【ピアノ】フレーズの区切り方・つなぎ方の実践的分析法

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【ピアノ】フレーズの区切り方・つなぎ方の実践的分析法

► はじめに:フレーズ区切りの重要性

 

ピアノ演奏において、フレーズの区切り方は音楽の解釈と表現に大きな影響を与えます。特に、ある音が前のフレーズに属するのか、後ろのフレーズに属するのかという判断は、演奏の方向性を決める重要な要素と言えるでしょう。

本記事では、J.S.バッハの「ミュゼット」とモーツァルトの「ピアノソナタ K.310」を例に、フレーズの区切り方の分析手法を実践的に解説していきます。これらの分析手法は、バロック期から古典派の作品全般に応用可能です。

 

重要な音楽用語:

・フレージング:音楽的なまとまりを作る区切り方
・連桁(れんこう):音符の符尾を横線でつないだもの
・スラー:音の繋がりを示す曲線の記号
・ダイナミクス:音の強弱に関する指示

 

► フレーズ分析の基礎

 

フレーズの区切り方を分析する際は、まず楽曲の基本構造を理解し、その上で細かな音の繋がりを観察していきます。ここでは、J.S.バッハの作品を例に、具体的な分析手法を見ていきましょう。

 

‣ 分析対象と基本情報

 

J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 ミュゼット BWV Anh.126」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

基本的な楽曲構成:

・Aセクション(1-8小節)
・Bセクション(9-20小節)

A、B、A(Da Capoによるリピート)

 

‣ フレーズ区切りの判断基準

 

譜例2(PD楽曲、Sibeliusで作成、9-20小節)

ブルーの音符の部分には半音の連結が内包されています。ここで問題となってくるのは、フレーズの区分です:

・レッドの音符は、直前の音符群の仲間なのか
・直後の音符群の仲間なのか
・両方の仲間なのか

これらを考えながら、区分を分けていく必要があります。

 

‣ 具体的な分析例

 

譜例3(PD楽曲、Sibeliusで作成、9-20小節)

譜例3でカギマークで示したように解釈しましょう。

 

分析ポイント:

・14小節目および16小節目のCis音とA音の間では区切らない
・丸印で示した音符は鎖のつなぎ目であり、前と後ろの両方の仲間である

15小節1拍目から始まっているカギマークが14小節2拍目から始まらない理由は、13小節目の始まり方から明らかです。

 

► 実践応用例

‣ モーツァルト:前後のフレーズ判断(基本)

 

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」

譜例4(PD楽曲、Finaleで作成、3-4小節)

メロディラインの丸印で示したF音は、スラーから判断すると前のフレーズへつける音です。

よくある誤り:
前のフレーズが4分音符E音で終わり、次のフレーズが丸印F音から始まっているかのような演奏

正しい演奏方法:

・F音は「弾く」というよりは「触るだけ」というイメージで
・4分音符のE音を自然に解決させる
・音楽の流れを途切れさせない

 

この例のように、ある音を、前と後ろのどちらのフレーズへつけるかの判断を間違えやすいところは意外と多いので、注意して譜読みしましょう。

当然、どちらともとり得る例もあるので、次の項目で解説します。

 

‣ モーツァルト:前後のフレーズ判断(応用)

 

「音域とダイナミクスのどちらを参考に構成を考えるか」という視点で、以下の譜例を見てみましょう。

 

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」

譜例5(PD楽曲、Finaleで作成、12-13小節)

13小節目の p の書いてある位置に注目すると、異なる2つの解釈が可能です:

 

音域による解釈:

・12小節目最後のメロディA音から新しいフレーズとして捉える
・連桁の分断とメロディの音域の変化を重視

 

ダイナミクスによる解釈:

・カギマークで示した部分までを一つのフレーズとして捉える
・点線で区切った部分までを一息でノンストップ演奏
・小節のつなぎ目のメロディA音とG音は前のグループに含める

ダイナミクスによる解釈の場合の実践的な演奏のポイント:

・メロディが跳躍する32分休符では余計な時間を使わない
・13小節目へ一気に入る
・点線部分でわずかな時間を使う
・フレーズを改めて音型を折り返す

このようにすることで、左手の16分音符も変なところでギクシャクせずに済みます。

小節頭へ入ってしまってからであれば前のフレーズのおさめどころとして聴けるので、点線部分でわずかな時間を使っても右手パート、左手パートともに音楽的に不自然には聴こえません。

 

► 終わりに:他の楽曲への応用

 

この分析手法は以下の場合に特に有効です:

・オーソドックスな作りの作品
・バロックや古典派の作品
・フレージングスラーが書かれていない作品

分析の手順:

1. (譜例3の)ブルー音符のような主要な動きを特定
2. レッド音符のような分類に迷う動きの発見
3. 丸印で示したようなフレーズの共有音があるかを確認
4. 区切り方の検討

次のステップ:

・他の作品での分析実践
・自身の演奏を録音して客観的に確認
・様々な演奏家の解釈の聴き比べ

 

関連内容として、以下の記事も参考にしてください。

【ピアノ】演奏におけるフレージングの深い理解と実践テクニック

 


 

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