【ピアノ】演奏におけるフレージングの深い理解と実践テクニック
► はじめに
ピアノ演奏において、単に音符を正確に弾くことと、音楽性豊かに表現することは全く異なります。その音楽性を左右する最も重要な要素の一つが「フレージング」です。
本記事では、フレージングの理解と実践的な方法について、具体的な譜例を交えながら解説します。
► A. フレージングの基本理論
‣ 1. なぜ、フレーズ終わりはおさめるのが原則なのか
「フレーズ終わりの音は大きくならないようにおさめる」
これは、音楽表現の基本。
ではなぜ、このようにすべきなのでしょうか。
音楽では「フレーズのスラー」や「休符」でフレーズが示されます。
スタッカートなどが中心の場合は、「動機がどのように集まって区切りをつくっているのか」などを参考にフレーズを見分けることができます。
これは、文章の組み立てに例えることも可能。文章では、句読点によって意味を区切ったり段落感をつけたりします。
つまり、音楽でいうフレーズ終わりは文章でいう句読点の直前であると考えることもできます。
不自然ですね。句読点の直前を強調してしまうと、このように尻もちをついたような、または、怒っているような印象になってしまいます。
一方、
というように強調する場所によっては、その話し方で何を強調したいのかを印象付けることができます。
その強調しても問題ないところが句読点の直前ではないということ。
音楽でフレーズ終わりをおさめるべきなのは、このような理由から。
一種の効果を狙ってフレーズ終わりの音にアクセントが書かれているケースもありますが、原則は「おさめる」です。
口で歌ってみると自然とそのように歌っているはず。ピアノという楽器を通しても適切なフレーズ表現の感覚を忘れないようにしましょう。
「一種の効果を狙ってフレーズ終わりの音にアクセントが書かれているケース」の例を挙げておきます。
ベートーヴェン「ピアノソナタ第2番イ長調 作品2-2 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、58-60小節)
sf がついている音に注目してください。
このDis音は「フレーズ終わりのように聴こえる位置にある音」ですが、ベートーヴェンはsf をつけることで、フレーズ終わりがここよりも先に来るように延長しています。
‣ 2.「森を見て木も見る」ことの重要性
ピアノ演奏を含め楽器演奏では、「森を見て木も見る」という視点が重要です。
例えば、4小節を一息で演奏するメロディがあったら、「数音単位での細かいニュアンスは考えても、4小節を大きくひとつでとるという視点を忘れない」ということ。
自分の中で意識があるかどうかで、出てくる音に大きな違いがあります。
「森(大きなフレーズ)」だけ見ていると細部のバランスがとれずに荒削りになりますし、「木(数音単位での細かいニュアンス)」だけ見ているとフレーズが細切れになって音楽が流れません。
ピアノという楽器は、音が減衰することもあって、フレーズが切れてしまっているかどうかに意外と気づきにくい傾向があります。
ある程度弾ける方の中にもフレーズの短さが課題となっている学習者が多いのは、こういったことも理由のひとつなのでしょう。
まずは、自分の中で意識を持てるかどうかが大きなポイントです。
特に注意が必要なのは、「ゆっくり練習(拡大練習)」をする時。
ゆっくり練習というのは非常に重要な練習ではあるのですが、どうしてもフレーズが短くなってしまいがち。つまり、「森を見ずに木だけ見る」という状態になってしまいやすい。
その結果、それがクセになってしまうと、テンポを上げたときにマイナスになってしまいます。
ゆっくり練習をする時も:
・音楽の横への流れを意識すること
・フレーズの長さを意識すること
これらを忘れてはいけません。
► B. フレーズ判断の技術
‣ 3. フレージングはスラーで記譜されていないケースも多い
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第2楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、2-4小節)
カギマークで示した部分が一つのフレーズですが、その中に点線スラーで示したような細かなフレーズがあります。
もっと大きな視点で言えば、曲頭から譜例のカギマークの終わりまでをワンフレーズととることもできます。
何を言いたいのかというと、フレージングはスラーで記譜されていないケースが多く、作曲家が少し書き残したガイドのようなスラーと自分の分析眼を頼りに演奏者自身が読み取っていかなければいけないということ。
「大きなフレーズの中に細かな表現が入っている」と考えるといいでしょう。
特に、フレーズがもっと長い場合には、それ全体にスラーがかかっているケースはさらに珍しいものとなります。
‣ 4. スラー以外を参考にフレーズの長さを見抜く方法
スラーがフレーズの長さを示しているケースもありますが、そうでない場合も多々あり、悩むことも多いのではないでしょうか。
スラー以外を参考にフレーズの長さを見抜く方法について見ていきます。
モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.333 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
素材の繰り返しを見てカギマークで4つの部分に分けましたが、大きな意味でのフレーズは長く、曲頭から4つ目のカギマークの終わりまで。
何を参考に判断しているのかというと「メロディの音価」です:
・1〜3回目までは付点4分音符で次へつなげていて
・4回目のみ「4分音符+8分休符」で区切りをつけている
これらを参考にすると、「4分音符+8分休符」のところまでは1回1回終わらせた印象にならずに大きな流れをもって弾くべきだと判断できますね。
力のある作曲家が書いた作品の場合は、こういった細かなところからも求められている音楽を読み取ることができるのです。
‣ 5. 隠れフレーズを見抜いて、演奏へ活かす
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第2楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、2-4小節)
譜例の①と②の部分では共にG音のメロディになっていますが、どちらにより重みを入れて演奏するべきだと思いますか。
楽曲の成り立ちから考えると、②の方により重みを入れるべきでしょう。
クレッシェンドが書かれているので普通に考えればそうなりますが、仮にクレッシェンドが書かれていなくても②の方により重みが入ります。
その読み取りのポイントは、隠れフレーズを見抜くこと。
ここでのメロディには、点線スラーで示したようなフレーズが隠されています。
①のメロディ部分は、前からのフレーズの終わりの音。②のメロディ部分は、直後のメロディG音をタイで先取りしていることから分かるように、次のフレーズ始まりの音。
このように見抜くことが出来れば:
・①は、フレーズ終わりなので大きくならないようにおさめるべき
・②は、先取りなので深い音を出すべき
ということが分かります。
もちろん、点線スラーは楽曲の構造を示すために補足しただけなので「レガートにする」という意味でのスラーだとは思わないでください。
このように、楽譜上にスラーで示されていなくても隠れフレーズというものが存在しているケースが多いので、それを見抜くことで演奏へ活かすことができます。
‣ 6. ある音を、前と後ろのどちらのフレーズへ付けるか①
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第2楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、3-4小節)
メロディラインを見てください。
丸印で示したF音は、スラーから判断すると前のフレーズへつける音。
しかし、前のフレーズが4分音符E音で終わり、次のフレーズが丸印F音から始まっているかのような演奏を耳にすることがあります。
そのように聴こえてしまう理由は、丸印で示したF音が大きいからです。「弾く」というよりは「触るだけ」というイメージで4分音符のE音を解決してあげましょう。
後ろの32分音符のグループにつけてしまうと、音楽の意味が変わってしまいます。
この例のように、ある音を、前と後ろのどちらのフレーズへつけるかの判断を間違えやすいところは意外と多いので、注意して譜読みしましょう。
当然、どちらともとり得る例もありますので、次の項目で解説します。
‣ 7. ある音を、前と後ろのどちらのフレーズへ付けるか②
「音域とダイナミクスのどちらを参考に構成を考えるか」という視点で、以下の譜例を見てみましょう。
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第2楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、12-13小節)
13小節目の p の書いてある位置に注目してください。
この p を「12小節目最後の、メロディA音から」とみなして演奏しているピアニストも多い。
連桁の分断のされ方やメロディの音域を考えるとそのようにもとれますが、
ダイナミクスの位置を重視して楽曲の成り立ちを捉えてみると、カギマークで示したところまでをひとつとして見ることもできます。
つまり:
・点線で区切ったところまでは一息で演奏して
・小節のつなぎ目のメロディA音とG音は前のグループへつける
ということ。ダイナミクスによる手がかりを重視した解釈。
(再掲)
具体的には:
・メロディが跳躍するところの32分休符では余計な時間を使わず、13小節目へ一気に入ってしまう
・点線で示した部分でわずかに時間を使う
・フレーズを改めて音型を折り返していく
このようにすることで、左手の16分音符も変なところでギクシャクせずに済みます。
小節頭へ入ってしまってからであれば前のフレーズのおさめどころとして聴けるので、わずかな時間を使っても右手パート、左手パートともに音楽的に不自然には聴こえません。
‣ 8. 多様なフレーズ解釈の可能性
モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、24-27小節)
まずは、左側の原曲の譜例を見て下さい。
ここでは、以下のふた通りのどちらも可能です:
・点線カギマークで示したように、1小節単位で考えて1×4で解釈する
・実線カギマークで示したように、2小節単位で考えて2×2で解釈する
メロディラインの運動を考えると、右側の譜例で示したような「2小節ひとかたまりの下降するメロディライン」が装飾されているだけだと分かるので、2×2でとることもできるわけです。
1小節ごと「問いかけ→応答 問いかけ→応答」のように、「問いかけ→応答」というワンセットが2回繰り返されていると考えるのもアリでしょう。
このような何パターンかのグルーピングに解釈できるフレーズでは、どのように捉えるのかによって、当然、出てくるニュアンスも変わります。
‣ 9. フレーズ分割を感覚ではなく論理的に捉える
ラヴェル「クープランの墓 より メヌエット」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
ここでは、カギマークで示したように、4小節の小楽節が「1+3」に区切られています(ピアノ版では)。
メロディラインのフレージングを見れば明らかですが、「2+2でとりそうになっていた」もしくは「とっていた」「聴いていた」という方もいるのではないでしょうか。
それでは音楽の意味が変わってしまいます。
リズムや音程以外のことは意外といい加減になりがちなのが、呼吸を止めていても弾けてしまうピアノ演奏で気をつけなければいけない部分。
反対に、呼吸を直接ともなう管楽器でこのメロディを演奏する場合、「1+3」でしかとりようがないのです。
とにかく、フレーズの分割を勘に頼らないようにしましょう。
(再掲)
2-4小節のフレーズのヤマは3小節目の頭なので、上段における2小節目から3小節目へのつながりを強く意識すべき。そうすることで、「1+3」の「3」を表現できます。
この楽曲では、全てのところが「1+3」進んでいくわけではありません。
共通している部分は出てきながらもその都度、表現が変わっていくので、フレーズ分割のとり方をよく把握して間違えないように譜読みしましょう。
► C. フレーズ表現の実践的テクニック
‣ 10. フレーズはダイナミクスを通じて強く認識される
フレーズをブツ切れにしないためには:
・レガートのフレーズであれば、本当に音が途切れないようにすること
・フレーズを横へグーっと引っ張っていく意識を持つこと
・頭を振ってカウントをとらないこと
これらのようなことに気をつけて長いフレーズを表現したうえで、さらに、そのフレーズをひとつにまとめることができるのが理想です。
フレーズをひとつにまとめる方法はシンプル。
そのフレーズの中でのヤマやフレーズ終わりのおさめるところをきちんと表現して、ニュアンスの輪郭を形作ってあげること。
このような細かな部分が表現されてはじめて、一つのフレーズがどこからどこまでであり、それがどういう音楽なのかが分かるわけです。
「フレーズは強弱で認識される側面も強い」ということを覚えておきましょう。
だからこそ、アクセントが一つのフレーズ中にある場合は、唐突に強調した結果、フレーズが分断されてしまわないように注意する必要があります。
強調はそのフレーズの中での出来事にするのを前提としてください。
‣ 11. 小節単位ではなく大きな音楽の流れを意識する
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
この譜例に限りませんが、譜読みするときにどうしても1小節ずつの表現ばかりへ気を向けがちです。細部の表現も大切ですが、少なくともここでの演奏では8小節を大きくひとつへまとめることを忘れずに。
そうでないと「ひとつひとつひとつ」になってしまい、細部は美しいのに音楽が細切れで流れない、という演奏になってしまいます。
・音楽をグーっと横へ引っ張る意識をもつこと
・首を振ったりと、身体の動きがひとつひとつひとつ、にならないこと
これらの点に注意して練習すると改善されます。
また、「楽譜を見ながらメロディを口で歌ってみる」という方法も有効です。
声というのは音を減衰させずに伸ばせるので、きちんと意識さえすれば、ピアノよりもフレーズを長く取りやすいから。
歌ってみると、不思議とそこがまとまりのあるものとして感じられるので、ピアノを弾いているときとは別の感覚でフレーズを捉えることができます。
その感覚を覚えておいてピアノへ向かってみると、ピアノという楽器を通してもフレーズに対する感覚が変わっていることに気づくことでしょう。
「息が短く、フレーズのとり方が短い」というのは、自分でしつこいくらい意識して改善しないと、どんなにその他の学習が進んでもずっと残ります。
楽曲のレベルという意味ではかなりの難曲を弾いている方でも、気付いていなかったり意識していないことでこの欠点が残っているケースは少なくありません。
これは、弾き込みの時のみでなく譜読み段階から意識することで、はじめて、身につけることができます。
‣ 12. 和音・オクターブ奏法におけるフレーズ維持①
プロコフィエフ「ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品1」
譜例(PD作品、Finaleで作成、16-17小節)
16小節目からは、右手で演奏するメロディを含む和音が重厚になります。
このような和音演奏になった途端に、フレーズ感がなくなって音楽が縦割りになってしまうケースは多く見受けられます。
プロコフィエフはフレーズを示す書き込みはしていませんが、こういったところはカッコ付きスラーで補足したように大きなフレーズ感をもって演奏してください。
点線スラーで補足したような細かなフレーズも見えますが、大きく「場面ごとの処理」を心がけた方が音楽が流れるでしょう。
フレーズを細切れにしないポイントは、矢印で示したように、小フレーズの終わりの和音から次の和音へのつながりを意識することです。
小フレーズの終わりの和音を鳴らした途端に安心してはいけません。
‣ 13. 和音・オクターブ奏法におけるフレーズ維持②
リスト「バラード 第2番 S.171 ロ短調」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、199-200小節)
前項目と似たような注意点です。
オクターブの連続を弾くパッセージで陥りがちなのが、フレーズ感がなくなってしまうこと。
テクニカルなことをやり始めると一気に注意が奪われてしまうからでしょう。
オクターブではない通常のパッセージだと考えて、その場合、どのようなフレーズ表現をするか考えてみる。
このようにすると、上手くまとめることができます。
また、「ゆっくり練習(拡大練習)」の時にきちんとフレーズをつくれていること。
これが、フレーズを見失わないためのもう一つのポイントです。
原則、どんなパッセージにも向かう先があるもの。
ただの音の連続になってしまわないよう、弾くのに一生懸命になりがちなパッセージでもフレージングに注意を向けてみてください。
‣ 14. 一瞬の時間でフレーズを改める
プロコフィエフ「ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品1」
譜例(PD作品、Finaleで作成、16-17小節)
25小節目では、小節の途中で新たな場面へと移行します。
ダイナミクスが変わるので場面転換は分かりやすいのですが、それをより明確にするためには時間をうまく使う必要があります。
譜例にVを補足したところで、一瞬の時間をとってください。
やりすぎると音楽が停滞してしまうので、録音して程度をチェックしましょう。
フレーズを改めるところ全てで時間をとる必要はありませんが、このような大きな段落の変わり目では有効に使えるやり方です。
ちなみに、24小節目に rit. が書かれていますがa tempo はどこにも書かれていません。一瞬の時間をとった直後からテンポを戻せばいいでしょう。
‣ 15. フレーズごとの音量変化のテクニック
モーツァルト「ピアノソナタ第14番 K.457 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、17-18小節)
ここでは、スラーで示されているように、数音による短いカタマリでフレーズが連続していきます。
カッコ付きデクレッシェンドの松葉を補足しましたが、このようにワンフレーズごとに消してください。
どうしてかというと、前述したように、フレーズの終わりはおさめるのが原則だからです。
こういったフレーズごとの処理を、参考のデクレッシェンドが書かれていなくても見抜けるようになることが大切です。
楽曲によっては、作曲者がこのようなニュアンスを細かく書いてくれているケースもあります。
その場合は当然、「デクレッシェンドはワンフレーズ単位で」という意味であり、各フレーズの最初ではもとのダイナミクスに戻してください。
全体を通してだんだんと小さくなっていくわけではありません。
‣ 16. 練習段階でのフレーズ表現の探求
モーツァルト「ピアノソナタ第8番 K.310 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、78-79小節)
マークを入れた部分ではフレーズが完全に改まるので、一瞬の時間が欲しいところです。
こういった部分で、練習の初期段階では時間を多めにとって表現してみてください。
「物事の習得のポイントは大げさにやってみること」などと言われますね。「フレーズの改め」はまさにこのやり方が有効。
フレーズ感がないままズルズル先へいってしまわないように、練習初期で何をやるかが大切です。
ちなみに、「時間をとる」という言い方をしましたが、時間というか「呼吸」です。
呼吸が伴わないでガッポリ時間だけを空けても、音楽の流れを止めてしまうだけ。
呼吸、時間の使い方をどうするかというのが、音楽ではものすごく大事です。
大げさめに表現して練習してみるやり方で模索してください。
‣ 17. 休符を挟んだひと繋がりのフレーズに注意
ドビュッシー「子供の領分 1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士」
譜例(PD作品、Finaleで作成、37-39小節)
38-39小節では、手を交差し左手でメロディを演奏します。
ここでの注意点としては、「39小節目の2分休符で分断されてしまわないように注意する」ということ。
矢印で示したように、38小節4拍目の4分音符は、2分休符を挟んだうえでその次の2分音符へと繋がっている音です。
これらの関連性がまったく無くなってしまうと、音楽的に何をやっているのか分からなくなります。
ポイントは、「音色を似せる」ということ。
隣の音同士で音量差があったとしても、音色を揃えることで関連性を持たせることができます。
また、「2分休符の時に、休んだ素振りを見せない」というのも重要。
2分休符へ入った時にほんの少しでも休んだ素振りを見せてしまうと、視覚的に音楽が切れてしまいます。
手をあまり大きく動かさないようにしましょう。
もう一例を挙げておきましょう。
ショパン「ノクターン第13番 op.48-1」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
演奏に関する基本的な注意点は同様です。
‣ 18. フレーズ終わりは音価にも注意
モーツァルト「ピアノソナタ K.545 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
2小節目と4小節目のメロディにつけた丸印の音が、それぞれ、フレーズ終わりの音。
終わりの音は、なぜか短く切ってしまう演奏が多いようです。
しかし、モーツァルトはなぜ4分音符で書いたのかを考えてみなくてはいけません。8分音符の長さでいいのであれば、8分音符で書いたはず。
余韻も含めて4分音符分の長さになるようにするのはOKですが、音価が半分になるほど短くなっては音楽が変わってしまいます。
どうして音価が大切なのかというと、音価が変わると音の切れる位置が変わり、その結果、直後の休符の始まる位置までもが変わってくるからです。
‣ 19. フレーズ終わりを言い切ったようにしないコツ
音楽でも文章でいう感嘆符(!)を思わせる表現が当然のように用いられます。
例えば、以下のような例。
ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 月光 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲尾)
明らかに感嘆符がついて言い切っているようですね。
では、疑問符(?)はどうでしょうか。これも当然のように用いられます。
例えば、以下のような例。
モーツァルト「ピアノソナタ第14番 K.457 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、35-39小節目)
これは、分かりやすい形で「問いかけ」と「応答」になっています。問いかけの2小節が「?」でまとめられていますね。
もう一例見てみましょう。
ショパン「スケルツォ第2番変ロ短調 作品31」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
譜例の一番最後を見てください。
ここでは強いダイナミクスで発言されるので、感嘆符(!)で終わっていると捉える方もいるかもしれませんが、筆者にはどうしても疑問符(?)がついているように感じます。
音楽を読み取った結果、「このフレーズは疑問符(?)で終わっている」と感じた場合は、それを音として表現したいところ。
フレーズが完全に終わったかのように言い切った雰囲気を出してしまっては台無しです。「!」もしくは「.(ピリオド)」で終わったかのようになってしまうので。
では、どうすればいいのでしょうか。
そのフレーズ終わりでテンポをゆるめなければいいのです。
テンポをゆるめると、途端に段落感がついてしまいます。
実際の会話でも、「私の気持ちがわかりますか?」と投げかけるように言う時は、発言スピードをゆっくりにしていきません。
一方、「あなたの気持ち、よく分かりました。」と言う時には、うなずきながら、噛みしめながら、ゆっくりにしながら言い切ってもおかしくありません。
フレーズ表現でも結局はこれと同様だと考えてください。
‣ 20. フレーズ終わりの「付加」はさりげなく
ショパン「ノクターン(夜想曲)第8番 変ニ長調 作品27-2」
譜例(PD作品、Finaleで作成、2-9小節)
9小節目のカギマークのところに注目してください。
32分音符で付け加えられたように装飾されます。
こういったフレーズ終わりの付加は、大きくならないようにさりげなく。
目立ってしまうと尻もちをついたような表現になってしまいます。強い表現を作曲家が指示しているのであれば話は別ですが、ここはそうではありません。
もっとはっきりと「付加」だと分かる例があります。
ショパン「幻想即興曲」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、51-58小節)
57小節1拍目でフレーズが終わったかと思いきや、カギマークの部分が付け加えられて、延長しています。
こういった場合も、付加部分は大きくならないように、さりげなく通り過ぎてください。
「フレーズ終わりの付加」は探してみると驚くほどたくさんの作品に出てきます。
いずれも、そのフレーズを終わらせるにあたってどのような表現がふさわしいのかを考えたうえで演奏しましょう。
► 終わりに
フレージングの理解と表現は、音楽を深く掘り下げるための重要な要素です。フレージングに関する理解を深めるためには、実際に演奏する際に意識し、練習の中で試行錯誤することが欠かせません。
音楽におけるフレージングをより深く学ぶための参考書として、以下をおすすめします。
・フレージングとアーティキュレーション―生きた演奏のための基礎文法 著 : ヘルマン・ケラー 訳 : 植村耕三、福田達夫 / 音楽之友社
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