【ピアノ】J.S.バッハ シンフォニア 第5番 BWV791 全運指付き楽譜と練習のコツ
► はじめに
J.S.バッハ「シンフォニア 第5番 BWV791」は、他の対位法的なシンフォニア作品と比較して、ホモフォニー(主旋律と伴奏)の要素が強く現れた興味深い作品です。
技術的に困難な箇所は少ないものの、バッハ特有の音楽的表現を適切に演奏するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
重要な注意点
「シンフォニア 第5番 BWV791」は、作曲者自身が「装飾音がない楽譜」と「装飾音を付け加えた楽譜」の2種類を残してくれました。本記事では、「装飾音がない楽譜」を前提として解説しています。「装飾音を付け加えた楽譜」については、基本版をマスターした後の発展学習として取り組むことをおすすめします。
► 装飾音について
J.S.バッハが、インヴェンションとシンフォニアについて「作曲への強い興味を起こすことへの指針」と述べていることに注目しましょう。
この作品は、対位法の学習としてだけでなく、装飾音の扱い方という創作的側面も教える教材として機能していました。作曲された当時、演奏家は同時に作曲家でもあるという前提があり、装飾音の扱いは即興的な演奏技術としてはもちろん、創作能力の一部として認識されていたのです。
上記の通り、「シンフォニア 第5番 BWV791」については、作曲者自身が「装飾音がない楽譜」と「装飾音を付け加えた楽譜」の2種類を残してくれており、装飾音学習の貴重な資料となっています。
►「全運指」の解説
この楽曲はパブリックドメインです。運営者が浄書ソフトウェアで作成した楽譜を使用しています。
運指について重要な注意点
この運指は一例です。手の大きさや個人差に合わせて調整してください。また、どのようなアーティキュレーションを付けるのかによっても適切な運指は変わります。お手持ちの楽譜の内容と照らし合わせながら、必要に応じて参考にしてください。
► 具体的な練習のヒント
‣ 適切なテンポ設定
推奨テンポ設定:
練習開始時:♩= 34-40(正確性と安定性重視)
中間段階:♩ = 40-46(表現力の向上期)
目標テンポ:♩ = 48(ヘルマン・ケラー提案)
なぜ、このテンポが適切なのか:
ヘルマン・ケラーが提案する ♩ = 48 は、以下の特徴があります:
・楽曲の落ち着いた性格を表現するのに適した、速過ぎない速度
・ソプラノとアルトのデュエットによる歌唱的表現が活きる速度
ツェルニーは、何と ♩ = 100 を提案し、なおかつフォルテのダイナミクスを要求しています。しかし、楽曲の性格上はケラーの解釈のほうが適しているでしょう。まずは、より一般的なケラーの解釈を踏まえたうえで、他の弾き方を追求してみましょう。
‣ 演奏上の重要なポイント
· ソプラノとアルトのデュエットのバランス
「まずはソプラノから出てきている」という事実を把握しておきましょう。2小節目からデュエットが始まりますが、全部を均等に鳴らすのではなく、それぞれのバランスを意識することが重要です。
基本的にはソプラノがやや大きめに聴こえるようにバランスを取るのが得策ですが、ピアニストの中には、部分的にアルトのほうをより強調した解釈をしている方もいます。このような表現の幅を出せるのが、必ずしも主役が決まっていないデュエットという書法の特徴でもあるので、様々な弾き方を研究してみるといいでしょう。
ケラーはこのデュエットを「新婚の気分」という言葉で表現しています。
· オスティナートの扱い
バスのオスティナート(固執低音)は、同型が反復されるため途中から重くなりがちです。低音部の動きが楽曲の印象を大きく左右し、デュエットが伸びている部分のつなぎの役割も担っています。したがって、右手パートのデュエットと同じくらい重要な要素として、重くならないように演奏しましょう。
左手と右手の受け渡しがスムーズになるよう、両手を合わせて一つの音楽であることを意識して練習することが重要です。
► 終わりに
本記事の内容を参考に「装飾音がない楽譜」で練習した後、将来的には「装飾音を付け加えた楽譜」にも挑戦してみることをおすすめします。「装飾音がない楽譜」をよく理解しておくことで、自由に弾くだけでない、楽曲の骨格を踏まえた意味のある継続学習ができます。
この作品についてさらなる演奏ヒントが必要な方は、以下の解釈版を参考にしてください。
・園田高弘 校訂版 J.S.バッハ シンフォニア BWV787−801
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