【ピアノ】部分転調(調性の拡大)の分析入門
► はじめに
部分転調(調性の拡大)は、頻繁に用いられる重要な作曲技法の一つ。調号を変更するような大規模な転調とは異なり、短時間他の調へ移行する手法を指します。この分析手法を習得することで、以下のような効果が期待できます:
・より複雑な楽曲の構造理解につながる
・和声進行の把握が容易になる
・ピアノ学習者が取り組む作曲・編曲の技術向上に役立つ
本記事では、J.S.バッハの初級~初中級レベルのシンプルな2作品を例に、基本的な部分転調の分析方法を解説します。
► 部分転調を見つけるための基礎知識
分析の手がかり:
1. 臨時記号の出現
・部分転調のサイン:新しい調を示唆する臨時記号
・非和声音のサイン:装飾的な臨時記号(経過音、刺繍音など)
2. 和声進行の特徴
・D(ドミナント)→ T(トニック)の進行
– この進行は調性確立の重要な指標
– 特に完全終止の形で現れる箇所は見落とさない
► 実例による分析
‣ J.S.バッハ「メヌエット BWV Anh.114」の場合
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.114」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
主要な分析情報:
・調性:G-dur(主調)
・転調箇所:20-24小節
・使用される臨時記号:Do♯(Cis音)
詳細分析:
1. 20-24小節の部分転調
・Cis音の出現により、D-durへの転調を示唆
・主要な和声進行:
– 23小節:D-durのドミナント
– 24小節:D-durの一時的なトニック
2. 主調への回帰
・24小節目の後半:C♮(C音)の出現
・機能:D-durのトニックをG-durの属七和音として再解釈
・これにより自然な形で主調へ回帰
‣ J.S.バッハ「メヌエット BWV Anh.115」の場合
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.115」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
今回は、17-32小節に出てくる臨時記号に着目して部分転調を調べてみましょう。
主要な分析情報:
・調性:g-moll(主調)
・ドリア調号:時代特有の記譜法
– 調号はB♭のみ
– Es音は臨時記号で扱う
詳細分析: ※「コードネーム」は英語、それ以外はドイツ音名で表記しています
1. 連続的な部分転調(17-26小節)
・17-20小節:F-dur
– 特徴:新しいセクション(17-32小節)をdurの響きで開始する
– D→T進行:C7→F(コードネーム)
・21-24小節:B-dur
– 特徴:主調の平行調
– D→T進行:F7→B♭(コードネーム)
・25-26小節:c-moll
– 特徴:主調の下属調、短い経過的な転調
– D→T進行:G7→Cm(コードネーム) ※ここではセブンスの音は出て来ません
2. 主調への回帰(27-32小節)
・g-mollへの明確な回帰
・終止形による調性の確立
► 部分転調の分析手順
1. 臨時記号の特定
・楽譜上の臨時記号をマークする
・臨時記号の種類を判別(転調用か非和声音用か)
2. 予想される調性の検討
・臨時記号から想定される調性をリストアップ
・関係調を中心に可能性を検討
3. 和声進行の確認
・D→T進行を探す
・カデンツの位置を確認
4. 調性の確定
・和声進行と臨時記号の整合性を確認
・転調の長さと性質を判断
► 発展的な学習に向けて
本記事で学んだ分析手法は、より複雑な作品の理解にも応用できます。特に以下の作品での実践をおすすめします:
1. ベートーヴェンのソナタ
・より高度な部分転調
・バロック期とは異なる古典派特有の転調手法
2. シューベルトの小品
・ロマン派における部分転調手法
・より自由なそれの使用
3. フォーレの小品
・異名同音部分転調などの多用
・バラの香りが移ろうような絶妙な和声変化
► 終わりに
部分転調の分析は、楽曲構造を理解するうえで重要な技術です。本記事で解説した手法を基礎として、さらに発展的な作品分析にチャレンジしてください。
次のステップとしては:
・様々な時代の作品での転調分析
・転調と楽曲形式の関係の研究
・自身でピアノ音楽を作曲や編曲する際の転調技法の実践
をおすすめします。
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、J.S.バッハ「メヌエット BWV Anh.114・115」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【J.S.バッハ メヌエット BWV Anh.114・115】徹底分析
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