【ピアノ】「ピアノ演奏おぼえがき」レビュー:独学のための実践的ガイド
► はじめに
「ピアノ演奏おぼえがき」(ハンス・カン 著、城房枝 訳)は、ピアノ演奏と指導についての深い知見を集めた貴重な一冊。本書の特徴は、技術面だけでなく、音楽的表現や解釈にも重点を置いた総合的なアプローチにあります。
本記事では、本書の価値と活用法について詳しく解説していきます。
・出版社:音楽之友社
・ページ数:138ページ
・対象レベル:中級〜上級者(第Ⅲ章、第Ⅳ章は初心者でも読める)
・特徴:譜例や図例が豊富
・サイズ:26cm(携帯には不向き)
・ピアノ演奏おぼえがき 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
► 本書の特徴と強み
著者のハンス・カン(1927–2005)は、オーストリア出身のピアニスト、作曲家。ピアニストとしてのステージ活動はもちろん、ウィーンの音楽学校で教授を務めた他、日本での指導経験もあります。
1. 難し過ぎない内容
・対象レベル:中級〜上級者(第Ⅲ章、第Ⅳ章は初心者でも読める)
・隣接書籍(ガートやリーベルマンなどの演奏指導書)に比べるとやや易しめな内容
2. バランスの取れた内容構成
本書の最大の強みは、技術面と知識面の両方からアプローチする総合的な内容構成です。多くのピアノ指導書が技術面に偏りがちな中、本書は以下の要素をバランスよく扱っています:
・基本的な演奏技術
・音楽表現の方法論
・楽曲解釈の考え方
・知識面からのアプローチ
・実践的な練習方法
3. 実践的な指導内容
著者のハンス・カンは、長年の教育経験から得られた知見を惜しみなく共有しています。特に注目すべき点として:
・指先の感覚(「点感覚」)に関する具体的な解説
・内的なデュナーミク(楽譜に明示されていない強弱の変化)の重要性
・創造的な演奏のための具体的なアプローチ方法
► メインの章のハイライト
第Ⅰ章・第Ⅱ章:練習法と技術
・タッチや指使いの詳細な解説
・実践的な練習方法の提示
・リズム、ペダル、フレージングなどの具体的な指導
第Ⅲ章:音楽的知識
・楽曲解釈の基本原則
・歴史的な演奏様式の理解
・音楽作品に関する幅広い知識
第Ⅳ章:楽譜研究
・原典版の使用法
・出版されている楽譜の問題点
・楽譜の適切な解釈方法
他、第Ⅶ章まで収載。
► 特徴的な引用
旋律的なフレーズをエスプレッシーヴォで演奏するには、つまり重要な音にアクセントをつけ、あまり重要でない音はさらっと流して弾くのである。
(抜粋終わり)
ベートーベンのソナタ作品111の初めの部分で、左手の跳躍を間違えないように両手にわけることがある。
この跳躍は集中と勇気と自信を要求する。
当然前もって高度の技術をマスターしていることが前提になっている。
決して簡略化してよいものではない。
ベートーヴェンはこのソナタを演奏するのに、十分な技術的熟達と注意を意のままにできるピアニストを想定しているのである。
隣の鍵に触れる危険のあるということもこの部分の緊張を高めているのである。
(抜粋終わり)
生徒に新しい概念、新しい可能性を現わす言葉をみつけさせる。
このような実験は、新しい、創造的なピアノ演奏を刺激するはずである。
たとえば、
輝くような
金属的な
満ち足りた
硬い
鐘の響きのような
クリスタルのような
ガラスのような
鈍い
ピッチカートふうの
刺すような
等々。
(抜粋終わり)
► まとめ:本書の価値
「ピアノ演奏おぼえがき」は、単なる技術指導書を超えた、総合的な音楽教育の指南書といえます。特に以下の点で、独学者にとって貴重な一冊となるでしょう:
・技術と音楽性のバランスのとれた指導内容
・豊富な譜例と図例を用いた、具体的で実践的なアプローチ
・独学者でも理解しやすい明確な説明
本書は、特に中級以上の独学者が自身の演奏を見直し、より深い音楽表現を目指すための道標として、大きな価値を持っています。
注意点:
・初心者にとっては、一部の内容が難しく感じられる可能性がある
・モーツァルトの入門ソナタから、シューマンの高度な作品まで、譜例の楽曲レベルに幅がある
・サイズが26cmあり携帯性に欠けるため、自宅での学習用として使用するのが適切
・ピアノ演奏おぼえがき 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
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