【ピアノ】試行錯誤の重要性と継続のポイント
► はじめに
音楽学習たピアノ練習では、多くの学習者が「完璧を求める」という落とし穴にはまります。しかし、上達の鍵は、完璧を追求することではなく、むしろ試行錯誤とそれによる失敗を恐れないことにあります。
本記事では、音楽学習において試行錯誤を厭わない姿勢と、そのプロセスを大切にする重要性について、具体的な視点とアプローチを共有します。
► A. 学習姿勢と心理
‣ 1. 試行錯誤を面倒臭がると、一向に前へ進まない
「現代ピアノ演奏テクニック」 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社
という書籍に、以下のような記述があります。
① 練習では常に根気強さをもつこと
② 現在できないことに妥協しない
③ うわの空であったり、乗り気のない状態で楽器の前で無意味な時間を過ごさない
④ いろいろな困難の克服を容易にする方法を探求すること
⑤ 自己に音楽的、テクニック的な課題を課し、それが解決されるまでは安心しないこと
(抜粋終わり)
③を除いては、結局、試行錯誤の大切さが根底にあるように感じます。
何かできないことがある時に、その原因が試行錯誤の足りなさにあったというのは、身をもって経験済み。
楽器練習だったら、インプットばかりでなく実際に音にしてみることを増やす。そして、上手くいかないところで試行錯誤し、必要に応じてインプットへ戻る。
作曲や編曲だったら、必ず、作品を作りながらですね。
この「やってみる」という部分の回数が足りないのに悩んでいても、一向に先へは進んでいきません。
昔の筆者も、「上手くできなかったら時間がムダになるんじゃないのか」と考えてアウトプットをためらっていました。しかしそうではなくて、「ささいなことでも上手くいかない原因を発見できれば、十分やった意味ある」ということが分かりました。
大切なのは、「今の知識量では、まだ良いものなんか出てこないから」などと思って、実践、試行錯誤を避けないことです。
これが遠回りのようで、結局は上達した自分へ近づく近道だと言えるでしょう。
大部分のインプットは、それを使う必要な場面があってこそ役に立ちますし、身につきます。積極的に使う場面を自分で作らなければいけません。
・現代ピアノ演奏テクニック 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社
‣ 2. 試行錯誤してみる前に悩んで止まらない
「失敗も含めてあらゆる経験をしないと、一向に前へ進めない」ということなのですが、それをする前から悩んで止まってしまっているケースが多いようです。
昔の筆者の経験から試行錯誤できない理由を考えてみたのですが、「時間やお金がかかるから」という問題がありながらも、結局は、面倒臭いからなのでしょう。
何かやって今の環境が変わってしまったらと思うと、不安になったり面倒臭くなって、情報を集めるだけで終えてしまう。
重い腰を上げる方法は、試行錯誤で何かを失うと思わないことです。
とうぜん筆者も含めてですが、たいていの方は失ったら困るようなすごいものなんて持っていません。
試行錯誤をして、それ自体も楽しんでしまった方が毎日が楽しくなります。
‣ 3. 音楽を楽しむコツはとにかく試行錯誤
試行錯誤するというのが、音楽をより楽しむためのコツでもあります。
例えば、筆者が毎日記事を出しているこのWebメディアの内容も、そのほとんどは筆者の経験が元になっています。
試行錯誤してうまくいったことは紹介しますし、うまくいかなかったことも「こうやったら、うまくいきませんでした」のような形で全出ししています。
「日常を豊かに語るメディア」といったら言い過ぎですが、筆者自身、試行錯誤する過程もそれを全出しするメディア更新も、周りから見えるよりもずっと楽しくやっているのです。
とにかく、毎日の音楽学習で「どうしたらもっと良くなるか、もっと楽しくなるか」などといった視点を忘れずに試行錯誤してみてください。
‣ 4. 音楽学習において「待つ」ということを覚える
「待つ」というのは、「目の前すぐの状態でものごとを判断しない」ということ。
例えば、コンクールですぐに結果が出ないと指導者のせいにして即刻クレームを入れる、という話を耳にすることがあります。
また、クレームではなくても「これでいいのか、これで上手くなるのか」などと心配し過ぎて毎日のように指導者へ連絡を入れる、というケースもあるようです。
これらのようなケースに限りませんが、音楽学習では「やることはしっかりとやりながら、待つ」ということを覚えなくてはいけません。
確実に言えるのは、その人にはその人の良くなり方があるということ。
筆者の知り合いの中に、ピアノに関して18歳まで大きな伸びがこなかったものの、その年に驚くほどの成長があり、周囲を驚かせた人物がいます。今現在は、誰でも知っているくらい著名なピアニストになりました。
趣味で演奏している方であっても同様です。
例えば:
・書籍に書いてあった普段とは別の角度からの言葉が腑に落ちた瞬間に、技術的なことまでついてくるようになった
・指導者がそばへ行って踊ったら、カチカチだった身体が柔らかくなってコツをつかんだ
などといったように、何がきっかけで学習が前進するかは誰にも分かりません。
当然、急激な前進ばかりではなく、亀の歩みのように徐々に伸びていく学習者もいます。
いずれにしても必要なのは「やることはしっかりとやりながら、待つ」ということ。
「損切り」という言葉があり、試行錯誤せずにあまりにも長い間同じことを繰り返していても意味はありません。
一方、何かしらの試行錯誤をしてさえいるのであれば、基本姿勢としては、「目の前すぐの状態でものごとを判断しないで待つ」ということを踏まえておいた方がいいでしょう。
‣ 5. 自分の朝令暮改も相手のそれも受け入れる
音楽学習に関するあらゆることにおいて、時々、自分の朝令暮改も相手のそれにも厳しい方がいます。
しかし、とりあえず受け入れるくらいの柔軟さで対応していく方が、長い目で見るとプラスになるでしょう。凝り固まらず変化していけるからです。
まず、どんなことでも自分へ必要以上に厳しくする方は相手に対しても厳しくする傾向が強いので、自分の朝令暮改を認めてあげることを先に考えてみてください。
筆者自身の朝令暮改に関しては、このWebメディアの記事においても表れています。
ある記事では「基礎練の大切さ」を訴えていますが、別の記事では、「練習曲的側面の強い、しかしレパートリーとなる楽曲に取り組むこと」を強くすすめていたりと、発言の方向性が変化しています。
しかしこれらは、デタラメを言っているわけではありません。
筆者が今までに試行錯誤してきた内容を踏まえて:
・こういう風にやったら効果が上がって
・こういう風にやっても効果が上がった
というような、さまざまな可能性を紹介しておく。
それをザクザク試してもらい、自分に合うやり方を見つけてもらいたいということなのです。
中には、本当に発言のつじつまが合わない内容も出てきているかもしれませんが、筆者自身も日々前へ進んでいるわけなので、発言が変化する可能性はゼロではありません。
その時その時には最善だと確信していることを伝えるようにしています。
何か朝令暮改が起きそうな時に、自分のそれを認めてあげることをおすすめしたいと思います。
ただの気まぐれでいつも一貫性がないのは困りますが、それ以外の自身の朝令暮改は成長している、あるいは、きちんとトライしている証拠です。
‣ 6. 自分が時間を割いてもいない他人の得意技を羨ましがらない
いろいろな方の話をきいていると、普段ピアノをやっている方が他の楽器を演奏できる人物を必要以上に羨ましがっているケースが多く、驚いています。
自分ができないことや自分が持っていないものを持っている人物がすごく見えるのは、ある意味、仕方のないことです。しかし、基本的にそこにコンプレックスのようなものを抱く必要はありません。
なぜかというと、おそらく自身がそこに時間をかけていないから。
例えば、オーボエの習得のために時間をかけて努力して、そのうえで、オーボエが上手く演奏できる人物を羨ましがるのであればまだ分かります。
しかし、オーボエに時間を割いていないのにそれが上手く吹ける人物を羨ましがるのは、意味不明です。
時間を割いてまでやろうと思っていない時点でそこに大した気持ちはないのですから、時間を割いている別のことで頑張ればいい。
筆者も、曲を作る身としてオーボエは本当に大事な楽器だと思っていますが、オーボエが吹けないことをコンプレックスに思うことはちっともないわけです。
そこに気持ちはなく、吹けるようになるために時間も割いていません。
羨ましがるくらいであれば、まずはそのことに時間を使ってください。
時間がないのであれば「やめること」を決めてください。
それができなかったり面倒に感じるようであれば、結局、大したコンプレックスではないので気にしなくて大丈夫です。
‣ 7. 言われても変えないのは、こだわりではない
教材で独学をしたり教室へ習いに行って得た内容について:
・「書いてあるけど、どうせ意味なさそうだからやらなくていいか」
・「言われたけど、何となく腑に落ちないから直さなくていいか」
などと流してばかりいませんか。
もちろん、全部試していたらどんなに時間があっても足りないでしょう。しかし、少しでも気になったものは必ず一度試してみてください。
筆者は、何となく気乗りがしなかった方法を試してみたら、思いがけず大きな恩恵を受けた経験が何度もあります。
よく、何を言われても決して変えない生徒に悩んでいる教室があるようですが、そのような生徒は「自分はこだわりが強いから」などと思っているのでしょうか。
しかし、何を言われても変えない、何を言われても試しもしないのは、こだわりではありません。変化に弱いだけです。
本当にこだわりが強いピアノ弾きは、相手のアドヴァイスを受け入れた上で良いところを吸収し、その吸収を活かして自分のこだわりをさらに強固なものへと進化させていきます。こだわりが変化していくのです。
こだわり(と思っているものが)が変化しないのは、変化の怖さにとらわれているだけ。
まずは素直にトライしてみてください。合わなければそのあと手放せばいいだけですので。
► B. 自己学習と成長の方法論
‣ 8. 独学で上達するために必要なたった一つのこと
独学で上達するために必要なたったひとつのことは、「 “音を出して試してみる” ということを決して怠らないこと」に尽きます。
特に独学の方は、映像や書籍などで奏法や解釈を学ぶことになると思いますが、その際に少しでも気になったことがあったら、必ず音に出して試してみることが必要不可欠。
もし、何度か試してみてそれでも自分に合わないと思ったら、その時は採用しなければいいだけのことです。
文章として読むだけでは「そんなことか」と思うようなことでも、ピアノへ向かってみることで発見があることも。音楽を言葉で説明するのはそれくらい難しいこと。
試してみなければ何も分かりませんし、試してみなければあっという間に読んだことさえ忘れてしまいます。
やり方として、映像や書籍などで学ぶ時に、試しに「ピアノの前」で学習してみてください。
横になったまま学習していると。起き上がるのが面倒になってしまい実践が後回しになってしまいます。
‣ 9. インプットというタネを植えるのも、それを育てるのも自分
インプットをしているだけで実践が伴わなければ、はっきり言って、あまり意味ありません。
書籍を読んでいるだけでは、知識的に分かった気になるだけで「畳の上の水練」にすら到達していない。
まだ、畳の上で横になっているだけでクロールの手すら動いていないのです。
知識的なことが増えるとある部分では出来ることも増えるので、全く何の進歩もないわけではありませんが、腑に落として身につけるためには、まずは意識的に使ってみる必要があります。
インプットというタネを植えるのも、それを育てるのも自分です。
タネを腐らせて終わらせずに、根を張らせてみてください。
切り捨てるインプットを決めるのは、それからでも遅くありません。
根を張っている状態からが、ようやく上達のスタート。
根を張っている状態というのはまだ下に伸びているだけなので、土台はできていきますが、大きな成長はありません。
しかし、いったん根が張り終わればあとは上へ伸びていくだけ。
そこまでたどり着けるようにインプットしたことを実践していく。
それを根気よく繰り返していると、いつの間にか、それぞれのインプットの木同士がつながって森になるタイミングがきます。
また、いわゆる先人の知恵をインプットした時は、試すときに自分のフィルターを通さないことが重要です:
・「これをやってもあまり意味なさそう」
・「これをやったら、こんな感じになるだけだろうな」
などと、今現在の自分の音楽能力で勝手に判断すると自分に都合の良いものだけを試してみることになり、結果的に四畳半の畳の世界から出ることはできません。
畳の上のインプットから畳の上の水練を通り越してその先へ行くためには、言ってしまえば自信過剰な自分の判断が上達の邪魔になる可能性もあるのです。
‣ 10.「難しい」で終わらせずに、解決策を考える
練習をしていて全く弾けないお手上げのところは意外と少なく、どちらかというと:
・とりあえず弾けるけれども、ある部分だけ頻繁にミスをする
・そこだけ常に弾きにくいと感じている
などといったケースがほとんどではないかと思います。
そのような時は、「難しい」のまま放置せず、試行錯誤しながらより良い方法を探し続けてみましょう。例えば:
・ここだけ運指が良くないのではないか
・ここだけ手が鍵盤の奥へ入り過ぎているのではないか
・ここだけ音楽的な理解が足りていないのではないか
・この直前が上手く弾けていないから、それをひきずっているのではないか
などと、他にもあらゆることを考えては改善策を試みるというのを繰り返すのです。そうすると、完全に解決しないまでも、良い方向へ向かうことはあります。
今までずっとやってきて未だに上手くいっていないところなので、試行錯誤せず闇雲にさらっても、たいてい、解決へは向かいません。
・数打ちゃ当たる精神で、何の対策もしない
・弾きにくい部分が含まれる曲だから、本番で弾くのはやめておく
などとなってしまっていませんか。
上記、「直前が上手く弾けていないから、ひきずっている」というのをチェックするためには、そこを単独で弾いてみるのがおすすめ。単独で弾くとすんなり弾けてしまうのであれば、その直前に問題があるということです。
「自分での試行錯誤」が大事で、それによって解決策が見えてくると、他の楽曲でも使える自分の引き出しとなります。
それは、自分の体格や個性などにあった解決策になるので、人から教えてもらったことよりも何より有益な情報と言えますね。
同じ楽曲を弾いても、そこからどれくらい学び取れるかは学習者によって大きな差があります。問題を放っておかずに解決策を探求した学習者の方が、有益な学習期間となるでしょう。
仮にどうしてもその時に解決できないのであれば、それは構いません。
解決できなくても、一度悩んだその問題点を常に意識しておけば、音楽書籍を読んだときや他人の演奏を見聴きしたときに急に解決策が見えてくることがあります。
‣ 11. 学んだことは、いつかカケラ同士がつながる
ひとつひとつの学習があまり意味のないように感じても、すぐに結果につながっていないと感じても、試行錯誤をしながら目の前のことをやるしかありません。
そうすると不思議なことに、学んで得たカケラのような断片がくっついてきてつながるタイミングが来るのです。
・楽器へ向かって練習した内容
・ピアノの指導者から言われた内容
・独学で書籍などの教材から学んだ内容
などで、その時は何となくしか腑に落ちなくてもほとんどの内容は無駄にならないので、必要以上にコスパ、タイパを追い求めて何でもかんでも追いやらないようにしましょう。
‣ 12. 勘に頼る部分をなるべく減らす
ピアノ演奏において感覚で試してみる遊び心はあってもいいのですが、明らかに良案がある部分を勘でやってしまうのは、なるべく避けるべき。
例えば、時代別の装飾音の入れ方。
少なくとも装飾音に関しては、我々よりもずっと研究している先人が書籍などであらゆる情報をまとめてくれています。そういったものに目を通さずして勘で弾いていると、何の学習にもなりません。
最終的にどう弾くのかは自由ですが、知っておいたうえでの自分の意見だと言えるようにしておきましょう。
また、椅子の位置や座る位置などもそうですね。
毎回、勘で適当に座ってしまって弾き始めるようでは、鍵盤と自分との距離が毎回変わってしまい、手元はもちろん、足元の技術ですらその都度変化してしまうことになります。
特に高度な作品へ取り組むようになると、この微妙な変化が調子に影響してきます。
フィギュアスケートの選手が「体重が100g変わるだけでジャンプの上がり方が変わる」などと発言しているのを耳にしますが、ピアノでも鍵盤との距離などちょっとした部分の変化が、実は重要です。
音楽、そして音楽以外でも同様で、勘というのはある意味、リスクだと言えるでしょう。
‣ 13. 自分の経験を第一にする
本Webメディアでは、筆者が実際に経験してきたことを元に記事を執筆していて、学習方法ひとつとっても、実際にやってみて良かったこともそうでなかったこともそのまま共有しています。
そういう方針でやっているからこそ「自分の経験を第一にしよう」という考え方を根本に持っています。
さまざまな音楽書籍などを読んでいて、時々モヤモヤさせられることがあります。
それは、人体の能力的にほぼ不可能な練習方法を紹介していたり、誰が読んでも十中八九、著者が実際に経験していないであろうことを「こうすれば上達する」というような形で掲載してしまっている書籍が、わずかながら存在すること。
文章を書くにあたって、その人物の実体験が織り込まれていると途端に説得力が増し、面白くなります。
また、具体的なエピソードそのものでなくても、経験したことを土台に文章が組み立てられていると読者として強い親近感が湧くもの。
以前、ある面識のある方が
と話されていたので、筆者は以下のように返答しました。
音楽の学習をするときにも「経験」という部分を重視してください。
本Webメディアを閲覧したり、他の書籍などから練習方法や学習方法などを学んだ時には、必ず自分というフィルターを通して実践してみてください。
人それぞれ能力の長所短所は異なりますし、性格や環境も異なるので、筆者に合っていて推奨している方法でも、読者の方によっては必ずしも適していない可能性は十分にあります。
しかし、実際に自分で試してみなければ何も分からないですし、第一歩すら始まりません。
‣ 14. 一度捨てたやり方を拾いにいく
これまでのピアノ人生の中で、たくさんの情報に触れてきたと思います。例えば:
・練習方法
・作品
・レッスン内容
・音楽関連書籍
・音楽関連動画教材
しかし:
・やってみたけどしっくり来なかったから定着しなかった
・難しくて理解できなかったから通り過ぎた
などといった理由で手放した内容も多いはずです。
それから時間が経っています。
自身の音楽の力が上がったことで、今であればその当時は理解出来なかった内容が腑に落ちる可能性が高いのです。
「そういえば、こんなのがあったなあ」と思い出せるものを複数当たってみましょう。
以前にミニマリストの方の発信を目にした時に、重要な考え方が紹介されていました。
ミニマリズムでは「無駄を削ぎ落として、大切なことに集中する」という観点に重きがありながらも、「一度捨てたものの中で、自分に本当に必要だったものを認識して取り戻す」というのも、手放すことと同じくらい重視すべきこととされているそうです。
「無駄と思えることも一度は通っておくべき」というのは、ミニマリズムと正反対のようで、実は強く関連しているのです。
► C. 実践的アプローチと課題解決
‣ 15. 結局、上達のためには食らいつくに限る
今までふたつの音楽学校で指導してきましたが、様々な学生に出会います。
その中でも、個人レッスンでみる学生は大きく2パターンに分かれます:
・食らいついてくるか
・食らいついてこないか
これは「口ごたえをしてくるかどうか」という意味ではなく、個別に課題を与えた時に:
・これをやって意味があるのか
・自分のやりたい音楽にほんとうに活きるのか
などと考えて放棄せずに素直にやるか、そして、やりっぱなしにせず定期的に復習するか、などという部分。
中には:
・渡した課題をなかったことにされたり
・以前にやったことすら一切忘れてしまわれたり
といったこともあって、それは会話の中ですぐに分かります。
とうぜん、それ以上は口を出さないようにしていますが。
びっくりするくらい伸びている学生の共通点があって、やはり、食らいついてくるのです。
課題をきちんとモノにしようとするだけでなく、今の自分の実力を認めて下手なこだわりをいったん捨てて、素直に吸収しようとする、試そうとする。
ピアノを練習する自身のことで考えてみてください。
このWebメディアでは「やることはなるべく絞った方がいい」と書いてきています。
しかし、とにかく基礎を吸収する段階では、多少遠回りになる可能性を恐れず、あまり考え過ぎないで、目の前のことに食らいついてみましょう。
学習の基礎段階では何が自分にとって必要なのか不必要なのかはまだ判断できないはずで、試行錯誤が必要なのです。
‣ 16. 音楽学習におけるほとんどの悩みの共通点
ネットを通じて、あるいは実際の対面で、音楽学習に関するさまざまな悩みを投げかけてもらうことがあるのですが、それらを確認していると共通点が見えてきます。
ほとんどの場合、「その場で停止している悩み」だということ。「まだ行動が伴っていない悩み」という別の言い方をすることもできます。
どういうことかというと:
・こういった練習方法をやったらどうなのか
・こういった音楽書籍を読んでみたらどうなのか
・習いに行った方が良いのか
などといった悩みや疑問で、まだ何も動いてみていないのです。
「やってみたけど上手くいかなくて、そのうえでどう対処して良いのか分からず悩んでいる」というような、すでに行動を伴っている悩みはあまり多くない印象です。
行動すると、多少の時間や多少のお金はかかります。
しかし、試行錯誤することをしないで最短ルートを求めて自分にとっての最適解が分かるわけありません。
本Webメディアでも、おすすめ学習方法やおすすめ書籍などの情報は出していますし、ある程度の情報を集めるのは問題ありませんが、どこかのタイミングで「やってみる」という行動に出ないと何も始まりません。
数百円から高くても数万円程度でできることであれば、とりあえずやってみる。
何年も時間をかけるようなものでなければ、とりあえずやってみる。
どうせ悩むのであれば、行動しながら悩みましょう。
‣ 17. 人に甘える前に、毎日時間を投下する
通常のピアノ練習もそうですが、「移調」や「初見」などが思うようにできなくて悩んでいる方は結構多いようです。
しかし、「全員が」というわけではありませんが、できないこと自体に何となく悩んだりまわりと比較してコンプレックスを持っているだけで、その解決に向けてまだほとんど何もやっていない、という話を耳にするたびひっくり返りそうになります。
自分が時間をかけて取り組んでいないことを悩んだり羨ましがったりする必要はありません。やっていないのだからとうぜんですね。
試行錯誤しながらそれを一定期間以上続けても上手くいかない時に、はじめて悩めばいいのです。
移調や初見もそうですが、できないのであれば、できるようになりたいのであれば、毎日時間を投下するのが最低条件です。
・どんなことから始めればいいか
・どんなことに注意すればいいか
・それを調べるのを面倒臭がらず
・調べたことをやり始めるのを面倒臭がらず
・効率良くない時間の使い方をするのを怖がらず
とにかく毎日何かやってみましょう。
上手くできないことをできるようにする方法は、
「人に甘える前に、やり始める」
まずはこれだけと言ってもいいでしょう。
‣ 18. いちばんやばいのは、やってみないこと
筆者は、ほんとうに大切な人達以外の悩み相談には、基本的にのらないようにしています。
されることはありますが、「そういう話は、近しい別の方に話してみたらどうですか?」のような形でかわすようにしています。
なぜかと言うと、筆者も含めほとんどの人は、結局、自分が信頼していたり惚れている人の話しか信じないから。
何か相談を受けて3つくらい提案しても、後日、また全く同じ相談をされ、「この前の提案の内容は?」ときくと「でも…」と返されることにうんざりし、ある時、なんちゃってカウンセラーは辞めました。
とりあえず、いろいろなところからいくつかのヒントを得たのであれば、「時間がムダになるかもしれない」ということを恐れずに一つずつやるしかありません。
良かったものは残し、そうでないものはやってみた後に切り捨てる。
日常生活では意識せずともこれができているのに、楽器練習を含めた音楽学習となった途端に近道をしようとしたり、やってみるということ自体を放棄してしまっていませんか。
昔の筆者がそうでした。
そうやっている時間こそ、何かをやってみて自分に合わなかったときに使った時間よりも余程もったいない時間だと言えるでしょう。
‣ 19. なぜ、音にしてみることが大事なのか
音にしてみることが重要なのは、やってみないと、自分のできることとできないことが把握できないからです。
・何をやってみると、どう上手くいかなくて…
・どこを改善しようと試みると、どこまでは上手くいって…
などといったように、我々は「やってみる」というところを経ないと自分の状態が何も見えてこない。
とにかく、実用に直結する内容は学んだだけで終わらせずに音にしてみましょう。
作曲でもピアノ演奏でも同様です。
‣ 20. 解決したいことに対する良案を見つけるコツ
日頃の音楽学習の中で解決したいけれども策が見つからないことに出くわすはずです。
演奏や創作に直結する悩みや、音楽環境に関する悩みなど。
調べたり考えて試してみたりしても解決策が出てこない場合、やるべきことはただ一つ。
解決したいことを常に頭の隅っこへ置いたまま、毎日過ごしてください。
そうすることで、日頃、音楽書籍を読んだりいろいろなインプットをしている時に、探している内容に近しいものを発見しやすくなります。
以下のような経験をしたこともあるのではないでしょうか。
これは明らかに、意識しているからこそつかむことができている情報。
音楽における日々の学習でもこれと似たことは起こります。数日では解決しなくても、数ヶ月したらたいてい良案が見つかるのです。
解決策は決して教えてもらうものではなく、自分で探して拾うもの。
このWebメディアでも音楽に関しての様々な話題を出してはいますが、それを自分に必要なものだと思うかどうかは読む方次第です。
とにかく、解決したいことを頭の隅っこへ置いたままにしてください。
‣ 21.レッスンから学べること、学べないこと
斎藤秀雄氏は、言わずと知れた著名な音楽教育者。「小澤征爾さんの育て親」として知られるほか、書籍「指揮法教程」のオレンジは音楽好きで知らない方はいません。
「斎藤秀雄 講義録(白水社)」より、ヒントになる箇所を少し抜粋紹介します。
僕からどんな講義を聴いても、あなたが直接自分で研究してわかるんじゃなかったら、これは何の役にも立たない。
考えるヒントはどこにあるかということだけ僕から教わったらあとは自分で考える。
(抜粋終わり)
とても重要なことが書かれていますね。インプットしてからが大事なのです。
インプットしてから次の行動に移せない一番の理由はおそらく:
・修正箇所などに取り組むと、一時的にレッスン前よりもスムーズに弾けなくなるのが嫌
・試してみても、疑問点などが出てきて学習がストップしてしまうので、講義で納得した状態で終わりにしたい
という部分が大きいのではないでしょうか。
しかし、いろいろ試しているうちに:
・自分の手の大きさや体型
・性格
などにあった方法が見つかる可能性もあります。
どんなに優れたピアニストのレッスンやどんなに優れた書籍でも、完全に学習者に対応した内容を提供することはできません。
自分自身での試行錯誤が大前提になってきます。
・斎藤秀雄 講義録(白水社)
► D. 学習の効率性と持続的成長
‣ 22. 時間をかけて、手を動かして、自分なりのやり方を見つける
リーベルマンの書籍に、試行錯誤に関する重要なことがサラリと書かれています。
「現代ピアノ演奏テクニック」 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社 より
いろいろな問題は一気に解決できるものではなく、一定の時間を要すことを学びとらなければならない。
(抜粋終わり)
長くなるので抜粋では前後の文脈は割愛していますが、文脈からすると「問題意識と忍耐力をもって集中した学習をすること」を言っています。
一方、試行錯誤の重要性を説かれているようにも感じます。
「ゆっくり練習(拡大練習)」という、避けては通れない練習方法があります。
恥ずかしい話なのですが、筆者は「ツェルニー50番練習曲」に入るくらいまで、この練習方法をとったことがありませんでした。
とったことがないというか、本当にその発想がなかったのです。
だから、ゆっくり弾かない学習者は必ずしも単にサボっているのではなく、その練習方法自体が頭にないケースもあり得るのではないか、ということが自身の経験からも分かります。
それまではゆっくり練習をしなくても何とかなっていたのですが、「ツェルニー50番練習曲 第7番 Op.740-7」という同音連打のエチュードが当時あまり上手く弾けなくて、習っていた先生に練習が雑だということを指摘されました。
そこではじめて「ゆっくり練習(拡大練習)」を知って、取り入れ始めたのです。
そして、この練習方法は大きな効果があるけれどもゆっくり弾いていただけでは速く弾けるようにならないことも知り、どういったいくつかの練習をどういった割合で混ぜていけばいいかと試行錯誤することになりました。
音楽の学習やピアノの練習をしていると様々な問題点や疑問点が出てくるので、情報収集に関する貪欲さを持って、試行錯誤しながら実現したい内容を現実化させていく方法を自分で考えていくしかありません。
このようにして知識やノウハウを自分で獲得していき、年々、判断できる材料が増えていきさえすれば、あらゆる楽曲へ取り組む時に使える自分なりのやり方を手にすることができます。
◉ 現代ピアノ演奏テクニック 著 : エフゲーニ・ヤコブレヴィッチ・リーベルマン 訳 : 林万里子 / 音楽之友社
‣ 23. 練習では遠回りしていい場合もある
「ピアノ練習においても効率が良いことに越したことはないけれど、遠回りしていい場合もある」と言えます。
世間では色々な声があります:
・指練習をやってもすぐに動かなくなるから、楽曲だけで練習した方が効率がいい
・最初にJ.S.バッハから練習して手が温まってから速い楽曲に取り組んだ方が効率がいい
などといった、どうすれば一番効率いい練習ができるのかということをみなさん研究されています。
それらはどれも間違いではないかもしれません。しかし、どれも正解ではないとも言えます。
筆者がおすすめしたいのは、「いくつか試してみた結果、合うものを見つけて自分のルールを決めるべき」ということです。
パソコンの操作ひとつとってみてもそう。
例えば、Macでは「command + S」を入力するだけですぐに「保存」ができ、その時間0.5秒。最も効率はいいのです。しかし、「過程」が吹っ飛ばされています。
仮に、「ファイル」メニューから「保存」を選んだ方が、「ファイルを保存するのだから、こういう手順になるんだよね」などと、やっている動作の意味を考えながら頭を整理できるのであれば、1秒以上かかってしまってもこちらのやり方を選択して構わないのです。
こういった部分には「少しでも効率良い方がいいに決まっている」などという考えは無意味で、自分に合った自分で決めたルールでやればOKです。
このようなちょっとした選択がピアノ練習においても日常茶飯事です。
さすがに効率が悪すぎるのはNGですが、効率を極めるのもほどほどに。
► 終わりに
試行錯誤を恐れず、自分なりの実践を行い続けることが、上達と音楽への深い理解につながります。
学びの過程そのものを楽しむ姿勢を持って、学習を続けていきましょう。
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