【ピアノ】オクターヴ演奏の効果的アプローチ:テクニカルと音楽的観点から
► はじめに
オクターヴ奏法は、ピアノ演奏において重要な技術の一つ。
本記事では、オクターヴ演奏の基本的なアプローチから、より高度な音楽表現まで、実践的な視点で解説していきます。テクニカルな側面だけでなく、音楽的な表現方法にも焦点を当て、より豊かな演奏につながるヒントを提供します。
► オクターヴ演奏のテクニックと表現
‣ 1. オクターブ連続の難易度を下げる方法
譜例(Finaleで作成)
これを「左手のみ」で演奏するとします。
プロコフィエフ「ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品1」の冒頭など、ある程度高度な楽曲になってくるとよく出てきますね。
こういったオクターブ連続パッセージの難易度を下げる方法としては、「カッコ付きアクセントで示したように、各拍頭に重みを入れること」が有力です。
実際にアクセントは書かれていなくても、このような重みを入れることで各拍が安定し、テクニック的に難易度が下がります。
アクセントをやり過ぎると音楽そのものが変わってしまうので、少し重みを入れる程度にしましょう。
全体をガンガンガンガンガンと弾いてしまうと、ただの「音のカタマリ」になってしまいます。したがって、難易度の問題だけでなく音楽的にも有効な方法と言えます。
‣ 2. オクターヴの分散奏法とその効果
譜例(Finaleで作成)
・親指を軸とした演奏
・エコー効果の活用
・立体的な音響表現
頻出の音型。上行しますが、これも「ため息の音型」と似ていますね。
このような音型では、「親指」に軸を持って演奏するとニュアンスが出ます。
裏の音の方を控えめに演奏すると、その音が「エコー」のように感じられ立体的な演奏になります。
‣ 3. オクターブ分散トレモロの演奏ポイント
ベートーヴェン「ピアノソナタ第17番 テンペスト ニ短調 op.31-2 第3楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、35-38小節)
このような右手の音型では、「親指に重心を置いて弾いていく」のがポイント。
強拍の位置がズレている楽曲では、それぞれ別に考え直す必要があります。
親指に重心を置くことで、以下のような利点があります:
・手が安定するので弾きやすい
・小指で弾く音が軽めの音になるので音楽的
くれぐれも、全ての音をゴリゴリと鳴らそうと思わないでください。
それでは演奏しにくいですし、何より、音型の中には「聴かせるべき音」と「隠してもいい音」が存在し、それらを弾き分けることで立体的な演奏になっていくからです。
オクターブ分散トレモロにおける、さらなる演奏ポイントは:
・手の側面をしっかりさせること
・使用していない指、特に中指がつっぱらないこと
2点ワンセットだと思ってください。
手のひらの外側、親指の下と小指の下には大きな筋肉がついています。
力を入れるというよりは、これらの筋肉がオクターブ分散トレモロ奏法の支えになっていることをイメージしましょう。そうすることで、弛緩してしまっている場合と比べて安定します。
一方、外側のことばかりに気を取られ過ぎて、内側の指のことを忘れてはいけません。
オクターブ分散トレモロで使用していない指、特に「中指」がつっぱってしまっているケースは非常に多く見受けられます。
指がつっぱっているというのは、それだけで力が入ってしまっているということ。
手を硬直させてしまうと:
・疲労や故障
・音色の硬さ
・動きのブレーキ
などを招き、ろくなことはありません。
‣ 4. オクターヴ奏法における非演奏指のコントロール
演奏をする時には「その時に使う指先を、どう送り込むか」という観点が必要で、指先の細かなコントロールなくしては音色を作ることはできません。
一方、忘れがちなのですが、演奏していない指にもできる限り気を配ってみてください。
例えば、以下の点に注意しましょう:
・変な力が入って突っ張ってしまっていないか
・極端に折りたたんでしまっていないか
特にオクターブ演奏では、力が入って様々な問題が生じやすいので、人差し指や中指がどのような状態になっているのかをチェックする必要があります。
‣ 5. 両手で交互にオクターヴを弾く奏法の演奏ポイント
譜例(Finaleで作成)
テクニカルな作品では、このような両手で交互にオクターヴや和音を弾く奏法が散見されます。しかも、急速なパッセージとして。
演奏ポイントはいくつかあります。まずは:
・リズムが寄ってしまわないように気をつける
・左右の手で音量差をつくらないように気をつける
・テンポが変わってしまいがちなので気をつける
この3点が重要です。
(再掲)
それから、もう一つ意識すべきなのが、親指で弾く音同士のバランスについて。
特に、この譜例のように両手の音域が近い場合は、親指の音同士でラインを作っているので、そのラインをよく聴きながらバランスをとっていく必要があります。
打鍵をする際に手の重心が親指にあるイメージを持つとテクニックが安定します。
‣ 6. オクターブ奏法におけるフレーズ維持
リスト「バラード 第2番 S.171 ロ短調」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、199-200小節)
オクターブの連続を弾くパッセージで陥りがちなのが、フレーズ感がなくなってしまうこと。
テクニカルなことをやり始めると一気に注意が奪われてしまうからでしょう。
オクターブではない通常のパッセージだと考えて、その場合、どのようなフレーズ表現をするか考えてみる。
このようにすると、上手くまとめることができます。
また、「ゆっくり練習(拡大練習)」の時にきちんとフレーズをつくれていること。
これが、フレーズを見失わないためのもう一つのポイントです。
原則、どんなパッセージにも向かう先があるもの。
ただの音の連続になってしまわないよう、弾くのに一生懸命になりがちなパッセージでもフレージングに注意を向けてみてください。
‣ 7. ニュアンスが不統一のオクターヴユニゾンの解釈
ドビュッシー「サラバンド(ピアノのために 第2曲)」
譜例(PD作品、Finaleで作成、66小節目)
このように、初版の下段では「1拍目のスラー」「2拍目のテヌート」が書かれていません。
判断のポイントは以下のようになります:
・明らかに「省略」「抜け落ち」と判断できれば、統一して演奏する
・「音色のための工夫」等と判断できるのであれば、楽譜通り演奏する
【明らかに「省略」「抜け落ち」と判断できれば、統一して演奏する】
(再掲)
この譜例の場合は、明らかに「省略」「抜け落ち」と判断できるため、統一して演奏すべきです。
他の版も比較してみたところ、テヌートが書かれていないものと校訂者によって補われているものがほぼ半々でした。また、このメロディは楽曲の中で何回か出てきますが、他のところでは「スラー」「テヌート」が書かれています。
これらから判断すると「明らかに省略されたか、抜け落ちた」と判断できるでしょう。
この作品に限らず、もし不統一のところがある場合は、以下の2項目を検討してみましょう:
・可能であれば、他の版を参照して比較する
・同じ楽曲の似た音型の場所も調べて比較する
ドビュッシー「子供の領分 6.ゴリウォーグのケークウォーク」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-4小節目)
3-4小節目の16分音符のように「両段ともスラーが書かれていない場合」には、「抜け落ち」ではなく「意図的」であると判断できますね。つまり、ノンレガートです。
弾きやすくなるからといって、こういったところで勝手にスラーを補ってはいけません。
【「音色のための工夫」等と判断できるのであれば、楽譜通り演奏する】
ドビュッシー「子供の領分 4.雪が踊っている」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、22-25小節)
ここでは、ソプラノのメロディの2オクターヴ下でバスもメロディを演奏しています。音価だけでなくアーティキュレーションも不統一です。
言うまでもありませんが、これは明らかに「音色のための工夫」。
「長い息で歌うソプラノ」に対し、「ペダルを使っていても手は切ることでポツポツした響きのバス」をオクターヴユニゾンさせて音色を作っています。
この例の他にも、「片手はレガートでメロディ、もう片方の手はスタッカートでメロディ」というようなオクターヴユニゾンも時々見られ、やはり「音色のための工夫」と言えます。省略や抜け落ちではありません。
オーケストラでも、「レガートのメロディに、切れるピチカートのメロディを足して音色を作る」などといったことは頻繁に行われます。
► 終わりに
オクターヴ奏法は、技術的な習得と同時に、音楽的な表現力を高めることが重要です。
本記事で紹介した様々なアプローチを実践することで、より安定した演奏と豊かな音楽表現が可能となるでしょう。
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