【ピアノ】シューマン「献呈」1小節目の深層分析:音符に込められた愛の物語
► はじめに
シューマンの「ミルテの花 Op.25 より 第1曲 献呈」は、わずか1小節の前奏に作曲家の想いが凝縮された作品です。
本記事では、この冒頭1小節目を細かく分析し、音楽的・感情的表現の要点を解説します。原曲の歌曲版、クララ・シューマン編曲のピアノソロ版、リスト編曲版すべてに適用できるアプローチをお伝えします。
※リスト版では前奏が3小節に拡大されているため、該当箇所は第3小節となります
► 楽曲の基礎知識
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
作曲年:1840年
演奏時間:約2分
歌詞:フリードリヒ・リュッケルト
楽語: Innig, lebhaft.(心から、活き活きと)
ロベルト・シューマンが作曲した歌曲集「ミルテの花」の第1曲として知られる「献呈」。この楽曲は、シューマンがクララとの結婚時に彼女に捧げた特別な作品です。「歌曲集の一曲目に持ってきている」という部分にものすごい想いを感じます。それをどういう音でどのように音楽にしていくのかを考える必要があるでしょう。
前奏が1小節しかありませんが、このようにごく短い前奏しかないか、または全く前奏がないのは、シューマンの歌曲で多く見られる特徴です。
► 1小節目の基礎知識と演奏のポイント
‣ 1小節目の基礎知識
(再掲)
1. 暗号化された愛のメッセージ
一番はじめの2音に注目してください:
・C音: Clara(クララ)のイニシャル
・Es音: Schumann(シューマン)のイニシャルS
シューマンは低音部でクララをすごく支えているのです…。音楽的にも象徴的にも彼女を支える姿勢を表現しています。
2. 楽語「Innig, lebhaft.」の真意
「心から活き活きと」という指示は、速度記号に留まりません。これは歌詞の内容と直結し、シューマンのクララに対する溢れる愛情を音楽で表現する指針です。
‣ 演奏技術と表現のポイント
(再掲)
1. 弾き始める前に
音楽は1小節目の頭から始まっているわけではありません。「音楽はもっと前からある」という意識が必要です。身体の準備と呼吸の準備ができて、初めて弾き始めましょう。音を出す前に作っておくものがないといけません。
2. ダイナミクスの表現
どんなイメージを持ってもいいのですが、mf というのは、 f の解放されたエネルギーよりも「大事なものを大事に表現したい」というニュアンスに感じます。ここでは、気持ち的には f くらいの高い気持ちを持って、音量的には mf で演奏するのがいいでしょう。その表現が、中間部の穏やかな曲想との対比を作ってくれます。
クレッシェンドの松葉は、この図形通りに音を大きくするというよりは、「音楽の方向性を示すもの」だと考えましょう。変なところでタメたりもたついたりしないでエネルギーを前へ持っていくことが重要です。
3. 付点の表現
すぐに出てくる付点に注目してください。これを普通の8分音符の連続として弾いてみるとその表現の違いが明確に分かります。付点になっているところにものすごく世界感があり、それを表現するのがピアノを弾く側の仕事です。
演奏上の注意点としては:
・付点8分音符から16分音符への音のつながりを感じ、分断させない
・「16分音符→8分音符」の同音連打をとってつけたように強調しない
・一度正しいリズムを身体へ入れるまで、変にリズムを崩さない
これらを意識すると付点が魅力的に聴こえ、かつ、3/2拍子がきちんと3拍子に聴こえてくれます。
4. 小節のまたぎ目の表現
メロディの開始である「Du meine…」の「Du」を印象的に響かせるため、小節のまたぎ目でわずかなブレスを取りましょう。もちろん、音楽が止まってしまう「rit. しました」みたいな表現は避けるべきであり、「流れの中で少し息を入れる」程度で十分です。
1小節目の最後の2つの8分音符で「主音上のⅤ」という和声に変化するため、ここでペダルを踏み替えます。
5. 運指の提案
左手1-2拍目の運指選択肢:
パターンA: 53-2-1-2-1-2-3-5
パターンB: 53-2-1-3-2-1-2-4
手の大きさなどに応じて選択してください。
► 終わりに
たった1小節に込められたシューマンの愛の表現を理解することで、楽曲全体への理解が深まります。技術的な正確さと感情的な深さを両立させた演奏を目指しましょう。
「献呈」を主要テーマとして書いた別記事:
・【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「献呈」:特徴と演奏のヒント
・【ピアノ】共通音転調の技法:シューマン「献呈」で学ぶ音楽理論
・【ピアノ】単発レッスンで失敗しない事前準備のすべて:初中級者以上向け
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