【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「君の顔(ロベルトのOp.127-2)」:特徴と演奏のヒント

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【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「君の顔(ロベルトのOp.127-2)」:特徴と演奏のヒント

► はじめに

 

ロベルト・シューマンの歌曲「君の顔(Dein Angesicht)」には、妻クララ・シューマンによってピアノ独奏版に編曲されたものがあります。原曲は歌曲集「5つのリートと歌 Op.127」の第2曲で、クララは曲集中この曲のみをピアノソロに編曲しました。原曲の詩的世界を損なわず、ピアノの響きだけで魅力を引き出しています。

本記事では、クララ・シューマン編曲「君の顔」の音楽的特徴を解説し、実際の演奏に役立つ具体的なヒントまで紹介します。

 

► 前提知識

‣ 原曲「君の顔」の基本情報

 

シューマン「5つのリートと歌 Op.127 より 第2曲 君の顔」(原曲の歌曲)

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「5つのリートと歌 Op.127 より 第2曲 君の顔」原曲歌曲版の冒頭楽譜。

作曲年:1850-1851年
演奏時間:約2分20秒
歌詞:ハインリヒ・ハイネの詩
内容:夢の中で見た愛する人の美しくも蒼ざめた顔に、死の影が迫る悲痛な予感を歌った曲
構成:「5つのリートと歌 Op.127」の第2曲

 

ロベルト・シューマン「5つのリートと歌 Op.127」全5曲のうち、クララ・シューマンがピアノ独奏版に編曲したのは第2曲「君の顔」のみです。優れたピアニストであり、原曲の楽譜編集者としても活躍したクララによる貴重なピアノソロ編曲作品として、演奏・研究の両面で高い価値を持っています。

 

‣ クララ・シューマンについて

 

クララ・シューマン(1819-1896)

・19世紀を代表する女性ピアニスト・作曲家
・ロベルト・シューマンの妻(1840年結婚)
・優れた音楽編集者としても活動
・ブラームス、リストらと深い音楽的交流を持つ

 

クララの父フリードリヒ・ヴィークは、ロベルトのピアノ教師でありながら二人の結婚に強く反対していました。法廷闘争まで発展した困難を乗り越えて結ばれた二人の愛の物語は、音楽史上最も美しいエピソードの一つです。

クララは演奏家として国際的な名声を得ただけでなく、ロベルトの作品の編集者・解釈者としても重要な役割を果たしました。彼女が編集した楽譜や編曲作品は、作曲者の意図を深く理解した資料として、今日でも高い価値を持っています。

 

► クララ編における編曲の基本方針と難易度

 

シューマン「君の顔(クララによる編曲版)」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

クララ・シューマン編曲「君の顔」ピアノ独奏版の冒頭楽譜。

クララの編曲で最も特徴的なのは、その原曲への忠実さです。原曲を自由に派手に作り変えるのではなく、ロベルトの音楽への深い敬意を持ちながら、最小限の変更で豊かな表現を生み出しています。

 

編曲の特徴

伴奏部の継承:

・原曲のピアノ伴奏をできる限りそのまま採用
・和声進行や音型を忠実に保持

声部配置の工夫:

・歌のメロディを自然にピアノパートに組み込む
・メロディラインが際立つよう音域とバランスを調整
・声部間の干渉を避ける繊細な配慮

この方針により、歌曲の本質を保ちながら、ピアノ独奏曲として仕上がっています。

 

技術的難易度

ツェルニー30番後半程度から挑戦可能

テンポはゆるやかですが、以下の技術が求められます:

・和音の連続的な演奏
・多声部の明確な弾き分け
・半音階の動きにおける繊細なペダリングコントロール
・度重なる転調における音色のコントロール

 

► 演奏上の注意点

‣ 半音階における横つながりの意識

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、25-29小節)

クララ編曲「君の顔」25-29小節 半音階的進行の譜例。

この箇所では、複数の声部で半音階的な動きが同時進行します。

練習のヒント:

・各声部を個別に取り出して練習する
・特定の声部のみを抽出して滑らかに繋がっているか確認
・声部間のバランスを意識し、主旋律が埋もれないよう注意

 

‣ 終結部のペダリングの可能性

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、30-31小節)

クララ編曲「君の顔」30-31小節 終結部のペダリングパターン3種類を示した譜例。

同形の和音が連続する終結部では、ペダリングによって表現が大きく変わります。譜例に示した3つのパターンを検討しましょう:

・パターン①:和音ごとに踏み替え
・パターン②:和音ごとに踏み替え、かつ、間に音響の切れ目を入れる
・パターン③:全体を繋ぐペダリング

すべてのパターンを試奏し、音響の違いを耳で確認してから選択しましょう。

 

‣ 和声変化と音色設計

 

この作品では、和声が外れ始める重要なポイントがいくつか存在します。それぞれに適した音色を探求しましょう。

注目すべき箇所:

・11小節目最後:減七の和音
・14小節目:Ges-durへの転調
・16小節目最後:減五短七の和音(転回形)

特に14小節目のGes-durの I への着地は、柔らかい音色が合う美しい転調です。

 

音色作りのコツ:

・打鍵角度と打鍵速度を調整する
・ペダルの深さの調整
・時間の扱い方
・和音内部のバランス(低音を強調するか、上声を際立たせるか)を検討

 

► 楽譜情報

 

クララ・シューマンによるロベルト・シューマン歌曲の編曲集はいくつかの出版社から刊行されていますが、以下のRies & Erler出版の楽譜をおすすめします。

 

推奨楽譜

・クララによるシューマン歌曲のピアノソロ編曲集 30 Lieder und Gesange fur Klavier

 

 

特徴:

入手性:国内外で広く流通
網羅性:クララが編曲したロベルト歌曲30曲を収録
実用性:原曲の歌詞が掲載されている(デュラン版などとの大きな違い)
資料価値:歴史的価値と実用性を兼ね備える
投資価値:他の編曲作品も学べるため、長期的な投資価値が高い

音楽学習者、研究者、演奏家に広く愛用されている定番楽譜です。

 

► 終わりに

 

クララ・シューマンによる「君の顔」のピアノ編曲版は、歌曲集「5つのリートと歌 Op.127」から唯一ピアノ独奏化された特別な作品です。

作曲家への深い愛と音楽的理解から生まれたこの編曲は、原曲の詩的世界をピアノの響きだけで表現しています。技術的な課題をクリアすることも重要ですが、原曲の歌詞が描く世界を理解し、それをピアノで「歌う」ように表現することこそが、この作品の魅力を引き出す鍵となります。

本記事で紹介した演奏のヒントを参考に、この美しい作品に挑戦してみてください。

 


 

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