【ピアノ】クロスリズムの理解と実践:3:2 5:2 7:2のリズムを習得する
► はじめに
ピアノ演奏において、異なるリズムを両手で同時に演奏することは多くの学習者にとって挑戦的な課題。
特に、3:2、5:2、7:2のようなクロスリズムは、初心者から中級者にとって難しいテクニックとして知られています。
本記事では、これらのリズムの基本的な理解と、効果的な練習方法、さらには作曲家がこのような複雑なリズムを使用する意図について詳しく解説します。
► クロスリズムの理解と練習法
‣ 3:2 5:2 7:2の演奏方法
左手で弾く音と右手で弾く音が「偶数 : 偶数」であればリズム的には演奏問題は生じませんが、片方が奇数になった途端に、初心者〜中級者を悩ませることになります。
ただし、それらの中でも3:2 5:2 7:2のリズムは分割さえ理解してしまえば難しくありません。
譜例(Finaleで作成)
2の方のふたつ目の音符を、3の方のふたつ目と三つ目の丁度真ん中へ入れます。
2の方のふたつ目の音符を、5の方の三つ目と四つ目の丁度真ん中へ入れます。
2の方のふたつ目の音符を、7の方の四つ目と五つ目の丁度真ん中へ入れます。
実際の演奏において多少の自由はありますが、ソルフェージュ的には「丁度真ん中」という点が演奏しやすくしてくれています。
例えば、ショパン「幻想即興曲」などに出てくる「4:3(8:6)」の場合、噛み合わない各音符はもう一方の手で演奏する音符同士の丁度t真ん中に入るわけではありません。
したがって、ピアニスト10人にやり方をきいても、10人が「適当に弾いている」と答えるはずです。
一方、今回取り上げた3つのリズムは、割り算をするとそれぞれ1.5 2.5 3.5というように「◯.5」になるため、丁度真ん中へ入れることができます。
‣ 3:2(2:3)の練習方法
譜例は「8分音符単位」で作っていますが、4分音符単位などでも基本的な考え方は同様です。
また、実際の楽曲では右手の方に3のリズムがくるというように、左右の手の役割が逆になっている作品もありますが、やはり基本的な考え方は同様です。
譜例1(Finaleで作成)
演奏の仕方には大きく2つあります:
・3の方の手を一番意識して、そこに2を乗せる
・2の方の手を一番意識して、そこに3を乗せる
このどちらかの方法をとるしかありません。
「3の方の手を一番意識して、そこに2を乗せる」というやり方をする方がやりやすいという方が圧倒的多数に感じます。
つまり、この譜例で言うと「左手の3を意識し、点線の位置に右手の2つ目を音を入れる」と考えながら弾くということです。
まずは、かなりゆっくりのテンポで練習してみましょう。
「右手の2を省いて、左手の3だけで繰り返し弾いておく。そして、3を確実に意識できるようになってから右手を乗せる」
というステップを踏むのが効果的です。
はじめのうちはぎこちなくなってしまうかもしれませんが、慣れればまったく怖くありません。
今回の譜例のようなシンプルなもので練習してリズムをカラダへ入れてから、実際の楽曲へ向かってみましょう。
ちなみに、「2の方の手を一番意識して、そこに3を乗せる」というやり方をとることも可能ではありますが、
その場合は、以下の譜例のように頭を働かせる必要が出てきます。
譜例2(Finaleで作成)
左手の3を細かく分割し、タイで結んでいるように想定しながら右手と合わせていく必要があります。先ほどの逆の例の方がずっと簡単ですね。
‣ 3:2(2:3)のリズムを上手く聴かせるコツ
ベートーヴェン「ピアノソナタ第10番 ト長調 作品14-2 第1楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、81-84小節)
右手と左手との組み合わせに「3:2(2:3)」のリズムが混ざってきます。
「3:2に突入したら、気付かれない程度でほんの少しだけテンポを上げる」という方法を試してみましょう。
流れが良くなったように聴こえるのです。
荒技的ですが、流れの改善のためにはとても効果的。
この楽曲のように、「そこまでは3:2ではない部分が続いていて、急に3:2が始まる」という箇所で特に有効に使える方法です。
「3:2(2:3)」のセクションが終わったら、さりげなくテンポを戻しましょう。
他の楽曲でも、プロコフィエフ「ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品1」をはじめ、数多くの作品で応用できます。
‣ クロスリズムはあいまいな表現
グリーグ「抒情小品集 第5集 ノクターン op.54-4」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、11-13小節)
初中級くらいから、3:2(2:3)の表現を見かける作品は増えてきますが、こういったリズムを作曲家はどういった時に使うのでしょうか。
様々なケースが考えられますが、最も代表的なのは曖昧さを表現したい時。
3:2(2:3)では両者の発音において噛み合わないところがあるため、ダイレクトな表現を避けることができます。
そういった、「はぐらかされた」ような、一種の曖昧なニュアンスを表現できるのがこのリズムの特徴であり、作曲家の意図である可能性が高いでしょう。
現代作品では、2や3という数字自体に意味をもたせて作品のコンセプトとリズムを関連づけたりと、この要素の用いられ方の幅がさらに多様になります。
「作曲家は、この表現をなぜ使ったのだろうか」
自分なりの予想でも構わないので、こういったことを考えるクセをつけてください。
► 終わりに
クロスリズムの習得は、単なる技術的な挑戦以上の意味を持ち、リズムの微妙な揺らぎや曖昧さは、音楽に奥行きをもたらします。
本記事で紹介した練習方法を通じて、読者の皆さんが自身の演奏に新たな表現の可能性を見出すことができれば幸いです。
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