の内容によって少し変わります。
原則、②や③のような直角とも言える動きは避けてください。
特に入門~初中級くらいまでの学習者にはよく見受けられます。
これを見ると分かるように、①ではワンアクションで移動します。②はツーアクション、③はスリーアクション。
手の移動においては、できる限り動きを減らした方が効率的。
最短距離でいこうとすれば、自然と最適なワンアクションになります。
跳躍後、すぐに打鍵する場合は当然①の動きが最適ですし、跳躍後にポジションの準備をしてから打鍵する場合も、②ではなく、基本的に手の動き自体は①にしてください。
► 練習方法の基本
‣ 2. 暗譜で高める跳躍の確実性
跳躍があるパートを部分的にでも暗譜してしまうことで、演奏がより安定します。
これは跳躍に限らず、難しいパッセージを習得する際の基本となる考え方です。
► 手の使い方と工夫
‣ 3. 柔軟な手の使い方:困難な箇所の対処法
上段に書いてある音符だからといって、必ずしも右手でとらないといけないわけではありません。その逆も同様です。
どうしても難しいと感じるところが出てきた場合、もう片方の手に余裕があればそちらの手でとれる音を探してみましょう。
それだけで難易度がグンと下がる可能性があります。
ベートーヴェン「ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、75-76小節)
ここでは跳躍が大きく「ミスタッチ」の可能性が懸念されるので、両手で分担する方法を譜例で示しました。
丸印をつけた音の弾き方を参照してください。
ある音をとる運指が変わるとわずかながら出てくる音色も変わります。
何でもかんでも両手で分担するのではなく、どうしても難しいと思うところのみ検討をしてみるのが良いでしょう。
‣ 4. 横移動を楽にするテクニック
譜例(Finaleで作成)
左の譜例のような横移動は、このまま演奏しようと思うと、跳躍に時間がかかって間延びしてしまったり、手首を痛めてしまったりします。
基本的にはこのまま上手く演奏できればベストなのですが、どうしても難しいという方には、右の譜例のように演奏することをおすすめします。
装飾音にアルペッジョをつけるという方法。
(再掲)
このようにすることで、親指をバネにして手を右方向に飛ばす力が働くために、横移動が格段にラクになるのです。
また、飛ばすときの手首への負担も減少します。
アルペッジョというのは無闇に付けたりとったりしてはいけません。
しかし、このケースのように明確な意図がある場合には、わずかに変更することは許容範囲でしょう。
譜例では装飾音が「オクターヴ」ですが、この和音が「完全5度」などの場合でも同様。上の音を ”親指” で弾くようにすることで、手を横に飛ばす力が働きます。
► 音楽的な表現とテクニック
‣ 5. 跳躍前の音処理:注意すべきポイント
モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、35-40小節)
譜例の36小節目から37小節目へ移る時に、ダイナミクスがsubitoで f になり、右手パートにも多少の跳躍が出てきます。
このようにダイナミクスが急変したり跳躍する直前は、音処理に要注意。次のことばかりに意識がとられてうっかりと音処理が雑になってしまい、急いだり、音量的に大きく飛び出たりしてしまいがちだからです。
この譜例でいうと、36小節2拍目の処理を気をつけましょう。
こういったことは、録音&チェックをすれば明らかなのですが、直後のイヴェントに気をとられているせいか、演奏中は意外と気づきにくいものです。
「直後に何か気を取られるようなイヴェントがあるときには、音処理に注意」
ゆっくりのテンポで練習する時から、このことを心がけるようにしてください。
‣ 6. 正確な跳躍のための目の動かし方
「ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために」著 : 雁部 一浩 / ムジカノーヴァ
という書籍の中で解説されている跳躍のヒントを紹介しておきましょう。
ショパンのスケルツォ第2番の結尾和音のように左右に遠い跳躍では特に目の使い方が重要である。
このような場合、打鍵に先立って片方の鍵盤の位置を確認し、もう片方を打鍵の瞬間に見ると良い。
(抜粋終わり)
できている方にとっては、「確かに、そうやっているな」といった確認に過ぎないかもしれませんが、
跳躍を当てずっぽうでやってきた方にとっては一つの参考になるかもしれません。
◉ ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために 著 : 雁部 一浩 / ムジカノーヴァ
‣ 7. 大きな跳躍でも音楽性を保つテクニック
ベートーヴェン「ピアノソナタ第23番 熱情 ヘ短調 Op.57 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、コーダの入り)
黄色マーカーで囲った箇所は演奏の仕方に注意が必要。
このような「急速かつ大きな跳躍」では、手の移動に時間を要することで拍の感覚が大きく崩れてしまう可能性があるからです。
拍の感覚が無くなると、音楽の骨格が崩れてしまいます。
理想的には「瞬時に手を移動させてもミスしないように練習する」のが望ましいのですが、もう一つの選択肢があります。
「多少引き伸ばしてでも1拍目を意識して演奏する」という方法。
つまり、「イーチ・ニ・サン」というように、1拍目がやや広がっていることを踏まえてその拍を作る。
そうすることで、2拍目以降も崩れずに安定するのです。
これをせずに1拍目を曖昧に弾いてしまうと、たいてい2拍目も失敗してしまう。
「引き伸ばしても、自分の中の拍感覚までは放棄しない」
これは、特に中級以上になってくると必須。上記譜例よりももっと極端な
・絶対に拍に入らない極端な跳躍
・絶対に拍に入らない細かなパッセージ
なども多く出てくるからです。
‣ 8. 跳躍後のフレージング:音楽の流れを途切れさせないために
ショパン「ノクターン 第2番 Op.9-2」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
A〜Cまで3つのポイントを示しましたが、
このような跳躍後の高い音では、演奏上、音楽を止めてしまいやすいので注意が必要です。
どうして問題なのかというと、上がり切ったことで安心して音楽を止めてしまうと、ダンパーペダルを踏んでいたとしてもそこでフレーズが切れたように聴こえてしまうから。
譜例を見ても分かるように、これらの3つのポイントはまだひとつのフレーズの最中にあるので、そのフレーズの中での出来事にしてあげないといけません。
必ず打鍵後も音を聴き続けて、次のメロディ音へのつながりを意識してください。
ちょっとした注意があるかどうかでフレーズの長さは変わってきます。
跳躍をきっかけに書かれているフレージングを分断してしまわないように気をつけましょう。
► 具体的な演奏テクニック
‣ 9. ポジション移動によるわずかな跳躍:アクセントを入れない
モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、44小節)
譜例の右手パートへ書き込んだ運指は、現行のヘンレ版でとられている運指をもとに残りの全ての運指も補足したものです。
この運指を使う場合、2拍目から3拍目へ移る時に運指の都合上どうしても指で繋げることはできず、少しだけポジションを跳ばさなくてはいけません。
このような時、跳ばした後に打鍵する音へいちいちアタックを入れてしまいがちなので十分に気を付けるようにしましょう。
ちなみに、この運指を使った場合、1拍目から2拍目へ移る時にポジションを跳ばして弾きそうになりますが、手首を少し左側へ動かすことで指で繋げることができます。
ポジションを跳ばしたい特別な意図がない場合には、出来る限り同一ポジションで弾き進めた方が上記のようなアタックを入れてしまう可能性も低くなります。
‣ 10. 和音跳躍:効率的なポジション移動
ベートーヴェン「ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、トリオの最初部分)
このような和音の跳躍で少し音が変わる場合は、すぐに手のポジションを準備し直さないといけません。
しかし、跳躍する時にわざわざ卵形に近いくらいに縮こめたりと、無駄な動きを挟んでしまう例が見受けられます。
譜例のような和音から和音への跳躍では、原則、手指が余分な動きをせず最短距離で移動してください。
加えて、次の和音を弾くためにポジション移動しないといけない指のみを動かし、それ以外は前の和音の形をそのまま維持させましょう。
当然、音域が上がるときと下がるときのどちらも。
「手を移動させてポジション準備のみをする練習」をしてみるのも、有効な方法です。
‣ 11. 跳躍後の単音演奏:安定するための練習法
例えば、右手で跳躍後に超高音を弾くとします。
ショパン「スケルツォ第2番変ロ短調 Op.31」の最後など、たくさんの例がありますね。
こういった場合は、原則として小指でその音をつかむことになりますが、
同時に、その1オクターヴ下の音を親指で弾く練習をしてください。
つまり、オクターブでつかむ練習をしておき、その感覚を覚えておいたまま、小指だけの演奏に戻すのです。
日常生活において、指を1本ずつ単独で動かす機会は相当限られており、あらゆる時に親指とセットでモノをつかんでいます。
つまり、親指というのは手を安定させるために非常に重要な役割をもっている。親指をセットで意識することで安定感が増すわけです。
この練習方法は、「白鍵から黒鍵」「黒鍵から白鍵」というように斜めに跳躍する場合よりも、
「白鍵から白鍵」「黒鍵から黒鍵」というように並行的に跳躍するところを練習する場合に、より効果的な練習となります。
親指の準備のために手をひねらなくていいからです。
左手で跳躍する場合も、反対に考えて応用してみてください。
‣ 12. 伴奏の跳躍を正確に演奏するコツ
ショパン「ワルツ第6番 変ニ長調 Op.64-1(小犬)」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、5-8小節)
Molto vivace です。
譜例は大した跳躍ではありませんが、このようなバスと和音を弾いていく跳躍伴奏はワルツをはじめ、多くの音楽に出てきますね。
一見簡単そうに見えますが、跳躍があるということと楽曲によってはテンポが急速であることなどから、音が欠けたり外したりしやすい典型的な伴奏形となっています。
外さずに弾くコツとしては、以下の点が挙げられます:
・バスを弾く前に、直後に弾く和音の形や距離をイメージしておく
・バスを弾いたとき、手の形を直後に弾く和音の形へ近づけておく
・和音からバスへ戻るときには、やはり、距離をイメージする
これらを「ゆっくり練習(拡大練習)」の段階から行なってください。
意識せず、むやみに飛んでいるだけでは、テンポが上がったときに対応できなくなってしまうでしょう。
また、このやり方をとることで、打鍵直前の無駄な動きを最小限にすることができるので、欠けたりしにくい正確な打鍵を目指せます。
最終的にテンポが上がった時もこれらの全部を意識するのは難しいのですが、意識してゆっくり練習を積み重ねておくことで、確実に安定度が上がっていきます。
► 終わりに
これらのヒントを意識的に練習に取り入れることで、より自然で音楽的な跳躍が可能になるでしょう。
完璧な跳躍は一朝一夕には得られませんが、粘り強い練習と正しいアプローチによって、改善を目指してください。
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