【ピアノ】楽曲の寝かせ方・寝かせる期間・起こし方
► はじめに
・楽曲を寝かせるときに気をつけるべきことはある?
・寝かせる期間はどれくらいがベスト?
・寝かせておいた曲を起こすときに気をつけるべきことはある?
このような疑問にお答えします。
この記事の結論:
・寝かせる楽曲は、一定以上弾きこんであることが条件
・短期で取り組んでいく作品は「丸1週間」が寝かせ目安
・長い目でみて取り組んでいく作品は「2週間〜長くて1ヶ月」が寝かせ目安
・起こした直後の新鮮味が戻った状態で、改めて丁寧な譜読みから始める
練習している楽曲に関して「寝かせる」という言葉を使うのは、いったん、その楽曲を練習するのをやめることを意味します。
今回は、「楽曲の寝かせ」について丁寧に解説していきます。
► A. 楽曲の寝かせ基本戦略
‣ 1. 楽曲を寝かせる前に知っておくべき重要なポイント
楽曲を寝かせる時は、寝かせる理由をはっきりさせるのが重要です。
「寝かせる」というのは「取り組んでいる楽曲が多過ぎて手一杯だから、その楽曲を中断する」というケースは含まれないと思っていいでしょう。
寝かせる主な理由としては:
① 毎日さらっているけれどイマイチ上達していかないから、一旦寝かせる
② 長い期間さらっていて煮詰まり新鮮味が薄れてきたから、一旦寝かせる
③ 本番で弾き終わったけど、同じ曲を次の本番で弾くのはまだ先だから、一旦寝かせる
などといった例。
筆者自身もそうなのですが、特に①②の時に寝かせるケースが多いようです。
寝かせることで技術が上がるわけでも、音楽的な感覚が身につくわけでもありません。
しかし、一旦距離を置くことで:
・心の持ち方を変えたり
・新鮮味を取り戻せる
というのは大きな利点です。
「寝かせる楽曲は、一定以上弾きこんであること」を前提としてください。そうでないと、起こした時に「ほぼイチの状態」からスタートすることになるためです。
少なくとも概ねスラスラ弾けるくらいまでにはなっていないと、寝かせる意味があまりありません。
「寝かせ」というのは、ただの「取り組み中止」ではないのです。
‣ 2. 効果的な寝かせ期間の決め方と注意点
寝かせる期間は「本番の時期」などにも影響されるので、正直のところケースバイケース。
目安としては:
・短期で取り組んでいく作品の場合は「丸1週間」
・長い目でみて取り組んでいく作品の場合は「2週間〜長くて1ヶ月」
これくらいをみておくといいでしょう。
長い時間をかけて取り組んできた作品ほど、長めに寝かせてみるというのも、一つの指標になります。
こういったことを何度かしているうちに、自身に合ったペースがつかめてくるはずです。
「気持ち的に、その楽曲に対して新鮮味が戻ってくる」のを再開のきっかけにするのもアリ。
また、言うまでもないことですが、同じ楽曲を再び本番にあげる必要がある場合は、自身の技量を考えて「弾きこんだ後に、再び暗譜まで戻せる期間」を想定して長さを決定しましょう。
► B. 楽曲再開のための実践的アプローチ
‣ 3. 寝かせた楽曲を再開する際の実践的アプローチ
寝かせた理由にもよりますが、一番重要なのは「ただ単に何となく再開しない」ということ。
「寝かせる楽曲はある一定以上弾きこんでいないと、起こした後、ほぼイチの状態からスタートすることになる」と書きました。
一方、よく弾きこんである作品というのは、「ただ単に何となく再開すると、寝かせる前そっくりそのままに戻る可能性がある」のが現実。
もちろん良さもあるのですが、せっかくであれば、何か一つでも新たな表現を見つけたいですね。
そこで、起こした直後の ”新鮮味が戻った状態” で、改めて丁寧な譜読みから始めるのをおすすめします。
忘れてしまったから譜読みからやらないといけないのではなく、あえて意識してその段階から再開することに意味があるのです。
「以前は ”分かったつもり” で弾きこんでいて気づかなかった隠された表現」などは、新たな気持ちで腰を据えて楽譜を読んでいる時にこそ発見できるもの。
一旦弾きこみへ入ってしまうと、「得るもの」と同じくらい「見落としたり忘れてしまったりする要素」があるのは、筆者自身も経験しています。
すぐに本番があるのでなければ、寝かせておいた楽曲を起こした時には、一度、書き込みを無視するくらいの気持ちで向かってもいいでしょう。
筆者は「運指」のみ書き込みメモを参考にして、あとは無視するやり方をとっています。
こういった過程は、決して「遠回り」とも「回り道」とも言いません。長く付き合っていきたい楽曲こそ、このように少しづつ育てていくのはどうでしょうか。
また、再度手をつける時は、以下のようなことも意識しましょう:
・新たな目標を決めたうえで着手
例:その楽曲を、復活させようと思った目的以外の大切な本番にも使ってみる
・楽曲の弾き方自体にも、新たなアプローチを取り入れる
例:初めて取り入れるテンポを試してみる
以前とは異なるやり方を試しながら再学習することで、新鮮味を保って進めることができます。
‣ 4. 寝かせ過ぎていた作品を学び直そう
後に音大入試対策も兼ねて習うことになる先生のところへ初めて行った時、筆者は以下のようなことを言われました。
唖然としたのを覚えています。
筆者にとっては、「とっくの前に通り過ぎた楽曲」としての位置付けになってしまっていた楽曲だったから。
とうとう、「この曲はいつまでやりますか?」ときいてしまったところ、「ピアノを弾いている限り、一生だよ」と返されたのです。
実際にレッスンでみて頂くのは数回のみでしたが、この意味を理解したので、トルコ行進曲は今でも筆者のレパートリーになっています。
ここで考えて欲しいのは、「一度取り組んだ楽曲を学び直すことの重要性」について。
例えば、トルコ行進曲を弾ける方は多くいますが、本当に音楽的に弾ける方となると限られてきます。プロが弾いたそれはものすごく音楽的ですね。
「”余裕を持って弾ける” という段階に達した楽曲を、いかに音楽的に仕上げるか」という視点は欠かせません。
寝かせ過ぎていた、コレ!と思う珠玉のピースは、上達した今の段階でもう一度学び直してみると良いでしょう。
過去に学んだ楽曲でも、目の前の新しい楽曲に取り組むことと同じくらいたくさんの発見が出てくるはず。自分自身が当時より成長しているからです。
► 終わりに
楽曲の「寝かせ」は、単なる中断ではなく、音楽的成長のための戦略的なアプローチです。
長い音楽人生において、一度学んだ楽曲は常に学び直しの対象となります。今回取り上げた方法を参考に、より深い音楽表現を追求してください。
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