【ピアノ】C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」から学ぶ、左手用編曲のテクニック

スポンサーリンク
スポンサーリンク

【ピアノ】C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」から学ぶ、左手用編曲のテクニック

► はじめに

 

バロック時代の作曲家C.P.E.バッハが作曲した「ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220」は、鍵盤楽器のための練習曲として長く親しまれてきました。この作品を、A.R.パーソンズが左手のみで演奏できるように編曲したものがあります。片手だけでこの音楽を再現するために、原曲には見られない工夫が数多く盛り込まれています。

本記事では、原曲と左手編曲版の譜例を見比べながら、その編曲上の工夫を一つずつ読み解いていきます。

左手編曲では、片手だけで音楽を成立させる必要があるため、通常のピアノ編曲以上に演奏上の制約を考慮しなければいけません。左手独奏のための作曲や編曲を学ぶ方にとって、本記事がヒントとなれば幸いです。

 

► 原曲「ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220」とは

 

C.P.E.バッハは、1766年にポツダムでこの「ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220」を作曲したとされています。C.P.E.バッハは「ソルフェッジョ」と題する鍵盤曲を複数曲残していますが、このハ短調の一曲は特に知られています。もともと「ソルフェッジョ」は歌唱練習のための曲を指す言葉でしたが、C.P.E.バッハはこれを鍵盤楽器の練習曲としても用いました。

全曲のほとんどが16分音符による流れるようなパッセージで構成されており、左右の手を交互に用いて演奏することを前提とした鍵盤練習曲です。そのため、左手だけで演奏できるように編曲するには、様々な工夫が必要になります。

 

► 左手用分析の工夫

‣ 連桁(れんこう)の結合

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220」原曲と左手編曲の楽譜比較(1-2小節)連桁の結合

まず目に留まるのが、連桁(音符の旗を横につなぐ線)の書き方です。原曲では、両手の受け渡しに合わせて連桁が細かく分けられています。しかし、片手だけで弾く場合はその区切りが不要になるため、左手編曲版では連桁が一つにまとめられました。この処理は、曲全体を通して一貫して適用されています。

 

‣ 跳躍を回避して弾きやすくする

 

譜例(5-6小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」左手編曲の楽譜(5-6小節)跳躍を回避する音型の工夫

5-6小節の各3拍目に、演奏のしやすさを考えた工夫が見られます。原曲通りの音型で弾こうとすると、手を大きく横に動かす跳躍が必要になり、16分音符が続く速いパッセージの中ではかなり弾きにくくなってしまいます。そこで編曲版では、同じ和声を保ったまま音の並び方を変更し、手の移動を最小限に抑えています。

 

‣ オクターヴの処理:音の省略・リズムの変更、タイの追加

 

譜例(13-18小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」左手編曲の楽譜(13-18小節)オクターヴの省略とタイの追加

13小節目と15小節目では、オクターヴの下の音を省略することで、手の横移動を減らしています。加えて、各1拍頭のオクターヴで配置されていた低音は16分音符ぶん後ろへ移され、これにより1オクターヴが届く手であれば無理なく演奏できるようになりました。

一方、17小節1拍目では、前の小節からタイでC音がつながれ、和声に厚みが加えられています。ただしこの工夫は、演奏上の難易度を下げる工夫というよりも、響きを補うための工夫と言えるでしょう。

 

‣ オクターヴの処理:音域の変更、装飾音の書き譜と音域調整

 

譜例(21-26小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」左手編曲の楽譜(21-26小節)オクターヴの音域変更と装飾音の書き譜

22-24小節にも、オクターヴにまつわる処理が見つかります。ここでは音を省略するのではなく、1オクターヴ上へ移すことで、跳躍を軽減しました。

続く25小節目では、装飾音が書き譜にされ、リズムの目安が示されています。拍と同時に装飾音を弾き始める弾き方はC.P.E.バッハの時代によく見られた慣習で、その点も配慮されていることに着目しましょう。またこの小節は、原曲のままでは片手で押さえきれないため、音域を変更し、一部の音を省略・配置し直しています。結果として、片手で収まる範囲にまとまりながらも、和声の機能や音楽的な印象は保たれています

 

‣ 音の省略とタイの追加

 

譜例(27-30小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」左手編曲の楽譜(27-30小節)音の省略とタイの追加

27-29小節では、各4拍目の4分音符における下の音が省略されています。音が単音になったことで小指(第5指)で処理できるようになり、幅の広い分散和音を、より無理なく処理できるようになりました。なお、29小節3拍目では、次の4拍目を弾きやすくするための小さな変更も加えられています。

30小節4拍目では、前の拍からタイでG音がつながれ、原曲にあったバス音の響きが保たれています。左手だけでは原曲通りの音を出すことはできませんが、代替の工夫として理にかなった処理と言えるでしょう。

 

► 終わりに

 

ここまで、左手編曲版に見られる工夫を順に見てきました。連桁の統合、オクターヴの省略や音域の変更、リズムやタイの調整など、無理な跳躍を避けることを中心に、片手だけで音楽を成立させるためのアイデアが随所に散りばめられていることが確認できたかと思います。

こうした技法は、左手のための作品を作曲したい方だけでなく、教材編曲や演奏用編曲を行う際、演奏しやすい音型や音の配置を考えるうえでも参考になるでしょう。

 

併読推奨記事

左手のためのピアノ音楽に関する記事まとめです。入門ガイド、左手音楽史、楽曲別演奏解説、技術解説、レパートリー紹介まで網羅。初心者から上級者まで体系的に学べます。

【ピアノ】左手のためのピアノ音楽:おすすめ曲・演奏解説・技術記事まとめ

 


 

► 関連コンテンツ

著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら

YouTubeチャンネル
・Piano Poetry
チャンネルはこちら

SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました