【ピアノ】隠れたメロディックラインを聴く:脇役の声部も歌わせる譜読み

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【ピアノ】隠れたメロディックラインを聴く:脇役の声部も歌わせる譜読み

► はじめに

 

ピアノ演奏において、「メロディを歌わせる」という意識を持つことは大切です。ただし、曲中にはメインのメロディ以外にも、注意深く耳を澄ますと「メロディック(旋律的)」だと気づける声部が随所に存在しています。

それらは内声であったり、バスラインであったりします。主役ではないとしても、メロディックさを持っている以上、演奏上全く無視していいわけではありません。多少のニュアンスをつけること、そして背後で鳴っている音が強くなりすぎないよう気をつけること——この二点だけで、演奏の音楽性はぐっと増します。

そのような「主旋律ではないけれどメロディックな動き」について、具体例を通じて学んでいきましょう。本記事を読み終える頃には、譜読み力の向上と共に、各声部の役割や方向性を感じながら演奏できるようになります。

本記事の対象者:初中級〜上級者

 

► 具体例

‣ A. よく見られる例:伴奏・内声がメロディックなライン

· 1. ハモリの声部も歌わせる

 

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第3楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、40-43小節)

モーツァルト「ピアノソナタ 変ホ長調 K.282 第3楽章」40〜43小節。ハモリの声部がメロディックなラインとして機能している譜例。

カギマークで示した部分は、上段のメロディとハモリを形成する声部です。主役ではなく「従」の立場ではあるものの、それ自体がメロディックなラインとして成立している点に着目しましょう。

「この声部も歌う」という意識を持って音型に沿ったニュアンスをつけると、音楽の表情が豊かになります。強く弾き出す必要はなく、自分の中でそのラインを「聴きながら」演奏する、という感覚を持ってみてください。

 

· 2. バスラインが第2の旋律として機能する

 

メンデルスゾーン「信頼(ないしょの話) Op.19-4」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、13-17小節)

メンデルスゾーン「信頼(ないしょの話) Op.19-4」13〜17小節。バスラインが第2の旋律として機能している箇所をレッド音符で示した譜例。

譜例のレッド音符で示した箇所は、バスラインが第2の旋律として機能している部分です。この動きは譜例以降も続くため、丁寧に読み取っておく必要があります。

15小節3拍目のバス音については、「バスが一瞬E音へ不自然に上がった」と捉えるのではなく:

・8分休符を補って解釈する
・あるいは2分音符のGis音がタイで8分音符分だけ延長されていると見る

という2通りの読み方が考えられます。自然に感じる方で解釈してみてください。

 

· 3. 和音の中のバス声部が独立した動きを持つ

 

シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-20 田舎の歌」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、17-24小節)

シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-20 田舎の歌」17〜24小節。左手和音の中でバス声部が独立したメロディックな動きを持っている箇所をレッド音符で示した譜例。

左手が和音を担いながらも、バス声部は独立したメロディックな動きを見せています。レッド音符の箇所は特に語りかけてくるような動きになっており、単なる伴奏として流してしまうのはもったいない部分といえます。

 

· 4. 停滞する音と動く音が同居する2声的な書法

 

「2声的な書法」とは、一つの声部の中でありながら、あたかも複数声部のように聴こえる書法を指します。

 

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、13-15小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章」13〜15小節。左手パートに停滞する音と動く音が同居する2声的書法が現れている譜例。

着目すべきは、同じ音高に留まる音と動く音が同じ声部の中に共存している箇所です。この例ではD音が停滞し続ける一方で、他の音が動いており、左手だけで2声的な書法になっていることを読み取りましょう。

特に15小節目は音が細かく動いているので、丸印の音をほんの少しピックアップすると、そのラインが自然と浮かび上がってきます。

このように「停滞と動き」が同居している箇所は、隠れたメロディを探すうえで重要な手がかりになります。

 

同様の書法のさらなる例は、【ピアノ】脇役のパートの隠れメロディを見つける分析方法 で紹介しているので参考にしてください。

 

· 5. 同一声部に潜む2声的な書法をさらに深く読む

 

J.S.バッハ「シンフォニア 第12番 BWV798」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-12小節)

J.S.バッハ「シンフォニア 第12番 BWV798」1〜12小節。一つの声部内に潜む2声的書法と、メロディックな動きを持つ音をレッド音符でピックアップした解説譜例。

レッド音符は、一つの声部の中で他の音と区別して扱うべき音です。特に9小節目後半からのレッド音符の部分は、主役ではないものの、メロディックな流れを持った動きになっています。

前項目でも取り上げたように、停滞する部分と動く部分が同一声部内に共存するこうした書法は「2声的な書法」と呼べるもので、旋律的な要素が潜んでいる可能性が高い注目ポイントです。

過度に強調する必要はありませんが、それらの音をわずかにピックアップすること、そして背後で鳴っている音を抑えることで、演奏に音楽的な立体感が生まれます。

 

· 6. 伴奏に隠されたバスラインをわずかに際立たせる

 

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、17-20小節)

モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.311 第1楽章」17〜20小節。左手伴奏に隠されたバスラインを丸印で示し、わずかに際立たせる奏法を解説した譜例。

これも左手の2声的な書法の一種です。左手伴奏の中に隠されたバスラインをわずかに際立たせると、伴奏そのものが生き生きとした表情を持ち始めます。

実践的な練習としては、丸印の音のみを取り出して弾くことでメロディックな流れを耳で確認してから、全体の演奏に戻るといいでしょう。

 

· 7. 半音の動きがメロディックに聴こえさせる

 

ラヴェル「シャブリエ風に」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、40-45小節)

ラヴェル「シャブリエ風に」40〜45小節。下段のメロディックなラインにおける半音の動きをレッド音符で示した譜例。

43小節目以降、上段には長く伸びるメロディがありますが、下段の動きもそれ自体として旋律線を形成しています。特にレッド音符で示した半音の動きが、この声部を旋律的に聴こえさせている核心です。半音のニュアンスを丁寧に扱いながら、下段も歌うように弾いてみてください。

 

‣ B. 主役とも脇役とも取れる例

· 8. 主役か脇役かの判断が難しい左手のライン

 

ショパンの「エチュード Op.10-1」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

ショパン「エチュード Op.10-1」1〜2小節。右手の技巧的パッセージに対して左手がメロディックな動きを持つ、主役・脇役の判断が難しい曲の冒頭譜例。

楽曲全体を通して、右手が技巧的なパッセージを担うなか、左手はメロディックな動きを持っています。「主役か脇役か」を一概に決めることが難しい、どちらの側面も持ち合わせた例と言えるでしょう。どちらかに断定して弾くのではなく、両方の性格を念頭に置いておくことが大切です。

 

‣ C. リズミック・ユニゾンでハモる例

· 9. メロディと同じリズムで動く内声トップライン

 

シューマン「謝肉祭 Op.9 より 20.ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

シューマン「謝肉祭 Op.9 20.ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」1〜4小節。左手内声のトップラインがメロディとリズミック・ユニゾンでハモる構造を示した譜例。

左手の内声トップラインにはメロディックな流れが隠れています。メロディと全く同じリズムで動く「リズミック・ユニゾン」のハモリという形で現れるため、埋もれやすい声部ですが、それをよく聴きながら演奏することで音楽全体の厚みが増します。

 

‣ D. 楽譜上に目印がある例

· 10. スタッカートが「強調」の目印になっている

 

シューマン「謝肉祭 4.高貴なワルツ」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、12-13小節)

シューマン「謝肉祭 4.高貴なワルツ」12〜13小節。左手伴奏の特定の音にスタッカートが付けられ、わずかな強調の目印として機能している譜例。

左手伴奏の特定の音にスタッカートが書かれています。

・伴奏内で副旋律的に重要な音に、スタッカートが付けられている
・右手のレガートを実現するにはダンパーペダルが必要
・スタッカートによって「3→1 3→1」というリズム感と音楽の脈動が際立つ

このスタッカートは「音を切る」指示というより、「この音をわずかに強調する」という意図として読むのが自然です。伴奏内に多層的な表現を組み込むことをシューマンが好んでいた、という視点からも理解できます。

 

より詳しくは、【ピアノ】スタッカートの解釈:音を切るだけではない「わずかな強調」の表現技法 で解説しているので参考にしてください。

 

· 11. 連桁の分断が音色変化のサインになっている

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第17番 テンペスト ニ短調 Op.31-2 第2楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、34-35小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第17番 テンペスト ニ短調 Op.31-2 第2楽章」34〜35小節。左手パートの連桁の分断が別のメロディックなラインの存在を示す譜例。

34–35小節では、左手パートの連桁(れんこう)が分断されています。これは「ここに別のメロディックなラインがある」という作曲家からの目印です。あたかも別の楽器が歌い始めるかのように、音色を意識的に変化させて演奏してみてください。

 

‣ E. メロディの音域を超えた場所にある例

· 12. 和音のトップノートが副旋律を担う(タールベルクの奏法)

 

ラフマニノフ「音の絵 Op.39-5」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、53-54小節)

ラフマニノフ「音の絵 Op.39-5」53〜54小節。右手和音のトップノートが副旋律を担う、タールベルクの奏法の実例譜例。

アクセント付きのメインメロディを上下から厚みのある音響が取り囲む書き方になっています。右手の和音はトップノートを拾い上げるとメロディックなラインになっており、副旋律の役割も果たしています。

これは「タールベルクの奏法」と呼ばれるもので、中間部にメロディを配置し、その上下に伴奏を織りなすことで、ア・トレ・マニ(3手)的な効果を2手で実現するものです。近代以降の作品にも受け継がれた書法の一つとして把握しておきましょう。

 

「タールベルクの奏法」について、より多くの実例を確認したい方は、【ピアノ】「タールベルクの奏法」とは?3本の手の効果を生み出すピアニズムの実例解説 を参考にしてください。

 

· 13. メインメロディを意識しながら音域上の伴奏を弾く

 

シューマン「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷(クララによる編曲版)」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、14-15小節)

シューマン「リーダークライス Op.39 第6曲 美しい異郷(クララによる編曲版)」14〜15小節。メインメロディの上方を行くメロディックな伴奏部分のバランスに関する解説譜例。

15小節目のメインメロディは付点2分音符のFis音です。その上を行くメロディックな伴奏部分を演奏している間も、そのFis音が自分の中で鳴り続けているように意識を保ちましょう。上方の伴奏部分は音域が高く連打されるため、意識せずとも聴こえてきますが、それがメインの邪魔にならないよう全体のバランスに気を配ることが大切です。

 

‣ F. 替え手(入れ子書法)による例

· 14. 内声のラインを弾きやすくするための入れ子書法

 

「入れ子」書法とは、両手で弾く和音の音を音域順に並べず、声部を交差した形で記譜する書き方のことです。この記譜を楽譜通りの配分で演奏すると両手の指が交差するため、「替え手」奏法と呼ばれます。

 

シューマン「ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 より 第1曲 ラインのほとりの日曜日(クララによる編曲版)」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、19-22小節)

シューマン「ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 第1曲 ラインのほとりの日曜日(クララによる編曲版)」19〜22小節。内声の動きをレッド音符で示した入れ子書法の譜例。

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、21小節目)

シューマン「ラインのほとりの日曜日(クララによる編曲版)」21小節。内声「Fis – G – A – G – Fis」の動きを強調した替え手書法の補足譜例。

20小節目から22小節目の途中まで入れ子になっています。密集和音で書かれており、一見するとなぜわざわざこの書法をとるのか分かりにくい例と言えるでしょう。

21小節目にはダイナミクスの松葉(< >)が書かれており、レッド音符で示した内声の「Fis – G – A – G – Fis」という動きは、原曲の歌曲でも重要な合いの手として機能する部分です。入れ子書法によってこの声部を同じ手で一貫して担うことができ、バランスのコントロールがしやすくなると同時に、旋律的なラインとして際立たせやすくなります。

 

「替え手奏法」について体系的に学びたい方は、【ピアノ】替え手奏法(指の交差)とは?実例で学ぶ音楽的意義と演奏のコツ をご覧ください。

 

‣ G. メロディだと思っていたらメロディックな伴奏だった例

· 15. 作曲家自身が「これは伴奏」と楽譜上で示している

 

サティ「3つのジムノペディ 第1番」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-12小節)

サティ「3つのジムノペディ 第1番」1〜12小節。上段の全休符によって右手和音が伴奏声部であることを楽譜上で明示した作曲技法の譜例。

1-4小節の上段に「全休符」が入っています。単純に音がないというだけなら、なにも声部分けして全休符を書く必要はありません。それでもサティがここに全休符を置いているということは、「右手の和音は伴奏声部であり、旋律が入るべき上段は今はまだ空いている」という構造を、楽譜の段階で明示しているのです。

5小節目でメロディが現れた瞬間、聴き手はようやく「冒頭から鳴り続けていた和音は伴奏だったのか」と気づきます。すでによく知られた曲なので実感しにくいかもしれませんが、予備知識なしに聴けば、冒頭の和音自体を旋律として受け取る方も多いのではないでしょうか。

「旋律かと思っていたものが、後から伴奏だったと説明される」——この仕掛けは、音楽の書法として一つの面白いアイディアと言えるでしょう。

 

· 16. 「メロディだと思っていたら伴奏だった」という気づきが生まれる瞬間

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第14番 月光 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、3-6小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第14番 月光 第1楽章」3〜6小節。3連符の分散和音がメロディックな伴奏として機能し、5小節目でメロディが現れる構造を示した譜例。

5小節目でカギマークの位置からメロディが現れますが、この瞬間にはじめて「冒頭から続いていた3連符の分散和音はメロディではなかった」ということが明らかになります。

それほどまでに第2のメロディのような印象を与える旋律的な伴奏であり、注意深く聴かなければ錯覚してしまうほどの書法です。

 

上記のサティや本項目のベートーヴェンのような作曲上の工夫については、【ピアノ】楽曲分析の視点:音楽的な前後関係が生み出す表現の変化 をご覧いただくことで、より深く理解することができるでしょう。

 

‣ H. やや抽象的に内包されている例

· 17. リピートのときだけ際立たせることが多い内声ライン

 

シューマン「子供の情景 1.見知らぬ国 Op.15-1 ト長調」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

シューマン「子供の情景 1.見知らぬ国 Op.15-1 ト長調」1〜4小節。左手内声に潜む「H – B – A – C」のメロディックなラインを示した譜例。

1小節目からの左手内声には「H – B – A – C」というメロディックなラインが潜んでいます。一度目の演奏ではさりげなく弾き、リピート時だけわずかに際立たせるという選択もよく見受けられます。隠れた要素をどのタイミングで「見せる」か、演奏者の解釈に委ねられた面白い部分と言えるでしょう。

 

· 18. 分散和音の各拍頭に潜むメロディックなライン

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第23番 熱情 ヘ短調 Op.57 第1楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、79-82小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第23番 熱情 ヘ短調 Op.57 第1楽章」79〜82小節。左手分散和音の各拍頭に潜むメロディックなラインを丸印でピックアップした譜例。

81-82小節の左手分散和音は、各拍頭の音を拾い出していくとメロディックなライン(丸印の音)が浮かび上がります。副旋律的に扱える箇所で、やりすぎない程度に強調すると不自然にはなりません。結果として弾きやすさにもつながるため、技術的な観点からも有効なアプローチです。

 

► 終わりに

 

「主旋律ではないけれどメロディックな動き」は、あらゆる時代・作曲家の作品に含まれています。最初はなかなか気づきにくいかもしれませんが、今回取り上げたような具体例を数多く見ていくことで発見できるようになるでしょう。

演奏のニュアンスとは、メインのメロディだけで作られるものではありません。隅々まで音楽的な意図が張り巡らされている——その豊かさに気づいたとき、演奏はより深みを帯びるはずです。

次に譜読みをする際には、今回紹介した視点を持って楽譜を眺めてみてください。

 

併読推奨記事

譜読みについて体系的に学びたい方は、以下のまとめ記事をご覧ください。

【ピアノ】譜読み関連記事まとめ:基礎から応用まで全カテゴリー一覧

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ情報メディア「Piano Hack | 大人のための独学用Webピアノ教室」の運営/音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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