【ピアノ】音楽専門書の選び方・使い方・効果的な学習法
► はじめに
音楽を学ぶ上で、専門書を読むことは貴重な学びの方法です。しかし、多くの人が「買っただけ」「読み始めても続かない」という経験をしているのではないでしょうか。
本記事では、音楽専門書を効果的に活用するための具体的な方法と、学習のコツをお伝えします。
► A. 音楽専門書の選び方
‣ 1. 使いやすい音楽書籍を選ぶコツ
音楽書籍は多くありますが、専門的な学習参考書を選ぶ時には、使いにくいものを選んでしまうと、後でやり直しになる可能性があります。
店頭で買う場合とオンラインで買う場合は、それぞれどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
【店頭で買う場合】
店頭で買う場合は、中身をのぞくことができますね。ざっと目を通してみた感触で決めたり、店頭でスマホを開きレビューを確認したうえで決めるのも一応アリでしょう。
しかし、外すべきではないチェックポイントは他にもあります。
それは「譜例の曲名の書かれ方」について。
クラシック音楽書籍では、解説のために巨匠の譜例が挟み込まれてきますが、その曲名がいい加減に書かれている書籍は、本当に使いにくい。例えば:
・シューベルト「奏鳴曲」とだけ書かれていて、番号や楽章などの情報が省略されている
・ラヴェル「鏡 より 道化師の朝の歌」が、「アルボラーダ」とだけ書かれている
譜例を見てパッと曲名が思い浮かべばいいのですが、マニアックな作品などが出てくるとその度にモヤモヤさせられます。だからといって、曲名と譜例を一致させて理解しないと身になる学習にはなりません。
古い書籍だと曲名の読みにくい表記が比較的多いのですが、最近の書籍でも時々見受けられるので厄介です。
ちなみに、「楽式論 石桁真礼生 著(音楽之友社)」という書籍では、
【楽譜68】
(記載)ベートーヴェン・ヴァリエイション
(実際の曲名)ベートーヴェン「創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80」
【楽譜105】
(記載)ドビュッシー・チルドレンスコーナー,2.
(実際の曲名)ドビュッシー「子供の領分 より 2.象の子守歌」
などと書かれていたり、略式曲名のオンパレード。
しかし、そんなことをどうでも良いと思わせるほど内容が良いものなので、これに限っては例外です。
【オンラインで買う場合】
オンラインで買う場合は、多くの方が書籍レビューを見ると思います。
しかし、本記事で強くすすめたいのは、レビューにざっと目を通すだけでなく、とにかく、”全件” 読むべきということ。
レビューがないようなマニアックなものはともかく、あるものに関しては、評価の数字は無視してレビュー記事自体を淡々と読んでください。
また、極端にベタ褒めや厳しい評価があるレビューについては、そのレビュアーの過去のレビュー傾向を確認して、信用性をチェックしましょう。
基本的なやり方は音楽書籍以外のものを買うときと同じですが、特にクラシック音楽のものはレビュー数がそれほど多くないケースがほとんどなので、評価の数字を無視して、全件読むのを必ず実行してください。
ここまでやれば、大体のことはわかってきます。
古くマニアックものなどでレビューが全くない場合はどうすればいいか。
方法はシンプルで、3,000円以内であればとりあえず買ってしまいましょう。最悪、やり直しのきくラインだからです。
時にはレビューがまったくない書籍に出会うのも、クラシック音楽の書籍探しで付き合っていかなければいけない部分です。
‣ 2. 音楽書籍を新しい視点で選ぶ方法
読む書籍を自分で選んでいると割と傾向が似たり寄ったりになり、「動ける範囲内で動いて…」みたいなところに落ち着きがち。
そういったありきたりな書籍学習からはみ出る方法があります。
「音楽仲間の本棚を読む」という方法。
音楽の中とは言えども、人間、みんな興味が異なるので、他人の本棚を読むのはとても刺激になります。
電子書籍のライブラリーを見せてもらってもいいですが、少なくとも、クラシック分野の専門書は紙でしか見れないものも多いので、まずは、実際の本棚を読ませてもらいましょう。
ずっとその人の家にいるわけではなく、パラパラ見させてもらって良さそうなものがあったら、貸してもらったり自分で購入するのです。
これは、「知人が興味を持ったものにアプローチする方法」というのがポイント。書店で無数の書籍に手を伸ばすのとは全く意味が異なります。
未知の音楽書と出会うことに始まり、知っていても手に取ってみたことがなかったものに手を伸ばしてみることで、自分の動ける範囲内でやっていた学習からはみ出ることができます。
音楽好きの家族がいるのであれば、親の本棚を読むのもいいですね。
‣ 3. 参考書選びは、悩んだら「定番書」を選ぶ
ピアノの学習というのは楽器へ向かうのが基本ですが、上を目指していきたい場合は:
・楽典
・楽式論
・ピアノの構造
などをはじめとした周辺知識も学習することが必須となってきます。
いざ学習をしようと思った時に頭を悩ませるのが、参考書の種類があり過ぎる問題ですね。
前項目で紹介したような決め方も一案ですし、「定番書と言われているものを選ぶ」というシンプルな方法もおすすめです。
一番避けたいのは、「内容が偏っていて、別の書籍で全部勉強し直しになる」という状況に陥ること。
その点、定番書というのは定番になっただけあって:
・最低限の知識の網羅性
・専門性と分かりやすさの同居
という点においては優れています。
学ぶ気さえあるのであれば「買って損した」という事態になる可能性はとても低いのです。
唯一の欠点として、定番書というのは長年読まれてきた歴史のあるものが多いので、「表現がやや古くなっている部分も存在し得る」という点があります。
しかし、少なくとも以下で紹介する定番書は、文体などの言い回しに多少の時代を感じるものの、内容自体は現代においてもしっかりと通用するものになっています。
・楽典
・楽式論
・ピアノの構造
それぞれについて書かれた定番書を紹介します。
【「楽典」を学べる定番書】
・楽典―理論と実習 (音楽之友社)
独学でも理解しやすいように書かれており、ピアノ学習に必要な基本的な内容がバランスよく収められています。
【「楽式論」を学べる定番書】
・楽式論 (音楽之友社)
圧倒的に有益な、分野特化型専門書。
一言でいうと音楽の成り立ちを深く理解するための参考書。
こういったタイプの専門書は、「いますぐ使える小技を得るもの」というよりは、「音楽を根本から理解し、総合的な力をつけるためのバイブル」といったところでしょう。
【「ピアノの構造」を学べる定番書】
・最新ピアノ講座(1) ピアノとピアノ音楽 (音楽之友社)
ピアノを深く知るための決定版といえる一冊。
楽器の歴史から構造、音楽史、演奏技巧の変遷、教育法、保守と防音まで、まさに「ピアノの図鑑」として機能する本書。
日本を代表するピアニストや作曲家、音楽大学教授陣による分担執筆で、それぞれの専門分野について詳しく解説されています。
‣ 4. 合わない音楽参考書はいったん無視する
日頃の音楽学習の中で様々な音楽参考書に触れると思いますが、例えば:
・「この本、自分には合わないな」
・「この本、あまりしっくりこないな」
と思うことはありませんか?
数ページ読んではやめて、また後日開いて…の繰り返しで結局進んでいかないし、身にもなっていない。
そのように感じる場合は、いったん、その参考書は無視してください。
人間、自分が今現在取り組んでいることに対しては良いもの良いことだと思い込んで、自分の行動を肯定するようにできているそう。
それなのにも関わらず「合わない」「あまりためにならない」と感じるということは、やっぱり相性がよくないのです。
いったん無視しておいて、学習が進んだりある程度の期間が過ぎた後にもう一度読んでみると、場合によってはしっくりくるケースもゼロではありません。筆者にもそういった経験はあります。
とりあえず今現在は、合わないと感じる参考書に時間を使うのをやめてみてください。
また、どうしてそれが自分にとってしっくりこなかったのかを考えてみると、別の参考書を探すときに失敗する可能性を減らすことができます。
‣ 5. 著者と作曲家との関係に着目する
特定の作曲家について学習する時には、優先度としては作曲家と近いポジションにいる著者によるものを高くとっていいでしょう。
著者と作曲家との関係が大事。単純に内容に信頼性があるからです。
例えば:
・レオポルド・モーツァルトはアマデウス・モーツァルトの父であり、幼少期の指導者でもある
・ロザンタルやペルルミュテールはラヴェルの弟子
など、作曲家と関係のある人物に目をつけてみます。
例えば、C.P.E.バッハの「正しいクラヴィーア奏法」を読んでも、まるまるJ.S.バッハについて書かれているというわけではないので、ただJ.S.バッハについて知りたいだけであれば別の著者による資料を通読すればいいでしょう。
しかし、さらに学習を進めるためには近い人物による著書や校訂楽譜を省略してはいけません。必ず、参考資料の一つに入れましょう。
1日過ぎれば1日分の歴史が増えていきます。世に出回る資料は少しづつ増えていき、良くも悪くも選択肢が増えていきます。
だからこそ、著者と作曲家との関係を重視した資料選びを心がけてください。
‣ 6. 多角的な学習のための複数の専門書選び
ホームポジションとする書籍はできる限り絞った方が、分散しない学習ができます。ただし、ある程度の高度な内容を学習する時には、もう少し視点を広げなければなりません。
なぜかというと、音楽のものも含めほとんどの専門書というのは、数冊を参考にしてはじめて理解できるようになっているからです。
たとえば、ピアノの構造について理解しようとした時に、我々の日常生活の中ではいつでもピアノを解体できる環境があるわけではありません。
そこで、そういった機会を探しつつも自宅で専門書を開くわけですが、たいてい一冊では理解できず、分からないところを調べるために他の近しい専門書も手にとることになります。
このようにして、同属の音楽専門書は最低3種類必要になってきます。
ホームポジションに置く専門書を決めておくのはOK。
しかし、それで分からないところが出てきた時に、放置したりまとめサイトで調べたりするのではなく、他の専門書を参照して疑問解決にあたってください。
これは高度なことを理解するために欠かせず、出所を整理した整合性の保った学習のためにも欠かせません。
► B. 音楽専門書の使い方と管理
‣ 7. 積読になっている音楽書籍との付き合い方
買ったはいいものの積読になっている音楽書籍というのは、意外と多くあるのではないでしょうか。
ある程度読んでみて興味を持てなかったものは、正直、無理して読む必要はありません。
一方、明らかにためになると分かっている書籍だけども重い腰が上がらなくて積読になっているものとは、無理のない距離感で付き合っていくといいでしょう。
付き合うポイントはいくつかあります。
まずはとにかく、出したままにすることです。
積読という出したままではなく、すぐに手に取れる状態でつまり、積んでいない状態で出したままにしてください。
家での自分の定位置から手を伸ばすだけで届く位置へ置くのがコツです。
まずは、これが出発点ですね。
もうひとつのポイントとしては、読み進め方を細部化することです。
内容が専門的であればあるほど、一気に全て理解しようとすると本当に気が遠くなります。
ビニールの封がついているものであれば、「今日は、封を開ける」ここからでも構いません。
また、その次は「序文を読む、目次に目を通す」これだけでも構いません。
とりあえず、毎日何か一つでも、ほんの少しの量でも前へ進めることを目指しましょう。
少しでもいいので、その代わり下手に日を空けずに毎日取り組んでみてください。
この2点を実行すれば、積読のタワーも少しは低くなるでしょう。
‣ 8. 良書は枕元へ置いたままにする
自分にとっての良書が見つかった時は、枕元へ置いたままにしてください。
「枕元」というのは比喩でして、自分にとっての枕元のようなポジションのこと。つまり、手を伸ばせば届くような近い位置へ常に置いておき、手足にするのです。
見えないところへ追いやってしまうと、途端に存在を忘れてしまいます。
教材でも浄書ソフトウェアでも何でもそうですが、いつも身につけているというのは大きい。いつも身につけて枕元のようなポジションへ置いて使い倒すことで、手足になってくれます。
‣ 9. 音楽書籍を手に取るときには期待を持つ
音楽書籍を手に取るときにすべきなのは、「何を期待してその音楽書籍を開くのか」という観点をある程度もってから開くということ。
・想像していなかった内容だったけど、自分に合っていた
・色々と余計な周辺情報がくっついてきて、そこから多くを学んだ
などといったケースはあるでしょう。
こういった思いがけない収穫は歓迎すべきですが、原則、読む目的や期待をもってから開くべきです。
そうすることで、書籍に書かれているその目的や期待に近しい情報を読み飛ばさずにきちんと拾えるようになります。
「欲しい情報を拾うためには、その内容を意識してから読む」
これを徹底するだけで、吸収できる内容が急激に増えるはずです。
それに、期待する内容をもってから読むことで、トンチンカンなレビューをしなくなります。
よく、商品レビューなどを見ていると:
・商品名や解説に「上級」と書いてあるのに「難し過ぎます」などとついていたり
・「入門」と書いてあるのに「簡単すぎて何の勉強にもなりませんでした」などとついていたり
などと、目を疑いたくなるようなレビューが散見されます。
商品説明を読んで、それに対する期待を持ってから読めば、意地悪でもしない限り、こういった感想が出てくることはありません。
期待の持ち方:
・本のタイトルと著者について調べたか
・本の目的と自分の目的が一致しているか
・本の目次をざっと確認したか
・自分が特に学びたい内容は何か明確にしたか
・レビューや書評を読んだか
・集中できる読書環境が整ったか
‣ 10. 人によって、大事だと思う部分や心に響く部分は違う
最近では「要約レビュー」「要約動画」なども数多く存在し、書籍内容を簡潔に学ぶことができます。音楽関連のものも多く取り上げられています。
しかし、ここで強調したいのは、「要約で満足せずに、ピンときたものには直接目を通すべき」ということ。
筆者自身、中古で音楽書籍を手に入れることもあるのですが、時々「マーカーが引かれた古本」に出会います。前に読んだ読者が勉強した跡ということですね。
ところが:
・「どうしてここに線を引いたのだろう?」
・「どうしてここに線を引かないのだろう?」
などと、筆者が感じる要点とズレていることが多くあるのです。それにより気付かされて勉強させられる部分も大きい。
つまり、当然のことではありますが、人によって大事だと思う部分や心に響く部分は違うということ。
だからこそ、他人が判断した「要約レビュー」「要約動画」で満足せずに、ある程度ピンときたものには目を通すべきなのです。
一般書籍に比べるとピアノ学習書籍の数は限られていますので、それほど時間ロスを気にせず、どんどん手を伸ばしていくくらいの気持ちでいいでしょう。
‣ 11. 難しい専門書にサラッと入門:苦手意識を突破する読み方
「買ったはいいものの、読み始める気になれない書籍」の大半は、読んで学習するためのものではなく、本棚と自分の気持ちを充実させるためのものでしょう。
例えば:
・「この書籍は有名な分析本だから、とりあえず買っておこう」
・「和声はやらないけど、とりあえず3色揃えておこう」
などと、見栄とともに買って本棚へ差し込んだままになっている書籍もあるのではないかと思います。
一方、「一応、学習しようと思って買った」というものへは、どうやったらとっついていくことができるのでしょうか。
以下の3点について解説していきます:
・開かなくても、いつも近くに置いておく
・譜例を用意できないところは無視する
・書籍の内容によっては、辞書的に使うのもアリ
【開かなくても、いつも近くに置いておく】
まずは、開かなくてもいいのでいつも近くに置いておいてください。
音楽書籍に限らず、書籍全般に対して言えることでもあります。
以下のような傾向を耳にすることがあります:
・「いつも放課後に教室で居残り勉強をしていたら、居残りしている別の学生との距離が近くなった」
・「新聞を読んでいる親とスマホをいじっている子供がリビングを共有していたら、距離が近くなった」
同じ空間を共有しているだけで、話すわけではなくても距離が縮まるのです。
書籍に心はありませんが、こちらから親近感がわくことはあります。
書籍を近くに置いておいても、読もうとしなければ結局は読みません。
しかし、いつも目に入るところに居させると、書籍のタイトルくらいは覚えてしまう。カバーの色も覚えてしまう。忘れてしまうくらいであれば、そこからでもいいと思うのです。
子どもの頃、「いつも目の前にあった親の本棚の書籍に、つい手を出す」という経験をしたこともあるのではないでしょうか。
このように、まずは「存在を忘れないよう、目の前に居させる」というところからスタートしてみましょう。
【譜例を用意できないところは無視する】
音楽書籍の場合は、譜例付きで解説が進んでいくタイプのものも見られます。時々、そういった解説内容なのにも関わらず譜例がついていないことも。
自分の楽譜を引っ張り出してくればいいのですが、もしそれも手元になければ、無理して文字だけを読むのではなく無視して飛ばしてください。
映画自体を観ていないのに映画解説を読んで理解しようとしているのと同じで、参照できるものがないと、こういったアプローチの書籍から勉強することはできません。
とりあえず文字だけ追ってみようとすると嫌になり、十中八九挫折してしまいます。
つまり、端から全部読破しようとしないというのがポイント。
【書籍の内容によっては、辞書的に使うのもアリ】
読んでいくのが大変な書籍は、辞書のように使うのも手。
書籍の形態にもよりますが、体系的にまとめられているようなものの場合は有効に取り入れられます。
例えば:
・「数字付低音って何だっけ」と思ったら「和声 理論と実習 Ⅲ」を読む
・「複合3部形式って何だっけ」と思ったら「楽式論」を読む
・「和声短音階って何だっけ」と思ったら「楽典―理論と実習」を読む
などといったように。
「普段は読むわけではないけれど、調べものがある時には必ず使う」というように割り切ってしまうのはどうでしょうか。
辞書だって、調べたいことがあるとき以外は開いて読んだりしませんね。そういう風に使うためのものではないからです。
こういった、分からないことが出てきた時に戻る辞書的な使い方をするためには、「その書籍にどんなことが書かれているのか、項目だけ把握しておく」ということが重要。
もちろん、内容自体を暗記している必要はありません。
「和声 理論と実習 Ⅲ の巻末あたりに、数字付低音の話が書かれていたな」などというように、「どんなことが書かれているのかという、ざっくりした項目」さえおさえておけば、
その書籍は十分に学習の中へ持っていけます。
► C. 音楽専門書を使った勉強法
‣ 12. 音楽学習が苦痛ではなくなる勉強方法
楽器の構造や音楽史などの座学的な音楽学習というのは、あるポイントでハマったら楽しいのですが、そうでないと
人によっては苦痛に感じてしまう場合もあると思います。
そんな時は、以下のように手抜きをしてみましょう。
覚えておいてすぐに引っ張りだせないと不便な知識というものもあります。
しかし、そうでないものも多いので「あれは、どういう意味だっけ?」と思ったら、サッと該当の書籍を開けばいいのです。
iPadなどのタブレットに入っている素材であれば、タグを振って文字検索できるようにしておくのもいいですね。
辞書的なものをiPadへ入れた時は「やっぱりこういうのって、全部暗記するようなものじゃないんだな」と、改めて感じました。
書かれている書籍と書かれているところを覚えておいて、たまに必要になり復習することを繰り返していると、結局、大体は覚えてしまいます。
本当の核になる部分以外は無理に覚えようとせず、辞書的に引けるようにしておく。
このちょっとした手抜き学習で随分気持ちが楽になりますので、やってみてください。
‣ 13. 音楽書籍でのインプットの質を高めるコツ
音楽書籍で学習する時に、インプットの質は少しでも高まった方がいいのは当然ですね。
そのためには大きなポイントがあります。
当たり前のようで意外と見落としがちなのですが、とにかく、写真や図の傍らに書かれているちょっとした説明文をよく読んでください。
「ピアノ・テクニックの基本」ピーター コラッジオ (著)、坂本暁美、坂本示洋 (翻訳) 音楽之友社
という書籍には、鍵盤の上に両手を置いている写真と共に、次のように書いてあります。
(写真3)人さし指と中指を持ち上げた状態の左手と、人さし指だけを持ち上げた状態の右手
(抜粋終わり)
これをよく読まずに白黒の小さな写真をざっと見て判断してしまうと、全く意味を捉え間違える可能性が出てきます。
他のあらゆる写真や図でも同様。
中学生くらいの頃、教科の先生が「とにかく、問題文をよく読みなさい」と言っていましたね。そうしないと、ちょっと時間をかければ分かることでも捉え間違えてしまうから。
それと少し似ていて、写真解説などの読み飛ばしそうなところほどよく読まないといけないのです。
特に楽器演奏やその他音楽全般などの、本来音と共に理解したい内容を書籍で学ぶ場合は、なおさら、写真や図の意味を正しく理解しておく必要があります。
・ピアノ・テクニックの基本 ピーター コラッジオ (著)、坂本暁美、坂本示洋 (翻訳) 音楽之友社
‣ 14. 音楽知識を確実に身につける:効果的な学習と記憶の技術
音楽書籍などで学習している時に:
・「どうも、身につかない」
・「どうも、つまらない」
などと思うことはあるはず。
身につくように音楽知識を貯めていくのにはコツがあります。
原則、興味ある部分から広げていく形で学習してください。
たとえ好きな音楽であっても、その中で興味を持てない分野はありますよね。
そういったものに対峙しても結局ほとんど忘れますし、やっていて辛いはずです。
「後々、何かのきっかけでその分野にも興味を持てればいいや」くらいの気楽さで、興味ある分野から攻めましょう。
そうすると、その分野に詳しくなるだけでなく、余分な知識やらがたくさんくっついてきてそこから広げていくことができます。興味ある分野にくっていているので、記憶に残ってくれます。
では、具体的にどうやればいいのかというと:
・興味ある専門家のアカウントに張りつく
・興味ある分野の書籍に絞ったうえで、古本も含めてひたすら集めガンガン読み漁る
原則、狭く深く。そして、その中でくっついてきた知識で広く浅く広げるイメージを持つ。
幅を広げるのはこの時。無闇に拡大しても意味ありません。
これが「身につく、音楽知識の貯め方」です。一点集中型のやり方とも言えますね。
‣ 15. 読めそうなところだけ読んでいても何も変わらない
小学生の頃、「ピアニストへの基礎―ピアノの詩人になるために 田村 安佐子 著(筑摩書房)」という書籍が実家にありました。
この書籍には具体的なテクニックや練習方法が書いてあるのですが、当時のことを思えば「終章 しあげはバッハで」という、練習方法が書かれてあるところしか読んでいませんでした。
小学生が独学で学習できることもある程度は限られるかもしれませんが、それにしても、座り方や腕の使い方などの実践を伴う部分は一度たりとも読みもしていなかったのです。興味を持とうともしていませんでした。
全体をざっと見て面倒な実践を伴わずに具体的なことを言ってくれているところのみ拾い読みして、すぐに積読にしてしまった。
後年になってから読み直してこの書籍から恩恵を受けましたが、当時は手に取った効果を感じる前に読むのを辞めてしまったのです。
結局のところ、「読めそうなところだけ読んでも、ほとんど何も変わらない」ということが分かったので、今では読み方に気をつけています。
大人の学習者であれば、じっくり考えて試して理解しながら読み進めていくことができます。
読めそうなところを読んで、その中でも覚えられそうなところだけを覚えたり身につけて…というのは、ちょっともったいない学習方法。
全ての書籍を真面目に読もうとしたらいくら時間があっても足りませんし、もしつまらない書籍に出会ったときは読むのを辞めてしまってもいいわけです。
しかし、筆者自身の経験からも雰囲気だけで切り捨ててしまうのは時期尚早だと言えるでしょう。
せめて頭半分くらいは突っ込んでみましょう。
・ピアニストへの基礎―ピアノの詩人になるために 田村 安佐子 著(筑摩書房)
‣ 16. 分厚い音楽書籍を挫折せずに読む戦略
音楽史の中でもピアノ音楽史に特化して書かれている書籍は、少なくとも日本語訳されて出回っているものは多くありません。
「鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.Kirby 訳 : 千蔵八郎 / 全音楽譜出版社」は分厚く、読むのに根気こそ要りますが、ガッツリ本腰入れて徹底的に学習したい場合には非常に有益な参考書となっています。
・鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.Kirby 訳 : 千蔵八郎 / 全音楽譜出版社
このような専門的な分厚い書籍を読み辞めないポイントでまず一番大事なのは、真正面からぶつからないことです。
歴史を古い方からたどっていく進み方になっているのですが、J.S.バッハの話へたどり着くまでに172ページもあります。
おそらく多くの方にとって一番馴染みが薄いのは、この172ページ分の歴史ではないでしょうか。
音楽史の学習では内容が頭の中で時系列に並んでいることが大切で、それがあるからこそ、後の時代のことがより深く理解できます。
しかし、はじめて取り組む時は、一旦別のアプローチをしてみてもいいと考えています。
具体的に何をやるかというと、次の5ステップ:
① 804ページ全体をペラペラめくって、ざっくりと内容を把握する
② 好きな作曲家の項目だけをいくつか読む
③ J.S.バッハから最後までを丁寧に読む
④ 最初からJ.S.バッハまでの172ページを丁寧に読む
⑤ 時系列を把握するつもりで、全ページをざっくりと復習する
【① 804ページ全体をペラペラめくって、ざっくりと内容を把握する】
まずは、「見開き2ページを、それぞれ3秒ずつ見たらめくる」くらいの雑さでパラパラとめくっていきましょう。
20分程度で最後まで目を通せます。
この時には、文字や譜例の景色を見ながら、何となくどんな話題が扱われているのかを把握する程度で十分。例えば:
・「ハイドンの時代に入ってきたな」
・「シューマンの性格的小品の話をしているな」
・「ショパンの項目は、やっぱり長いな」
など、何でもいいのであれこれ感じながら眺めていきます。
そうすると:
・どこにどんな内容が書かれていて
・ショパンの時代はこの書籍の丁度真ん中あたりに書かれていて
・知っている譜例がどれくらいあって
などといったざっくりしたことが把握できる。
これだけで、この書籍における流れがつかめて今後の学習がずっとスムーズになるのです。
【② 好きな作曲家の項目だけをいくつか読む】
まだ、はじから読むことはしません。
続いて、好きな作曲家の部分のみを読んでください。
例えば筆者であれば、新ウィーン楽派の3人をはじめ、シューベルト、フランスの何人かは非常に好きなので、そのあたりからあたっていくでしょう。
このようにすることで単純に楽しく読み進めることができますし、「書籍の著者の言い回しに慣れてくる」という利点もあります。
現時点ではあまり興味のない内容もこの後読んでいくことになるので、著者のテンポと言いますか、言い回しに慣れておくと、今後の学習ハードルが下がります。
他の書籍を読む場合は、「好きな作曲家の項目」ではなく「目次をながめて読みたいと思った項目」に目を通せばいいでしょう。
一番やって欲しいのはここまでの段階。ここまでで無理してしまうかゆるくやるかで、継続に大きく影響します。上記くらいゆるく楽しくやれれば、③以降にも向かっていけるはず。
【③ J.S.バッハから最後までを丁寧に読む】
いよいよ丁寧に読み込んでいくわけですが、まだ真正面からぶつからないでJ.S.バッハの項目から読み始めてください。
理由は上記の通り。
【④ 最初からJ.S.バッハまでの172ページを丁寧に読む】
ここまでくれば、あとはJ.S.バッハ以前の172ページを残すのみです。…とは言っても、結構ありますね。
しかし、「もうおおむね学習が済んでいる」という事実があるので、この段階での今までの学習を投げ捨ててまでやめることはないでしょう。
そういう状況になってから、J.S.バッハ以前へ戻るのです。
【⑤ 時系列を把握するつもりで、全ページをざっくりと復習する】
繰り返しますが、音楽史の学習では知識が時系列に並んでいることが欠かせません。
ここまでに学習した内容の時系列を把握するようなつもりで、ざっくりと復習しましょう。
分厚い参考書でも、学び方を学んでから向かえば怖くありません。むしろ、学習を楽しく進めることができます。
3日坊主になってしまう一番の理由と学習方法の例をお伝えしました。
どんな書籍へ向かう場合でもいいので、日頃の学習に取り入れてみてください。
・鍵盤音楽の歴史 著 : F.E.Kirby 訳 : 千蔵八郎 / 全音楽譜出版社
‣ 17. 自分がやっている楽器に詳しくなってトガろう
このWebメディアでは、「ピアノの構造」や「ピアノ音楽史」など、直接は演奏や創作に関係 “なさそう” なことにもたくさん触れています。
ではなぜ、実践に活かせなさそうな知識的なことまで紹介しているのかというと、これを今読んでいる読者さんがピアノという楽器を選んだからです。
選んだこの分野にまつわるあらゆることに詳しくなって欲しいからです。
極端な例を挙げます。
「赤門」と言われる門がある、文京区にある名門大学に毎年合格者を出す高校は、各都道府県にいくつもあります。しかし、当然ながらそれらの高校にいる教員の全員がその大学の出身というわけではありません。それにも関わらず、そこを志願する高校生を指導して何名も合格させていきます。
どうしてこんなことができるのかと言えば答えはシンプルで、各教員が、少なくとも自分の専門分野についてだけはとにかくトガッているからです。
必ずしもありとあらゆる教科に精通していなくても:
・物理なら物理のみ
・世界史なら世界史のみ
・現代文なら現代文のみ
自分の専門分野にトガッていれば、そういった人材が集まって学校全体であらゆる教科を高いレベルで指導することができます。
このようなことは、受験以外にも当てはまります。
筆者が指導で行っている音楽学校には作曲の教員だけでも相当数いますが、作曲の中における専門分野がみんなズレています。学校の中での指導方針は同じ方向を向いていても、それぞれの専門分野はみんな全く違う方向を向いている。だからこそ、ひとつの組織の中でそれぞれの役割が生まれるわけです。
2つの極端な例を挙げましたが、
趣味で楽器を練習したり創作したりする場合でも、せっかくであれば自分がやっている分野に詳しくなって欲しい、というのが、本項目で言いたいことです。
► 終わりに
本記事で紹介した内容は、すぐに実践できる具体的な方法ばかりです。今日から少しずつ音楽専門書と向き合い、自分に合った学習スタイルを見つけていってください。
関連内容として、以下の記事も参考にしてください。
【ピアノ】楽曲分析を深める方法:専門書・マスタークラス・研究論文の活用ガイド
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