【ピアノ】「シュナーベル ピアノ演奏と解釈」レビュー:歴史的ピアニストの深い音楽観

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【ピアノ】「シュナーベル ピアノ演奏と解釈」レビュー:歴史的ピアニストの深い音楽観

► はじめに

 

20世紀を代表するピアニスト、アルトゥール・シュナーベルの教えを集大成した「シュナーベル ピアノ演奏と解釈」は、ピアノ学習者にとって貴重な指針となる一冊です。著者のコンラッド・ウォルフはシュナーベルに師事し、長年の研究と記録を重ね、師の同意と協力を得て本書を完成させました。

 

・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1974年
・ページ数:233ページ
・対象レベル:中級~上級者

 

・シュナーベル ピアノ演奏と解釈 著:コンラッド・ウォルフ 訳:千蔵八郎 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ 本書の特徴

 

1. 実践的な音楽観の提示

シュナーベルによる「アーティキュレーションとは目的と手段、つまり音楽とテクニックとを結びつけるもの」という指摘は、演奏技術と音楽表現の関係性を端的に表現しています。この視点は本書全体を通じて一貫しており、技術練習の本質的な意味を理解するうえでの重要なヒントになります。

 

2. シュナーベルの教育理念

シュナーベルは音楽的感性だけでなく、理論的理解の重要性も説きました。特に和声感の育成については、変奏曲の学習を通じた具体的なアプローチを提案しています。

 

(以下、抜粋)
レッスンのたびに、曲の最初の数小節の間に、リズムの問題も含めて、その曲の性格を決定づけるようにすることに多くの時間をさいた。
(抜粋終わり)

このように、シュナーベルのレッスンの様子が読み取れる部分が多いのも特徴。「追記 シュナーベルのレッスン」の項目も収載されています。

 

3. 楽曲解釈への深い洞察

「小節線の機能というものはたんなる交通整理的な区切りにすぎない」というシュナーベルの視点は、形式的な演奏に陥りがちな学習者に、音楽の本質的な流れを考える機会を与えてくれます。

 

‣ 実践的な指導内容

 

1. テクニックの捉え方

著者は、テクニックをただの指の動きとしてではなく、内なる音楽的イメージを実現するための手段として位置づけています。これは現代のピアノ教育でも重要視される観点です。

2. 練習方法のアプローチ

シュナーベルの練習スタイルとして、「練習時間を、楽曲の正確なアーティキュレーションを達成するためにあてる」という具体的な方針が示されています。

3. 演奏表現の柔軟性

特筆すべきは、ルバートについての考え方です。

(以下、抜粋)
ルバートを行なうかどうかは、様式によるものではなく、奏者が旋律線を明確にしようとするそのときどきの瞬間的な必要性にかかっているのである。しかし、その必要性は、奏者のそのときの必要性であって、明日はそうでないかもしれない。ルバートは許容であって、規則ではないとシュナーベルは言った。
(抜粋終わり)

著者は、ルバートを様式の問題としてではなく、その時々の音楽的必要性に応じて判断すべきものとして捉えています。この柔軟な姿勢は、表現の幅を広げたい演奏家にとって考えさせられます。

 

► 留意点

 

・内容には観念的・哲学的な部分も含まれており、実践的な演奏技術だけでなく、音楽への深い思索も求められる
・シュナーベル独自の独特な解釈も多く含まれているため、他の関連書籍と併せて参照するのがおすすめ

 

► まとめ

 

本書は、ピアノ教則本であると同時に、音楽芸術への深い視点を提供する貴重な文献です。中級以上の学習者や教育者にとって、音楽への理解を深める重要な指針となることでしょう。

 

・シュナーベル ピアノ演奏と解釈 著:コンラッド・ウォルフ 訳:千蔵八郎 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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