【ピアノ】フレーズのつなぎ目から読み解く楽曲分析
► この記事で学ぶこと
楽曲分析のアプローチとして、「鎖のつなぎ目を見つける」という手法を学びます。
楽譜上の素材同士の連結点を見つけ出し、音楽の構造を見出すことを目指します。
► 本記事の対象者と前提知識
こんな方におすすめ
・楽曲の構造をより深く理解したい方
・分析の基礎を学び、次のステップに進みたい方
・演奏解釈の幅を広げたい方
► 鎖のつなぎ目の基本概念
1. 定義と重要性
「鎖のつなぎ目」という用語は一般的ではありませんが、音楽家の間でしばしば用いられる概念です。これは:
「フレーズ終わり」であり「フレーズ始まり」でもある音のこと。
2. なぜ、鎖のつなぎ目を見抜くことが重要か
・複雑な楽曲構造を理解可能な単位に分解できる
・素材同士の結びつきを把握できる
・演奏解釈の判断材料になる
・フレーズ感の自然な表現につながる
► 実例解説
‣ 実例①:典型的な鎖のつなぎ目
モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 第1楽章」を例に解説します。
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、70-73小節)
この例における重要ポイント:
1. 和声的機能:★印の音は、前のフレーズの終止音であると同時に、再現部の開始音としても機能
2. 構造的役割:展開部から再現部への移行を滑らかにする架け橋として機能
3. 音楽的効果:聴き手を自然に再現部へと導く
‣ 実例②:フレーズ構造の巧みな操作
一方、以下のような「終わりの音に見せかけた始まりの音」と分析できるものもあります。
ブラームス「6つの小品 間奏曲 Op.118-2 イ長調」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、18-21小節)
この例の特徴的な点:
作曲技法的観点
・前のフレーズから自然に流れてくるメロディライン
・スラーによる意図的なフレーズの区切り
・和声進行による支持
メロディを歌ってみると、★印で示したメロディのA音は、前からのメロディの流れとして感じますが、
ブラームスはスラーでフレーズを改めていますね。
つまりここは、
「前のフレーズの終わりの音ではなく、次のフレーズの始まりの音」
と分析することになります。
‣ 実例③:演奏解釈への応用
ショパン「ポロネーズ 第7番 幻想 Op.61 変イ長調」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、20-23小節)
★印で示したところは、前のフレーズの終わりの音であると同時に、次のフレーズの始まりの音でもあります。
スラーから判断すると、前のフレーズの終わりの音と判断するのが良さそうですが、
カッコで示したように、小節頭から f で弾いているピアニストも多くいるので迷わせられます。
演奏解釈の例
・22小節頭から f にするケース(★印のところをフレーズ始まりとするケース)
・22小節1拍目の裏から f にするケース(フレーズ終わりとするケース)
判断の基準
・楽曲全体の流れ
・前後の文脈
・ポロネーズのリズム的特徴との整合性
ここで注意しないといけないのは、
楽曲分析の場合は「どちらとも解釈可能」という分析でいいのですが、
演奏の場合は、どちらにするかを決めなくてはいけないということです。
筆者の感覚としては、
22小節目の頭はスラーが書かれている通り「フレーズ終わり」と解釈して、前からの静かな流れを踏襲する方が、
尻餅をついた感がなく、音楽的に感じます。
裏拍からでも、ポロネーズのリズムは成立しますね。
ここでのようにダイナミクスが大きく変わる場合は特に、
フレーズ終わりとフレーズ始まりのどちらの解釈でいくのかを慎重に決定しましょう。
► 実践課題:ベートーヴェンの分析
ここまでで学んだ観点を意識しながら、以下の課題に取り組んでみてください。
メロディラインを調べ、明らかに鎖のつなぎ目だと判断できる一箇所に丸印をつけてみましょう。
ベートーヴェン「ソナチネ 第5番 ト長調 Anh5(1) 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-5小節)
【解答例】
判断のポイント
・5小節目からのメロディも曲頭素材の引用なので、丸印をつけた2分音符から新しいフレーズと考えられる
・4小節目からスムーズに5小節目へ流れ込んでいるので、丸印の直前でフレーズが切れているとは考えられない
► 困ったときは
よくある疑問と解決のヒント
Q1: 鎖のつなぎ目らしきところが見つかり過ぎる
A1: フレーズを細切れに考え過ぎるとそうなります。実践課題の解答例を参考として、大きな視点で捉えて判断しましょう。
Q2: つなぎ目の判断に迷う
A2: 以下の観点から総合的に判断してみましょう:
・メロディの方向性
・前のフレーズの終わりがはっきりしないところに目をつける
・次のフレーズの始まりの直前に切れ目がないところに目をつける
これらの他、「こう考えたけど、違った」などといった困りごとが出てきた時は、
焦らず、上記の分析例を丁寧に復習してみましょう。
► 終わりに
鎖のつなぎ目の分析は、楽曲構造の理解を深めます。
単なる技法的な理解に留まらず、音楽的な表現の可能性を広げる重要な視点となります。
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