【ピアノ】片手作品入門:C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」演奏・分析ガイド
► はじめに
右手だけ・左手だけで弾けるピアノ曲を探している方にとって、本作品(右手あるいは左手のための小品)は有力な入門候補です。
片手だけで演奏する作品というと、難易度の高いレパートリーを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、今回紹介するC.P.E.バッハの小品は、片手演奏の世界に足を踏み入れるための、まさに入門に適した作品と言えます。和音を使わず音域が狭めのアルペジオのみで構成されており、手の大きさに関わらず取り組みやすい点が魅力です。
本記事では、この作品の特徴や構成、そして演奏する際に気をつけたいポイントについて解説します。
► 作品について
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

C.P.E.バッハの「Klavierstück for the right or left hand alone」は、「右手あるいは左手のための小品」という邦題でも知られている作品です。
なぜ、片手演奏の入門に最適なのか:
・「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプト
・リピートを含めても1分強で演奏できるコンパクトな作品
・和音が一切出てこないうえに、終始音域が狭めのアルペジオなので、手の大きさを問わない書法
・子供向けの学習教材として作曲された可能性がある
その他の情報:
・H.241(ヘルム番号)
・W.117:3: ヴォトケンヌ番号(Wotquenne)117の3(ヴォトケンヌ番号117/1と書かれている資料もある)
・1770年以前に作曲
・現在知られている片手独奏作品の中では、最も早い時期の作品の一つと考えられている
左手のみの作品には:
・両手で弾いているように聴かせる作品
・単一の音符の連続によるパッセージワークで成立している作品
大きくこの2種類がありますが、本作品は後者にあたります。
► 基本姿勢と身体の使い方
座位の調整:椅子をやや右寄りに調整し、高音部を演奏する際の身体への負担を軽減する(下図参照)
脱力の徹底:片手演奏では完全な休憩のタイミングがないため、普段以上に脱力を意識すべき
右手の管理:演奏しない右手は膝の上に自然に置き、余計な緊張を避ける(ピアノのサイドを掴むのは力みの原因)
図(Sibeliusで作成)

► 全運指や学習のヒント
本楽曲は、左手のみでも右手のみでも弾けるように作曲されていますが、本記事では左手のみで演奏する場合の全運指を提供します。
それ以外の演奏ポイントや分析ポイントにつきましては、どちらの手で演奏する場合でも同様です。
‣ 左手のみで演奏する場合の全運指
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、全曲)

8,20小節目にプラルトリラーが出てきます。この時代の作品の装飾音は「上から入れる」のが慣例とされていますが、8,20小節目ではプラルトリラーの直前に上の音と同音が出てくるので、例外的に「下から入れる」ことを想定して運指付けしてあります。
‣ 構成分析
本作品の構成を見てみましょう:
a(1-4小節)
b(5-8小節)
a(9-12小節)
c(13-20小節)
a(21-24小節)
・a(9-12小節)は、a(1-4小節)を移調した反復
・17-19小節は、13,15小節目の音型を引用した同型反復による発展
・したがって、13-20小節全体をcとしてまとめて捉えることができる
・20小節目は8小節目と類似させることで、aへの戻りを準備する役割を担っている
‣ 演奏のポイント
譜例(1-4小節)

a(1-4小節)では、音域の高い頂点の音が2回出てきます。1小節目と3小節目のA音を2回とも同じように響かせてしまうと、無機質な印象になりかねません。そのため、多少の変化をつけてみてはいかがでしょうか。3小節目のほうを少し大きめに響かせると、1-4小節全体のまとまりが活きてくるので、おすすめの弾き方です。
以下の部分では同様の注意をしましょう:
・a(1-4小節):頂点A音(1,3小節目)
・a(9-12小節):頂点E音(9,11小節目)
・a(21-24小節):頂点A音(21,23小節目)
譜例(5-10小節)

5-9小節には、レッド音符で示したように「Cis H A Gis Fis E」という順次進行で下りてくるラインが内包されています。これらの音同士のバランスが取れているかどうか、録音してチェックしてみましょう。
‣ 分析のポイント
譜例(13-20小節)

この楽曲では、全曲が分散和音で書かれています。そのため、背景でどのような和声が想定されているのかを考えてみることが、演奏の助けになるかもしれません。特に迷いやすいのは、13-16小節ではないでしょうか。
13小節目の前半には「G E Cis」という音が出てきますが、これはD-durのⅤ7(A Cis E G)の根音が出てきていない形だと考えられます。それが13小節目の後半でD-durのⅠ(D Fis A)に解決し、14小節目もD-durのⅤ7からⅠへと進んでいきます。
そのため演奏面では、D-durのⅠの部分をⅤ7の部分よりも強く弾いてしまうと、和声の流れとして不自然になってしまうので、気をつけてみてください。この和声進行を理解すると、どこに重力が向かっているかが見えやすくなります。
・15小節目:E-durのⅤ7→Ⅰ
・16小節目:E-durのⅤ7→Ⅰ
このように、15小節目以降もⅤ7からⅠへの進行が連続して続いていき、そして17-19小節では、13,15小節目の音型を引用した同型反復による発展という構成になっています。
► 終わりに
今回紹介したC.P.E.バッハの小品は、コンパクトな規模ながら、構成分析や和声の読み解きといった音楽的な楽しみも含まれている作品です。片手演奏に初めて取り組む方にとって、技術的なハードルが低い分、こうした音楽的な側面にじっくり向き合える点も、この曲の魅力ではないかと思います。ぜひ実際に音を出しながら、片手演奏に入門してみましょう。
併読推奨記事
左手独奏ピアノに関する記事まとめです。入門ガイドから楽曲別演奏解説、技術解説、レパートリー紹介まで網羅。初心者から上級者まで、左手独奏を体系的に学べます。
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
YouTubeチャンネル
・Piano Poetry
チャンネルはこちら
SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

コメント