【ピアノ】J.S.バッハの再現に見る巧みな構成分析:長さの工夫を解説
► はじめに
バロック期の楽曲には、形式美と効果的な楽曲構成が随所に見られます。今回は、「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳」から2つの小品を取り上げ、再現における巧みな長さの工夫について分析していきます。
► 実例分析
‣ ポロネーズ BWV Anh.125 の構成的特徴
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 ポロネーズ BWV Anh.125」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
この作品は以下のような構成を持っています:
・Aセクション(1-8小節): 主要主題の提示
・Bセクション(9-16小節): 主題の展開
・経過区(17-20小節): 橋渡し的な役割
・A’セクション(21-24小節): 圧縮された主題の再現
特筆すべき点は、再現(A’セクション)での主題処理です。8小節から4小節に圧縮され、後半部分(5-8小節)のみが使用されています。この工夫により:
・楽曲全体のプロポーションが整う
・聴き手の飽きを防ぐ
・適度な緊張感と期待感が維持される
試しに、1-8小節の全てを反復させて弾いてみてください。楽曲全体の構成バランスが一気に崩れることが分かるでしょう。
例外として、曲の最後にクライマックスを作る場合は、あえて引き伸ばして反復をするケースもあります。しかしその場合は、編曲自体にも手を入れてクライマックス相応の音遣いがされることになります。
‣ メヌエット BWV Anh.116 の構造分析
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.116」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
より大きな規模を持つこの作品では:
・Aセクション(1-16小節): 主題提示
・Bセクション(17-24小節): 主題の対照的な展開
・経過区(25-32小節): 橋渡し的な役割
・A’セクション(33-40小節): 圧縮された主題の再現
ここでも再現部は半分の長さに圧縮されており、16小節から8小節へと巧みにまとめられています。この手法により:
・楽曲全体の均衡が保たれる
・終結部への自然な流れが生まれる
・形式美が保たれつつも、単調さを回避できる
► まとめ
これら2つの作品から、バロック期の作曲家たちが以下のような点に注意を払っていたことが分かります:
・全体の均整を重視した構成
・再現での効果的な圧縮による緊張感の維持
・聴衆の興味を持続させる工夫
・形式美と実用性の両立
特に再現の長さの調整は、単なる技巧的な処理ではなく、楽曲全体の効果を高めるための重要な作曲技法として機能しています。
演奏する際は、これらの構造を意識するようにしましょう。また、作曲や編曲を学ぶピアノ弾きの方々にとっても、これらの手法は大変参考になる例と言えます。
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント