【ピアノ】音楽表現を深める「言葉」の使い方
► はじめに
音楽における「言葉」の使い方については非常に大切な要素ですが、意外と見落とされがちです。言葉はただの言語表現に留まらず、音楽を伝えるための大切なツールです。
本記事では、言葉が音楽の表現に与える影響と、それをどう活かしていくかについて考えていきます。
► 音楽と表現:言葉の力
‣ 1. 楽曲から適切な言葉を見つける
音楽の学習を本格的に始める前のことですが、当時習っていた先生から以下のようなことを言われました。
イメージやら、断片的な言葉やら、何でも思いつくままに挙げるように言われたとき、何も思いつかなくてとても恥ずかしい思いをしました。
それまでは、音を拾って聴こえてきたものを楽しんでいただけで、楽曲そのものについて深く考えたことはなかったわけです。
どんなにイメージなどが出てきても、それを表現するテクニックがなければ音には反映されません。
しかし、表現したい内容があってこそ必要なテクニックが見えてくることからも、言葉を積極的に活用することは、決して悪いことではないと思います。
この点について、
「ピアノ演奏おぼえがき」 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
という書籍に、以下のような文章があります。
生徒に新しい概念、新しい可能性を現わす言葉をみつけさせる。
このような実験は、新しい、創造的なピアノ演奏を刺激するはずである。
たとえば、
輝くような
金属的な
満ち足りた
硬い
鐘の響きのような
クリスタルのような
ガラスのような
鈍い
ピッチカートふうの
刺すような
等々。
(抜粋終わり)
この文章を目にしたときに真っ先に思い出したのが、
美しいピアノ曲、武満徹「雨の樹素描 II-オリヴィエ・メシアンの追憶に-」の高音域部分に出てくる、「Celestially Light」という言葉による指示。
Celestially Light というのは、あえて日本語にするのであれば「天上の光」という意味でしょう。
こういった、「書いてなくても成立はするけれども、書いてあることでグッと音楽の世界へ引き入れてくれる言葉」には譜読みで敏感に反応しなければいけません。
これは作曲家自身が言葉を残した例ですが、上記のように、演奏者側も独自の言葉でいいので目の前の作品について何かしらを見つけてみましょう。
無理矢理見つけるというよりは、適切な言葉があるのではないかと思ってワクワクしながら譜読みをすることで自然と発見するのが理想ですね。
・ピアノ演奏おぼえがき 著 : ハンス・カン 訳 : 城 房枝 / 音楽之友社
‣ 2. 音楽における言葉の選び方とその影響
以前に、ミロンガというジャンルをベースに作曲したピアノ作品を発表した時に、地方新聞の取材を受けました。
その内容のチェックをしていたら、
という言葉が使われていたのです。
当然、悪気があって使われた言葉でないのは分かったのですが、「叩く」という言葉に違和感を感じたため、丁寧に説明して「つかみとる」に変更していただきました。
同系統だと「打つ」という言葉もできる限り使いたくないですね。どことなく音楽的ではないように響くからです。
何を言いたいかというと、音楽においても言葉の持つイメージは大きいということ。
言葉を上手く使うと、結果的に、音楽自体を好意的に聴いてもらえますし、文章の場合も相手に伝わる音楽のイメージが大きく変わります。
日頃から演奏力向上に努めるべきなのは言うまでもありません。そのうえで、自身の音楽に「言葉」による表現を取り入れてください。
・日常での言葉の使い方をはじめ
・プログラムの演奏曲名におけるスペースの入れ方
・コメント
など、音楽を伝えるうえでの「言葉」というものに、もっとこだわっていきましょう。
‣ 3. 言葉が演奏の印象を変える
発表会や演奏会に出演する時に、「一言メッセージを出してください」などと言われることがあるはずです。それがステージへ出ていく時に読み上げられたり、プログラムへ記載されたりします。
こういった際に用いる言葉が、演奏自体の印象も左右します。
言葉による情報は「一種のプレゼンテーション」なので、決して蔑ろにしないでください。
まず、どんな聴衆が多い本番なのかを考え、そのうえで、場に適した内容を使い分けます。
例えば、一般的なピアノの発表会であれば、聴衆の多くは「出演者の家族」でしょう。
おそらく専門的な知識を持っている方は少ないでしょうし、楽器演奏の経験があるかも分かりません。
こういった場で、「この楽曲の第二主題に出てくるドッペルドミナントが〜」なんて言っても分かるはずありません。しかし、意外に多くの方がこういったことをやってしまうのです。知識の博覧会にならないように気をつけましょう。
端的に言うと:
・文章そのものを、分かりやすい言葉を使っても伝えられる内容にする
・一文の中で何度も話題を変えずに、短く切る
これらのように工夫した方が、むしろ演奏自体も好意的に聴いてもらえるはず。
その他の注意点としては、自身よりも20〜30歳年上の方が読んでも、違和感をもたれない言葉遣いを心がけておくことです。
また、プログラムへの文字記載の場合は長ければいいというわけではありませんが、200字以内と言われて20字程度しか書かないのは印象良くありません。
プログラムというのは並びで見るものなので、一人だけ悪目立ちしてしまいます。
せめて、指定限度の7割程度は作成すべきです。
‣ 4. 上手に弾ける人がたくさんいる中で抜きん出る方法
ピアノ人口の多さはあらゆる楽器の中でも圧倒的。自分の身近なピアノ弾きだけでも、上手に弾ける人はたくさんいるはずです。
人と比べて落ち込んだりする必要は全くありませんが、「少しでも抜きん出たい」と思うのも当然。
ひとつ、突破口があります。
「言葉を上手く使う」という方法。
・リアルな本番
・ネット配信
など、形態に関わらず、演奏に際して自分のコメントを伝えられる場はたくさんあります。
演奏する楽曲や自分のパーソナルをどのような言葉で解説するかによって、聴こえ方の印象が全く変わります。
言葉で魅力的に伝えられれば、全く同じ実力を持っていても演奏のレベルは上に聴こえます。
それに、言葉を大切にして演奏をしていると、存命の作曲家とのつながりが生まれます。
作曲家は、表面以外のことも大切にしてくれて、それを演奏でも言葉でも伝えてくれる演奏家を何よりも望んでいるから。
そのようにして作曲家の「新作初演」などを手がけたりすると、その作曲家にとって一生ポートフォリオにのせる唯一の存在になります。再演よりも初演の役割重要度は圧倒的だからです。
そのようにして、演奏者としてのステージも上がります。
バリバリ弾けるだけで言葉を大切にしてこなかった演奏者よりも、抜きん出ることができます。
もちろん、日頃から演奏力向上に努めるべきなのは言うまでもありません。そのうえで、「言葉」による表現を取り入れてください。
► 終わりに
音楽の深さや豊かさを理解し、その表現を自分なりの言葉で伝えることができるようになれば、演奏にも新たな光が当たるでしょう。
音楽を表現するために、演奏表現の向上と同時に言葉も大切にしてみてください。
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