【ピアノ】映画「楽聖ショパン」レビュー:ピアノ的視点から見た魅力と楽曲の使われ方

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【ピアノ】映画「楽聖ショパン」レビュー:ピアノ的視点から見た魅力と楽曲の使われ方

► はじめに

 

1945年アメリカ公開、チャールズ・ヴィダー監督による映画「楽聖ショパン(A Song to Remember)」は、フレデリック・ショパンの生涯を描いた、113分の伝記映画です。日本では1949年に公開され、今でも多くのクラシック音楽ファンに愛され続けています。

本記事では、ピアノ的視点から、この映画の魅力と特に注目すべき楽曲の使われ方について詳しく解説します。

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はお気をつけください。

 

‣ 楽曲の使用パターンから学ぶ音楽表現

 

この映画の特徴は、ショパンの楽曲が物語の進行とともに効果的に配置されていることです。「英雄ポロネーズ」を物語の軸として据え、ただの背景音楽としてではなく、ショパンの人生の重要な局面で彼の代表作が登場します。

 

1. オーケストラアレンジの効果的な活用

多くのショパンの作品が登場します。特に注目すべきは:

・英雄ポロネーズ、別れの曲:
 – ピアノ版とオーケストラ版合わせて何度も登場し、映画全体のテーマとして機能
 – オープニングでもオーケストラ版が使用される(この2曲のメドレー)

・革命のエチュード:
 – ピアノ版とオーケストラ版合わせて何度も登場し、ショパンの愛国心と政治的状況を表現

・雨だれの前奏曲(オーケストラ版):
 – 何度も登場し、エンディングなどの物語の区切りなどでも使用
 – ピアノ版は使用されない

 

これらのオーケストラアレンジは、原曲のエッセンスを保ちながらも、時に音楽担当のミクロス・ローザによる創作部分が追加され、映画的な効果を高めています。当然、ショパンの楽曲のオーケストラアレンジは、ミクロス・ローザによるものと考えられます。

 

2. 映画で使用されているショパンの楽曲

映画で使用されているショパンの楽曲を、初出の登場順で一覧にしておきましょう(楽曲タイトルは簡略化しています):

・英雄ポロネーズ
・別れの曲
・小犬のワルツ
・マズルカ 第5番
・幻想即興曲
・エオリアンハープ
・革命のエチュード
・雨だれの前奏曲
・ワルツ 第11番
・スケルツォ 第2番
・ピアノソナタ 第3番 第1楽章
・ノクターン 第2番
・子守歌
・バラード 第3番
・即興曲 第1番
・蝶々のエチュード
・バラード 第1番
・ワルツ 第7番
・木枯らしのエチュード
・ピアノ協奏曲 第1番 第1楽章
・バラード 第3番
・軍隊ポロネーズ
・ワルツ 第5番
・ワルツ 第2番
・ノクターン 第13番

 

当然ながら、BGMは基本的にショパンの作品中心になっています。種類としては:

・オリジナルのピアノ版
・オリジナルのピアノ版をもとにした、登場人物による崩し弾きアレンジ
・ショパンのメロディを一部引用した、ミクロス・ローザによる準オリジナル曲(オーケストラ版)

となっており、「映画全体に音楽で統一性が生まれている」ことが感じ取れるでしょう。

これらの他、ベートーヴェン、モーツァルト、クレメンティ、その他の作曲家、等の作品もわずかに登場します。

 

‣ 音楽史的視点から見た留意点

 

詳細は映画本編で確認して欲しいのですが、本映画の内容は、有力とされているショパンの音楽史の内容と異なる点もあります。あくまで映画として楽しむことを重視しましょう。

 

‣ 映画としての完成度と見どころ

 

ショパンの楽曲のメドレーを適切に用いた音楽演出:

本作の魅力は、ショパンの音楽を的確にメドレーにしてドラマティックかつストーリーとして重要なBGMに仕上げていることにもあります。例えば:

本編序盤:オープニングにおける、「英雄ポロネーズ」と「別れの曲」のメドレー(共にオーケストラ版)
→ 本映画で重要な位置を占める作品をオープニングから聴かせてしまう演出

本編中盤:「ピアノソナタ 第3番 第1楽章」から「雨だれの前奏曲」のメドレー(共にオーケストラ版)
→ 楽曲の変わり目と映像の場面転換をシンクロさせ、ほぼ同時間軸による2地点の場面変化を演出

本編終盤:ポーランド解放運動の資金獲得のための演奏旅行における、8曲のメドレー(的)音楽
→ 様々な演奏会場の場面と8曲の作品を結びつけた、連続性を表現する演出

 

俳優の演奏シーン:

主演のコーネル・ワイルドはショパン役を熱演し、特にピアノを弾くシーンでは、ある程度のリアルさが見られます。実際に音楽と手の動きが合っていない部分は多いのですが、「幻想即興曲」を弾いている部分では、高速の楽曲でありながらもおおむね実際の手の動きと俳優の手の動きが連動していたのには驚きました。

 

‣ 映画としての魅力

 

古典的なハリウッド映画の魅力を存分に味わえる一本です。ロマンチックな恋愛描写、芸術家の苦悩、祖国への愛といった普遍的なテーマが描かれています。

有力なショパンの音楽史と異なる部分もありますが、ジョルジュ・サンドとの恋愛関係や、エルスナー教授との師弟愛も描かれており、音楽だけでなく人間ドラマとしても見応えがあるでしょう。特に、映画中で「未完」とされていた英雄ポロネーズをエルスナー教授の前で披露するシーンは感動します。

 

► 終わりに

 

「楽聖ショパン」は、クラシック音楽ファンはもちろん、ピアノを学ぶ全ての方にとって楽しめる作品です。音楽の使い方、演出の工夫、そして何より美しいショパンの調べに包まれる113分間は、きっと新たな音楽の発見をもたらしてくれるでしょう。

映画を観た後は、きっとピアノでショパンを弾きたくなるはずです。また、映画で印象に残った楽曲があれば、実際の楽譜を手に取って演奏してみてください。

 

 

 

 

 

 

 


 

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